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龍ノ101話「双子の竜ウロボロス」

 黒い砂が一面に広がる砂漠、領土オニキサート、平坦な砂の世界にジークはいる。

 竜風の力を得たことで周囲の生物の息遣いを察知し、自身の脈打つ音も鮮明に認識することができる。

 この竜風、風を操ることもさることながら、自身の呼気を操ることができるため、今まで切り替えて使っていた龍神演武各種が同時に使用できるようになった。

 

 大太刀を背負いジークは黒い砂を踏みしめる。

 

 何度目かの夕日がジークに差し込む。

 荷物を降ろし、野営の準備を始める。そろそろ水の貯蓄も乏しくなっている、捜索を打ち切る判断を下す時は近い。

 太陽が沈みきると星々が燦然と輝き始める。やることも無いためジークは荷物をまくらにして眠る。

 荒涼とした風が吹く。乾いた空気おかげか思いのほか過ごしやすい環境だ。強いて言うなら水と食えそうな生き物がいないのが残念である。

 欠伸をしながら空を見上げる。ジークが持つ黄色と紅色の瞳に星は吸い込まれる。徐々に瞼が落ち始めいい具合の眠気が来ると、静寂の中に僅かに聞こえる昆虫などの生き物の音、風の音色、今まで雑音と一蹴していたものがここでは彩られた芸術のようだ。

 眠気が最高潮に成ったとき、ジークは落下した。

 

 地面が揺れ、巨大な蛇が周りの砂諸共ジークを丸呑みにしたのだ。

 

 ジークは体を翻し何とか初撃を躱す。大太刀に手をかけようとしたが空を掴む。大太刀は先ほどの攻撃に巻き込まれ飲み込まれた。

 大太刀がないのであれば、拳で戦うのみである。竜殻を展開し前を向く。

 

 巨大な竜がいた。目はジークの体より大きく、鱗が覆われている。大きく開いた顎は全てを飲み込みそうなほどだった。

 手足は退化しており見受けられず、蛇のような姿をしていた。

 ジークは拳を構え相対する。

 

 相手は巨大な蛇である。

 

 双子の竜ウロボロス、名の通り二体で一つの竜である。

 

 まずは腹の大太刀を取り戻す。

 ジークは呼気を操り、水と雷を展開する。

 今までも同時に異なる演武を行っているように見えるが、厳密には切り替えて使っている。

 これが同時に使えるのは一見すれば同じ動きにも見えるが技の練度が大幅に上がる。

 

 例えば――。

 

 龍神演武炎ノ型と龍神演武雷ノ型を並列動作させることで生み出される速度と力の暴力を相手に浴びせる。

 ジークは龍神演武炎ノ型を練り上げながら迅雷が如くウロボロスの正面に跳ぶと烈火を集約させた一撃を浴びせる。

 黒い砂粒は蝋燭のように溶かし、熱波が衝撃波となって領土を震撼させる。

 

 ウロボロスの頭部は焼け落ちるどころか全身の一切合切が灰燼と化す。

 ジークは灰の中から大太刀を取り出すと刃を抜く。

 地鳴りが響く、まだ終わっていない証拠だ。

 

 溶け固まった砂の一枚岩を突き破るようにウロボロスが飛び出す。

 

 数は二匹。

 

 ジークは顔をしかめる。先ほどウロボロスの一匹を確実に殺した手応えがあったからだ。

 ジークの手の中でウロボロスは確かに死んだ。しかし、生きている。どちらも現実だがその正体不明の現象がジークに焦りを生ませた。


 仮説を立てる。

 

 双子の竜ということもあり二体と想定されていたが実際は複数匹いるパターン。この仮説ならこの現象に説明が付く。

 ジークは大太刀に炎を灯し、雷を鳴らす。砂漠に大雨を降らせ暴風を巻き起こす。

 その全てを中心にジークはいる。

 

 ミオリアがいたら、どっちが悪役かわかったもんじゃねえと笑っただろう。

 

 

 竜のように飛び、竜のように吠え、人間として戦う。

 

