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天ノ42話「序列第一席」

 

 ミオリア、十年前突然現れ、神獣イルルクムを倒した男、そしてそのたった一回だけの奇跡の戦闘をアクバ王が目の当たりにし、懐刀に抜擢した。

 当時の序列は第七席で、給料が良いと言う理由だけで、未だにミオリアは懐刀を務めている。

 

「うーん、距離はあと三キロか」

 

 独り言をミオリアは呟く。現在いる場所は魔獣霊峰と呼ばれる領土『サイエスト』に単身で乗り込んでいる。

 目的は、サイエストの領主がウィズアウト構成メンバーの一人、エスエッチであることがタンドレッサの調査で発覚したからである。

 本来であればネフィリ、エレインと共に討伐に向かうはずだったが、アクバ王暗殺未遂事件が尾を引いて今回はアクバ王の信用が厚いミオリアが単身で攻め入ることになった。

 今回の任務は殲滅許可が下りており、ある程度、ミオリアの制約を解除されている。

 

 そのひとつが今のミオリアの動きである。

 ミオリアが通った道に生える草花は軒並み倒れ、細い木の枝は衝撃に耐えきれず、折れてしまっている。ミオリアはあくまで、ただ走っているだけである。

 

 

 とてつもない速さで――

 

 

「あー、だるいだるい」

 そんなことを言いつつ、サイエストを縫うように進み、景色を流すと、すぐに領主のいる屋敷と言う名の動物園の門を蹴破る。

「おー、きたきた」

 所狭しと小型、中型、大型の魔獣が意思疎通しているかのように一斉にミオリアに襲い掛かる。

 短剣を引き抜くと同時に魔獣を一匹残らず細切れにする。

 

 

「来たな、懐刀」

 

 眼鏡をかけたいかにもマッドサイエンティストですと言わんとする。出で立ちの男が館のテラスからミオリアを見下ろしていた。

 ミオリアは瞬きする時間よりも早く、ウィズアウトのエスエッチとの距離を詰める。ジーク以上のスキル数のおかげである程度の高さはミオリアにとってはただの通路と同じ感覚である。

 

「お前に聞きてえことが山ほどあるんだ、答えてもらう」

 ミオリアは柄にもなくドスの利いた低い声でエスエッチを脅す。

「クッ、噂には聞いていたがここまでとは……」

 驚嘆の声を上げるエスエッチは両手を上げて降参のポーズを取る。

「おとなしいな、じゃあ、ひとつ目だ、ネフィリの呪いについて聞かせてもらおうか」

「呪い……?」

 訝し気な表情でエスエッチは眼鏡を傾ける。

「とぼけるんじゃねえ、」

「呪い……ああ、あれは竜の力だ」

「どういうことだ?」

「ネフィリ様は竜の力に蝕まれているのだよ、故に本来あるべき姿に成っていない。我々はそれを救うために活動している。全ては偉大なる天使様のために」

「リツフェルの力か?」

「リツフェル様の能力は不明だが、ネフィリ様の今の能力はリツフェル様由来のものではない。ネフィリ様を蝕んでいるあの忌まわしき力は竜の力、あれさえなければ安定した生活を送れるというのに……嘆かわしい」

 今度はミオリアが首を傾けた。

 ウィズアウトの目的はネフィリの呪いを解くことが目的であり、そこに関してはミオリアと全く同意見だからだ。つまり不必要にイシュバルデ王国に危害を与えなければ問題ないと言うことである。

「同意見だな、俺だってネフィリをどうにかしてやりたいと思っている」

「ふむ、それなら竜の呪いの解き方を教えよう」

 ミオリアはそっと頷いて、話を続けさせる。エスエッチの話は嘘かもしれないが、ここはあえて話に乗り、より多くの情報を得る必要があるからだ。

 

 

「忌まわしき竜の一族の末裔であるアルスマグナを殺害すれば良い」

 

 

