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竜ノ28話「エルフ、ドワーフ、はかいしん」

 ジークたちはバロック討伐後、即座にニンギルレストを離脱し、現在はレイペール山脈経由で王城に向かっている最中であった。

 レイペール山脈は王城から見て北東に位置し、ニンギルレストに隣接する山脈であり、元々は鬼神族の住まうとされる場所で、今でも陵墓があると言われている。

 また伝承では鬼神族の陵墓の下には竜霊廟と呼ばれる場所があると言われている。これはかつての戦友であった龍神族と友好の象徴とも言われている。

 だが、レイペール山脈は霊峰と言われるほど険しく高い山で雲に覆われて全貌を見た者がいないと言われている、事実王城の資料庫でさえレイペールの詳しい立地は記録されていない。

 さらに東からはニンギルレストの極寒の風、西からはバジュラットというドワーフ達が住む活火山地帯からの熱された風がぶつかり合うために天候も常に悪く、旅人でも迂闊に近寄らないような場所である。

 ジーク達はその山脈の端を縫うように迂回しながらイシュバルデ王国に向けて歩いている。


「ジーク様」

「どうした?」

「武器をこれからどういたしますか?」

 ジークはバロックとの一戦で大太刀とアイスアックスを破壊している。一本はバロックとの戦いの最中に、もう一本は竜の頭蓋を破壊する際、無理に力を加えたせいでブレード部分が見事に折れていた。

 見事にジークは自分の得物を全て壊し、非常に身軽な状態であった。

「それなぁ……」

「一応、この辺りはたしかファブニールが封印されていた山があったはずです、ドワーフ達が鉄を打っていると噂を耳にしました」

「ドワーフ……なんかそれだけで優秀そうな響きだな」

「では早速行きましょう」

「行先は決まりだな」

 

 アルスマグナは頷くと、遠くにうっすら見えるレイペール山脈を眺めていた。

「気になるのか?」

「ええ、あそこに偉大なる我が主たちの盟友が祀られているのだなと思っておりまして」

「ああ、さっき教えてくれたあれか」

「ええ、しかも陵墓の下には竜霊廟があると聞きます。龍神族は空神族と天使族の戦争に敗北してしまい、龍神族と鬼神族の文化を破壊したそうです。だから今、イシュバルデ王国にある二種族の物理的な痕跡はもうどこにもないそうです」

「物理的な?」

「はい、口伝による伝承などが人伝に広がっているそうです。眷属である竜は未だに健在ですからね、私のように」

 アルスマグナは自慢げな表情は顔に出さなかったが言葉を強調しているところから

「鬼神族はなにも残さなかったのか?」

「そうですね……演舞でしょうか……」

「演舞?」

「武器を使った踊りですね、各地域で色々な派生がありますが、文化破壊があったのでいくつかの演武は断絶しているかもしれませんね」

「演舞ね……」

「優雅で繊細、それでいて力強い舞ですよ。その力強さから演武とも言われています。武を演ずると書いて演武」

「そんなのがあるのか」

「機会があれば見れるとよいのですが、最後に見たのは何百年も前ですからね」

「そうだな」

「アジサイに見せてやりたいな」

「アジサイ様に踊りも嗜んでおられるのですか?」

「いやいや、あいつはそんなんじゃねえよ、あいつは、そうだな……知識欲の化身みたいなやつだからな、知らない物、知らない事に対して物スゲエ好奇心を持っているのさ」

「知識欲ですか……」

「現にアイスアックスを作ったのはアジサイだ。あんな形状の道具を見たことがないだろ?」

「たしかに……そうですね」

「まぁ、ぶっ壊しちまったけど……」

「流石に竜三体分の力を行使したら普通の道具ではすぐに壊れてしまいます」

「竜三体?」

「竜を倒すと光になりますよね?」

「ああ、死体が残らねえからな、血痕の一滴も跡形もなくな」

「あれは竜の肉体が討伐者に捧げられるからです。所謂、力の譲渡になります。武具になるケースや不死性を手に入れる、神性を持つなんてこともあるそうです。それだけ竜は大きく力強い生き物なのです」

