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使ノ106話「忠誠のレオニクスの殉職Ⅰ」

 

「まずいですね、グーラント殿が倒れた今、天使が一気にこちらに雪崩れ込みます。我々は対空能力を持ちません」

 レオニクスは頭を抱えていた。

「そうですねえ、グーラントは二年もヴィストークで粘りました。」

 アンタレスは紅茶を飲みながら一息つく。

「アンタレスさん、対空に注力してほしいと言っていましたがいくら何でも無茶です」

「そうですね、でも少しでも数を減らさないとレオニクスさんの隊列もあっという間に崩れてしまいます」

「それはそうですが……」

「この平原リカーネは王城の目と鼻の先、ここで天使を食い止めねば、ミオリア殿が帰還するまで」

「最初の二年は平和でしたけど、三年目からヴィストークは地獄でしたからね。グーラントも援軍を呼べばいいものを……」

 レオニクスはやるせなさに打ちひしがれる。

「復讐も兼ねていましたからね……それに愛して止まない海で果てたのは救いなのかもしれません」

 アンタレスはマグカップの底を覗いてため息をつく。

 

 静寂を裂くように魔術砲撃の音が天使対策で建てられた外壁の方から聞こえた。

 

「これからどれだけ引き延ばせることやら」

 レオニクスは静かに短剣と帯刀し槍を右手に体を隠せるほど大きな丸い盾を左手に持ち、城壁へと向った。

 アンタレスは最後の一口の紅茶を飲むと立ち上がる。

「あ、私も出ないと」

 アンタレスはのんびりと防衛拠点の櫓に登った。

 

 

 レオニクスが最前線に到着すると既に部下達が隊列を組み臨戦態勢となっていた。

「レオニクス隊長、早速お出ましです。流石天使と言ったところでしょうか人間なら三ヶ月かかる距離を一ヶ月で走破してきました」

「我々も負けていられませんね、次からトレーニングに取り入れましょう」

「訓練で死人を出すおつもりですか?」

「死なないところから訓練ですね」

 レオニクスはそう言いながら隊列を組む部下の一人一人の肩を叩いて鼓舞する。

 

「皆の者、敵は強く速い、我々一人一人では到底太刀打ちできない。懐刀、狂乱のグーラントが殉職した。これは事実だ。しかし、我々は立ち向かわねばならぬ。イシュバルデ王国の礎になり、最後一片たりともこの国に忠誠を示すのだ!」

 レオニクスの声が平原に響くと、兵団は一斉に武器を掲げ共鳴する。

「此度の逆賊は我らをより強くより硬くより高くしてくれる。容赦なく掛かるのです!」

 

「おーッ!!」

「進め!」

 

 レオニクスと先遣隊である三百の軍は平原のリカーネに建設された外壁の先で足音を同調させながら進む。

 対する天使族は魔法砲撃をレオニクス軍に浴びせる。

「そんな豆鉄砲、我らにとってハイキングに来たようなものです。盾を構えるほどのことでもない」

 レオニクスはそう言うと盾を下げて天使軍に向って全力疾走を始める。

 

「走れ! 速ければ速いほど敵を狩れます。一人でも多くの死体の山を築くのです!」

 最後尾にいたレオニクスはいつの間にか先頭を走り抜け我先にと天使の前衛へと飛び込む。

 そこから始まったのは国の中枢を担う戦闘狂の奇行である。

 

 レオニクスは槍を振るうと天使軍の前衛が瓦解を始める。防壁魔術はレオニクスの筋肉に負け一撃で破られ、先遣隊がレオニクスに一斉に襲いかかるが百、二百の並ですらレオニクスを阻むことは叶わない。

 前衛が崩れた瞬間、レオニクス続く三百の兵たちが奥へと侵攻を始める。

 三百と一の盾が天使軍を押しつぶし圧搾しリカーネの土を赤く染め上げる。前に進むのなら歴戦の槍の穂先が胴体を貫く。

 

 この圧倒的な武力と鋼の精神、そして乱れることのない統率された指揮、何よりももっとも恐ろしいのが――。

 

 レオニクス軍の一人一人が死を恐れていない。この一点である。

 

 

「一人、百は殺しましょう! それまで帰りませんからね!」

「了解!」



「空から進軍!」

 部下の誰かがそう叫ぶ声を耳にする。顔を上げると空を覆い尽くす勢いの天使達が現れる。

 空が陰ったと思うと妙な発光が点々と現れる。魔術砲撃が始まる寸前である。

 

 空が闇に包まれる。

 

 目がくらむように周囲から光が消える。

 

「総員!! 空を見てはなりません!!」

 

 レオニクスは盾で自分の顔を覆うとその場に蹲る。

 

 直後、闇夜の空にロジックツリー状に伸びた光線が空を覆い、やがて地上に降り注ぐ。

 天と地を焦がす一撃で空に君臨している天使たちは撃墜され、地にいる天使達は焼き焦げた。

 この、悉く一切を焼き焦がす光線を見た者は神罰と揶揄した。

 

 それが由来し生まれた名が神罰のアンタレスである。

 対多数戦におけるスペシャリストである彼女が懐刀で一番、敵に回したくない女傑である。

 レオニクスは何度見てもこの一撃だけは物怖じする。直ぐさまの胸を叩き鼓舞すると立ち上がる。

 

「まだまだぁ!」

 

 レオニクスは眼前に広がる敵兵に向って槍を走らせた。

 鮮血浴びようが、足が棒になろうが、敵が前にいる限り後退することはない。苦痛は無視し、敵将を討ち取る機械に自分を落とし込む。

 その有り様は歴戦の猛者であり、戦神が取り憑いているようだった。

 

 忠誠のレオニクスの物語が始まる。



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