「……無理だ」

 アルスマグナを殺害するということは後輩であるジークの想い人を殺すと言うことである。

「竜の力は古来より厄災に携わる力だ。そしてネフィリ様を見てみろ、まともに定住できていない」

「アルスマグナは後輩の連れだ。殺すことはできねえ」

 ミオリアは首を横に振る。

「だが、そうなれば真っ先に苦しむのはネフィリ様だ。ミオリア、貴様の事情は分かったが、我々、ウィズアウトはネフィリ様を奪還し、アルスマグナを殺す。これは決定事項だ」

「……猶予をくれ」

「無理だ、残りの時間はわずかしかない、それにアルスマグナは力を取り戻してきている。完全に復活すれば倒すには容易ではない。全ての分魂を集めきる前にあの竜は我が主たちが始末してくれる」

 ミオリアの心に焦りが生まれる。ネフィリの呪いの猶予が少ないこと、ジークとアルスマグナの身に危険が及ぶこと。急ぎ帰らねばならないと警笛を鳴らしている。

 

 

 そして何より今、最も危険なのは――

 

 

「お喋りが過ぎたな、元々ミオリア、貴様はここで終わる」

 

 

 ミオリアは咄嗟にテラスの手すりに捕まる。直後に鋭い爪がミオリアの立っていたテラスの手すり辺りの空間を切り裂く。

 エスエッチはミオリアとただ会話をしていたわけではなく、魔獣を用意し、ミオリアに一撃与えるチャンスを狙っていた。

 間一髪のところでミオリアは魔獣の一撃を回避する。と言っても頬が少し切れているのか血が垂れている。

 この程度の怪我であればミオリアの自己再生スキルでどうにでもなるため、ミオリアは血液を拭うだけで済ませる。懸垂の要領で体を持ち上げて手すりを乗り越える。


 ミオリアは周囲を見回すと、既にエスエッチの姿はない。開いたままの扉はテラスから中へ通じている。ミオリアは、エスエッチを追いかけるために開いた扉に入る。

 レンガ造りの概観通り中も西洋の建物を彷彿させる。エスエッチの趣味か壁も床も病院のように白色を基調として、清潔感のある内部になっているが、建物内は魔獣を飼育しているためか拭いきれない獣臭さがある。

 足音が響くためかエスエッチが走っている音も聞こえる。音を頼りにウィズアウトのエスエッチを追いかける。

 

 だが、通路の所々に魔獣を配置し、ミオリアの足を阻む。魔獣そのものに苦戦するというより魔獣の身体によって通路を塞がれているということに悪戦を強いられているという感覚に近い。

 

 魔獣を倒したところで死体によって道は塞がれる。

 レンガとコンクリートによって作られたこの建物はかなり広いく、建物だけでも二階建てのショッピングモール程度ある豪邸だ。ここをちょろちょろされてはミオリアが見つける前に退避されてしまう。

 足音が遠くなったり近くなったりエスエッチが階を変えて移動しているのが分かった。床に耳を当て、音に集中する。短剣を腰につけた鞘に収めると目を閉じる。

 

 カツンカツンとエスエッチの革靴の音が近づいているのが分かった。

 足音が最大になったところでミオリアは地面を殴りつける。

 

 炸裂音と瓦礫が崩壊する音が響いた後、エスエッチの狼狽する声が響く。

 砂埃の中からミオリアが姿を現す。

 

「化け物め……」

 エスエッチは呟く。

「鬼ごっこは終わりだ」

「どうかな?」

 エスエッチは壁に埋め込まれていたスイッチを押すと、天井から隔壁が下がる。ギロチンが落ちる様な速度で隔壁を閉ざす。

 そして後ろからは蜘蛛の魔獣が現れる。

 

「おい、嘘だろ……」

 蜘蛛の魔獣を注視したミオリアは顔を顰めた。

 蜘蛛の魔獣の見た目はタランチュラを人間よりも大きくしたような様相だが、よく見ると蜘蛛の身体には人間の手足や、顔のパーツなどが飛び出しているのが分かる。

「やりやがった、魔獣と人間を混ぜたのか……?」

 激怒したミオリアは短剣を右手で引き抜く。

 蜘蛛の魔獣に刃を向けると、空中で刃を何度か滑らせる。

 衝撃音と共に、両サイドの壁に爪痕のような傷を深々とつけながら蜘蛛の魔獣を葬る。

 