「じゃあ、今の俺は……」

「竜の筋力に加え、再生能力、そして私の能力の一部をジーク様は手にしています竜眼、竜殼が顕著な例になります。竜の魂だけは私の元に帰りますがそれ以外はジーク様の物になります」

「そうか……だから以前よりも腕力が付いているわけだ」

「そのうち、バロックの肉体がジーク様に適応すれば、新たな能力を手にすることが出来るでしょう」

 アルスマグナは断言した。

「新しい力かぁ」

「私も、着実に力を取り戻していますからね」

「それは良かった」

「半分あれば竜の姿になれると思います。今までは力をセーブしていましたからね」

「ということは今のその姿は省エネモードなのか……半分竜の姿って……」

 ジークは頭の中で上半身が竜の姿で下半身が人間の姿のアルスマグナの姿を思い出して、得も言えぬ光景をすぐに脳内で払拭した。

「見たいですか?」

「……いや、今はいいや、魔獣に襲われた時にでもやってくれ」

 ジークは即断した。

「そうですか……」

 

 

 

 ジーク達は残りの食料を食いつぶしながら迂回ルートを二週間かけて踏破し、ドワーフたちがいると言われているバジュラッドに到着した。

「ついた……」

「危なかったですね、あと食料用のバッグが空っぽです」

 ジークは久々に街の喧騒を聞くことが出来、安堵が心に座り込んだ。

 

 たっぷりの昼食を摂ったあと、ドワーフの街をし始めた。

「さて、鍛冶屋は……」

 ジークは鍛冶屋街という標識が示す通りに歩みを進めると、コークスが燃える臭気が鼻腔をくすぐった。

「ここで間違いないようですね」

「ああ、しかし、この臭いは服に付くから先に宿を探してきてくれないか?」

「かしこまりました」

 アルスマグナはジークに背を向けて来た道を戻っていった。旅装束がお気に入りの服のひとつであるアルスマグナにとって服を汚すのは嫌だったらしい。

 女の子らしくてかわいいとジークは心の中で呟いた。

 

 ジークはドワーフ街を見て驚いたのはドワーフ達の姿であった。ジークがイメージしていたドワーフ達は短足短腕短躯というイメージだったが、ジークが見る限りドワーフは身長が二メートルほどあり、丸太のように太い両手両足を持つ巨躯の種族だった。

「人間がここに来るのは珍しいな」

 店に入ってすぐにドワーフの男に声をかけられた。

「旅すがら武器を壊しちまってな、新調しようと思って、ここの武器がいいと耳にした」

「人間の鍛冶師とは腕も素材も技術も上さ、何が欲しい?」

「なんでもいいができれば大太刀がいい、武器を試してみたいがいい場所はないか?」

「こっちに来な」

 受付のドワーフ男が手招きした。受付の奥にあるレンガ作られた通路をジークは歩いた。

「この辺りは鍛冶屋が店舗はここだけであとは全部作業場、卸しているのは基本、ナイフやハサミなんかの日用品だが、武器も時より王城に卸している。所謂、王室御用達なのさ」

「へぇ、品質には期待できそうだ」

「王城の鍛冶師はここで十年修行したやつらだから腕は立つが最新じゃねえのさ、それに旅人さん武器が目当てだろ? 今日は運がいいな、ちょうど武器の試し切り、つまるところ鍛冶の腕比べの日なんだ、試しついでにいっちょ協力してくれ、その分安くするからよ」

「ああ、いいぜ、あんま腕に自信はねえけど」

 そんな会話をしながら会場に着くと、ドワーフ達が自分の武器を持って丸太や岩などに武器を打ち付けている。

 

「おい、野郎共、試し切りをやってくれる旅人さんが着たぞ! えっと名前は……」

「ジークだ」

「ジークさんだ!! ……今なんて?」

「ジークだが?」

 会場にいるドワーフ達が騒然とし始める。

「竜狩りジークなのかい?」

「ああ、そんな呼ばれ方もしている」

 

