使ノ107話「忠誠のレオニクスの殉職Ⅱ」
忠誠のレオニクス、懐刀でも屈指の人格者であり王城の防衛を任命されている。人柄と実力も相まって兵士たちからの支持は厚い。
その支持されるというところから貴族連中から疎ましく思われており、幾度と無く暗殺が行われたがいずれも無傷だった。
貴族達は訝しんだ。レオニクスには何か秘密があると探りを入れた。
それに気付いたレオニクスは貴族達をアクバ王のところへ呼び出し、自分の出生について話した。
レオニクスの父親はアキレウスという冒険者で、その界隈では知らぬ者がいないほどの豪傑である。
このアキレウス、生涯で伴侶となる女を作らなかったことで有名だった。と言うのも有名になりすぎて貴族達から疎ましく思われていたからだ。下手に伴侶など作れば弱みになりかねないからだ。
だがレオニクスは間違い無くアキレウスの子供である。
母親は誰か、アクバ王を含め貴族達が追及した。
レオニクスは口を開くとアクバ王は目を見開いて驚きの声を漏らした。
何せ、レオニクスは神獣と人間の混血児であるのだから。
母親の名前はペンテシレイア、美しい女性の形を成した化け物である。
彼女は植物生い茂る領土キュリートを根城とし、草木の女王として君臨していた。
ある日、アキレウスはキュリートの領土の調査を貴族達に依頼され旅立った。キュリートは熱帯雨林のようなところで非常に蒸し暑くアキレウスは草木を掻き分けてキュリートの深奥に入り込むと、木々たちが規則的に組み込まれた場所にたどり着いた。
まるで神殿のような幻想的な建物に入るとペンテシレイアは玉座にもたれ掛かって寝息を立てていた。
緑の髪に妖艶なまつげ、純白の透き通る肌の下にある引き締まった筋肉が色っぽさを助長させる。
そして彼女が人間でないこともここで悟った。
その姿に暫時、見とれているとペンテシレイアは目を覚まし、アキレウスがいることに気付いた。
アキレウスは美しさのあまり敵意を完全に失っていた。それを感じ取ったペンテシレイアはアキレウスを客人として招き入れた。
アキレウスに「何を求めてここに来た?」と問うと、アキレウスは「珍しい物を探しに」と答えた。ペンテシレイアは正直なアキレウスの答えを聞き、満足した。
「しかし、既に得ております」
アキレウスは言葉を続けた。
「何を取った?」
「あなたの美しさがあれば良き土産話になります、私にはこれで十分です」
ペンテシレイアはその言葉に目を丸くし、アキレウスを良く思った。旅の疲れもあるだろうと考えアキレウスをしばらく神殿に泊めさせた。
ペンテシレイアはアキレウスにキュリートの外であった冒険譚をディナーに聞き、夕食に彩りを並べた。
最初は三日泊めるつもりだったが一週間、一ヶ月と時間は過ぎていった。
ペンテシレイアはアキレウスという人間に恋したのだ。
しかし、アキレウスは王城に帰らねばならない刻限が近づきペンテシレイアに別れを告げるともう一晩だけ泊まって行けと懇願された。
最後の夕食を終えると、ペンテシレイアはアキレウスに結婚を申し入れた。
アキレウスは二つ返事で承諾し、寝床を共にした。
そして、アキレウスが王城へ戻り、キュリートに帰ると約束した。
しかし、アキレウスがキュリートに戻ることは無かった。
二十年、ペンテシレイアとその子供であるレオニクスは帰りを待ったが、終ぞ帰ってくること無かった。
ペンテシレイアはレオニクスを王城に送り、アキレウスを探しに向った。
レオニクスは王城に着くが、町のルールを知らないため、様々なところで困惑を隠しきれなかった。
町中で城はどこかと尋ね歩くと一人の男が快く王城に案内してくれた。その男はミオリアと名乗った。二人でアキレウスという男についてアクバ王に尋ねると、アキレウスは毒殺されていた。
二十年前の事件のため真相は闇の中だったが、アキレウスが死んだことは事実だった。
レオニクスは落胆し、キュリートに帰りペンテシレイアに事実を伝えるとショックのあまり床に倒れ、日に日に衰弱しレオニクスに見守られながら息を引き取った。
「アキレウスはこの国を愛していた。遺志を継いで欲しい。私の力を授けます」
ペンテシレイアは最後にそう言い残した。
レオニクスは母の死以来、特別な力を使えるようになった。
そしてレオニクスは肉体一つで懐刀まで上り詰めた。
その事実を知った貴族達は怖じ気づいてレオニクスを暗殺することは無くなった。
アクバ王に頼み、アキレウスの墓にペンテシレイアを埋葬する許しを得てペンテシレイアの亡骸を墓に納めた。せめて亡骸だけでも共にあるべきと配慮したからだ。
これがレオニクスの物語である。
レオニクスは戦場で目を覚ます。戦いに疲れ、死体の山で眠っていた。
むくりと起き上がると槍を拾い再び天使を殺し始める。
亡き母の言いつけを守るため、レオニクスはこの国に忠誠を捧げる。
そして三年の月日が流れた。