 

 隔壁を左手で殴り、通路の道をぶち抜くと、怒りの形相でエスエッチを追い詰める。

 

「チッ、竜狩りの一撃にも耐えられる設計だったが計算違いだったか、まさか速いだけのミオリアにすら遅れを取るとは」

 

「早いだけ、だと……死ぬ前に教えておいてやるよ、俺の能力はジークより上だ。スピード、体力、武器の扱い、そして腕力全てにおいて勝っている。そろそろ腕力は追い抜かれそうだがな、だからジークの一撃にしか耐えられないようなら、俺の一撃も通る」

「馬鹿な、そんなデータどこにもない」



「おい、クソ天使、教えてやるよ、俺は懐刀の中でも序列一位、個人戦においてこの国で俺より強い人間はいない。最強の称号を持っている」

 

「イシュバルデ王国最強の称号……まさかお前っ!」

 エスエッチは全ての合点がかみ合い、そしてそれから導き出される結論を瞬時に理解して顔を青くさせた。

 真っ青な表情の顔は既に地面を付いている。あたりは血だまりが出来ているがミオリアの任務はこれで終了した。

「任務完了、ああ、それとアジサイにこいつは土産として持って帰っておくか」

 次元倉庫から袋を取り出すと、エスエッチの顔と体を詰めてまた次元倉庫の中にしまう。

 

「じゃあ、帰るか」

 

 ミオリアは来た道順をそのまま逆にしてテラスから飛び降りて屋敷を後にした。

 今回の任務は一人で尚且つ勅命により最大出力で加速することを許可させられているため、ミオリアは二時間で王城まで帰還する。

 

「戻りました」

「おお、ミオリアか、四時間で任務を遂行したか」

 アクバ王は機嫌良く玉座に腰を据えている。

「正確には四時間と三十分です」

「誤差だ、それで情報は得られたか?」

「ええ、いくらか――」

 

 

 

 ミオリアは任務で起きた出来事を全てアクバ王に報告する。

 

 

「なるほど、困ったな、ミオリア」

「エスエッチの話が正しければの話ですが」

「おそらく本当だろう、ダブルピーに洗脳されていた者たちも似通った話をしていたとタンドレッサが報告していた」

「そうですか……」

 

「ミオリア、お前はどうしたい? この問題はどちらに転ぼうがイシュバルデとしては損害が出る。アルスマグナが死すれば豊穣が途絶え大勢の民が飢えることになるかもしれない。ネフィリが死ねば、王城が保有する最強戦力の一角が喪失するとなれば、それを皮切りに反政者たちが反逆を起こすやもしれぬ、選べ」

 低い声音でアクバ王、威圧するようにミオリアに選択肢を与えた。

 

「アルスマグナは殺せない、ネフィリも死なせたくない」

 

「では、そうなるようにせよ」

 

「はっ!」

 

「竜狩りを呼べ! それとアジサイも呼べ!」

 

「アジサイは何故招集するのでしょうか?」

 

「いやなに、あの者の報告書、少し誤字が多いのと内容が偏っていることを言ってやりたくてな」

 

「それだけですか……」

 

「それに、お前とジークだけではまとまる話もまとまらないであろうと思ってな、ここはひとつ緩衝材を用意するべきであろう。旧友であるアジサイなら話しやすく適任だ。それとウィズアウトのエスエッチの根城を調査させるのもアジサイが向いているだろう」

「御意に」

 

「ミオリア、懐刀最強の見せてみよ」

 

 三日後の十一月二日にジーク達はミオリアの指示で王城に呼び戻されることとなった。

 

こんにちは、白井です。

手違いで投稿を1日前倒しにしてしまいました。

申し訳ありません。次週は火曜日0時きっちり投稿します。

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