「ジークさん、うちの武器を試してみてくれねえか? よく切れる剣だぜ、刃は剃刀みたいに研いである。きっとドラゴンにも通用するぜ」

 白い髭の蓄えたドワーフの男が自慢のロングソードをジークに差し出した。

「おう、いいぜ」

 ジークはロングソードを右手で受け取ると、試し切り用の石柱の前に立ち、ロングソードを二割くらいの力で振り下ろした。

 石柱に叩きつけられたロングソードは無残にも折れて粉々に砕けた。

「……お世辞でもこれじゃ竜の身体は切れない」

 ドワーフ達は狼狽した表情をしていた。コソコソと話している言葉に耳を傾けると「まさかあいつの剣がぶっ壊れた」「信じられねえ」「本当に人間か?」などと散々に言われている。

「次の武器、できれば両手持ちがいい」

 ドワーフ達は次々と、剣や斧、槍に戦槌などをジークに渡すが無残な姿になって帰ってくるものばかりだった。

 

 

 ジークが破壊した武器の数が百を超えるか超えないかくらいの時、若いドワーフが武器を引きずりながら現れた。

「竜狩りさん、これはどうだい?」

 息を切らせながら若いドワーフはジークに武器を渡した。

「馬鹿おまえ、それは売り物にならねえガラクタだろ!」

 師匠らしき人物が心の折れたドワーフたちをかき分けて怒鳴りつけるように強い言葉を放った。

「それは……」

「自分でも持てねえ武器を作ったってどうするんだよ!」

 そんな会話を遮るようにジークは若いドワーフの前に立つと、武器の柄を握り込んだ。

 今までのドワーフの武器と違い、確かに重量感があったが、ジークにとっては片手で振れる程度の重さでしかなかった。

「ゲームに出て来るバスターソードみたいだな……」

 鰻包丁のサイズを間違えたようなその重厚な厚みのある刃に、二十センチはあるだろうという幅のある大剣だった。

「ウソだろ、あのデカブツを片手でしかも羽でも掴むみたいに持ちやがったぞ」

 ドワーフたちが騒然としている。

「どれ試してみるか」

 石柱の前に再び立つとジークはバスターソードを片手で振り上げると、そのまま振り下ろした。

 石柱は聞き慣れない音と共に叩き折れた。

「まぁ、俺にはちょうどいい重さかも知れねえな」

 若いドワーフは喜々とした表情をしたが、次のジークの言葉で顔を青ざめることになった。

「だが、強度が足りない」

 ジークは大剣を地面に突き刺すと拳を前に突き出した。

 先ほどの石柱同様にぽっきりと折れてしまった。


「ここじゃ、俺に合う武器はなかったか……」

 残念そうにジークはため息をついた。

 

「何だとコノヤロォ!」

 

 ドワーフ達は血の気を多くして闘争心を燃やした。

 

「お、どうした?」

「作ってやるよお前の腕力でも壊れない武器をよぉ!」

「大太刀を作って欲しい、できればの話だが」

 念を押す様にジークは職人魂の神経を逆撫でした。


「一週間だ、一週間あればできる」

「じゃあ、一週間待ってやるよ、何なら素材でも集めてきてやろうか?」

 どうせジークはアルスマグナの分魂を見つけるまでしばらくどうせ暇であるためドワーフ達には十分付き合うことができる。

「そうじゃな、魔獣の素材や希少金属も使いたい、手を貸してくれ」

 

 

 こうしてジークはドワーフ達と試行錯誤し続けて武器開発をした。気づくと一週間ではなく二か月もバジュラッドに滞在することになった。

 

「あれ、今日何日だっけ?」

「八月二十八日ですね、バジュラッドに来てちょうど二か月になります」

「まじか……納期だいぶ遅れてるなぁ」

「ジーク様はもはや竜殼を纏った拳で戦った方が良いのでは?」

 アルスマグナは的確なツッコミを入れるが、ジークは首を横に振った。

 

「せっかくの異世界なのにそれは、ちょっと浪漫がねえ、ここまで来たんだ見てみたいだろ?」

 ジークは次で十八本目の試作品をレビューするために今日も鍛冶屋街に赴いた。

 

「よぉ、破壊神」

 ドワーフ達が真っ赤に焼けた鉄を打ちながら

「おう、ガラクタ製造師ども、今日もぶっ壊しに来たぞ」

「調子が良さそうだな、そうじゃなきゃ困るぜ」

 ジークが鍛冶屋街を歩けば次々とドワーフ達が声をかけた。

 ドワーフ達が作る業物たちを次々とガラス細工のように壊してしまう鍛冶師たちは、闘志を燃やしたからだ。長らく戦争がないこの国で、武器の需要が減ってしまい収入よりも先に技術がさび付いてしまいそうなドワーフ達にとってジークと言う自分たちの技術が全く通用しない化け物と出会い、錆び付いた技術が再び動き出したのだ。

 この国の軍事力の要である武器職人総出でジークの武器を生み出そうとしていた。

 

 ジークは、ドワーフ達に言われるがまま、火山に赴いては希少鉱石を採取し、魔獣の素材が必要ならば狩に赴き、その肉体ひとつでドワーフ達の欲した物を提供した。


「これが新作?」

 ドワーフ達は今度こそはと言う表情でリベンジをジークに挑んだ。

 刃渡り五尺(約150cm)に幅が半尺(約15cm)ほどの大太刀が専用の台に置かれていた。

「竜鉄鉱をベースに、エルダーパインの炭と合わせて七日七晩の間ひたすら竜鋼を精錬し、そこに鋼鉄以上に硬い金属の牙を持つエンヴァルスタイラントの牙を加え、あらゆる衝撃を緩和する殻を持つアダマンタイマイの甲殻、そして、アルスマグナさんの外殻の一部を混ぜた合金を十回折り返し素材の性質を均一にす――」


「ちょっと待て」

 ジークはドワーフの話を遮る。

「おう?」

「今、アルスマグナの甲殻って?」


「その話は私から」

 ドワーフ達が道を開けるとアルスマグナが歩み寄ってきた。

 アルスマグナはいつもの黒いロングドレス姿で、久々の格好にジークも懐かしさを感じた。

「聞こうか」

「結論から言うと私が脱皮の時期で、抜け殻をそのままにしておくのもあれだったので外殻をドワーフ達に差し上げたのです」

「脱皮するのか……」

「これでも正真正銘の竜ですから」

「そうだった……」

 アルスマグナはため息を付くとジークに向かって鋭い視線を送った。

「さてと、私の肉体の一部で作られた武器なのですから、ファブニールに劣るとは言え、それなりの物のはずです。私が直々に試してみましょう」

「お前がやるのか」

 ジークはアルスマグナに聞くと、彼女は首を横に振った。

 

「それがこの先の戦いでジーク様が使えるに値するかどうか、実戦にて推し量るだけです!」

 

 ドワーフ達は、武器性能を審査する内容で最も過酷な試験を後にこう呼んだ。

 

 

 ジーク・アルスマグナ試験と――

 

 

 一部のドワーフたちからはこの時のアルスマグナについて「二か月も放置されまくって機嫌が悪くなった彼女が彼氏にひたすら八つ当たりしているのでは?」と実しやかに囁かれた。


 この後、三度に渡る改良と、エルフの腕利きのエンチャント技師を呼び、エルフとドワーフの合作でようやくジークの怪力に耐える作品が出来上がった。


 六月から始まり十月の頭までかかった長い長い武器作りがようやく終わりを迎え、アルスマグナはご機嫌な表情でジークにぴったりくっついてドワーフの街を去って行った。

 

 この武器が壊れて、ドワーフとエルフが大泣きするのはそう遠くない未来の話である。


 そしてそれが意味するのは――


壊れた武器を新調する話でした。

別にここまでかっつり書かなくてもよかったのですが、個人的に書きたかったので書きました。

ただ、本編としては冗長なものであるので、書きながらどうかなぁっと思っております。

こんな感じで幕間をチラチラ入れますが最後までお付き合いください。


それではまた。


次回、天ノ29話「アクバ王の首級」

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