 好敵手に感謝と敬意を表し、天にも響く一撃で一体目のウロボロスを蹴散らすと、二匹目の方にすかさず斬りかかる。この攻撃も勿論外す事は無い。

 ジークは地面に着地するが、演武を解くことは無い。

 数秒しないうちに地面からウロボロスが顔を突き出す。

 

 奥歯を噛みしめる。


長い、戦いになりそうだ。

 

 心の中で呟く。

 

 気圧されるな殺される。相手は獣、対するジークは人間。賭けられるものは己が命以外他にない。

 このオニキサートを破壊する覚悟で戦うことを誓う。

 

 出てくるなら殺す、相対するなら殺す。

 

 さて、ウロボロス。

 

 ジークは心の中で呟く。

 

 こう、笑いながら――。

 

 何回でも、何回でも戦おうや。

 

 それは自分への発破か、それとも竜と戦うということに楽しみを見出したのか。

或いは、どちらとも言える。


 



 ジークは笑う。

 楽しんで竜を斬る。一心不乱にウロボロスを一体、また一体と斬り殺す。

 

 斬って。

 

 斬って。

 

 殺して。

 

 殺して。

 

 重ねること千を越える頃。昼も夜も朝も夕も全てを忘れて。

 薄々気付いていたことに目を塞ぎながら。

 

 いつまでも時間をかけて良いなんてことはない。

 ただ、今は自分の磨いた技を放ち、相手の手ひどい攻撃を食らい、お互い血だらけになりながら身を削るように戦う。食事は目の前にいる竜に噛みつきそれを飲み込む。

 ひたすら打ち合いを続ける。強力な竜とこれほど戦える機会も少ない。同種とは言え確実にジークを粘り強く、そして硬く研ぎ澄まされた刃に変えていく。

 オニキサートは幾度と無い火災、洪水、暴風、落雷により酷く荒廃していた。黒い砂粒は熱で溶け、水で浸食し風で削れていた。

 

 幾重に牙と刃は折り重なり、肉を断つ。

 

 ジークは、溶け、冷え固まった地面に立つ。

 

 空は雨模様だ。

 

 ジークは大太刀を構える。

 ウロボロスは二体が同時に飛びかかる。洪水で氾濫する川のような勢いが今まさにジークの眼前を覆う。うねりを帯びたウロボロスたちの巨躯は蛇の柔軟な筋肉がバネとなりいいっそうに加速する。

 円を描くようにジークの外周をぐるぐる回りながら徐々に円を狭め始める。

 おびただしい鱗に触れれば鑢のように肉を掻き毟る。この包囲網にはジークも苦戦を強いられていた。


 天を見上げる。


 心、穏やかにして、哀悼を差し出す。

 

 燦然と輝く星に手が届きそうだった。

 

 自分があの星のように強く光ることができれば、もっと速くこの強さを手に入れば、多くを救うことが出来ただろうか。

 

 大いなる力には大いなる責任が問われる。

 

 やめてくれ、そんな言葉は虫唾が走る。力をどう使おうが自分の勝手じゃないか、周りの脆弱さを盾に攻めるな。

 

 色々な事が蘇る。

 自分は何者なのだろうか。

 結局答えは出ない。知っているさ、そんなものとっくの昔に考えることを忘れた。

 学校の帰り道、砂利道の隣、側溝の泥の中。

 

 ジークは鼻で笑う。

 

 所詮、俺は俺でしか無いし、俺は人間でしか無いのだからと。

 

 強いフリして心はどうだ。空っぽじゃないか。流されるままに戦い、そこにたまたま居場所があったから、そこにいるのが心地良かっただけなのかもしれない。

 

 記憶が巡る。

 

 アルスマグナに会いたい。話の種は無いが、ただ会って、目を合わせてそれから、いや、それだけでいい。

 帰ろう、待つ人がいるのだから。

 

 だからウロボロス、お前との戦いはここで、ここで終わりなんだ。

 

 鱗がジークの肉を削り始める。

 

 未だ呼吸を練り上げている。

 

 静謐で穏やかな、鏡のような水面の心で刃と向き合う。

 

 脳裏に様々な竜の憧憬が雪崩れ込む。その度に自分が何者であるかを忘れそうになる。

 

 

 

 そして、何かが狂った。

 魔が差したと言うべきなのかもしれない。

 

 

 

 狂気と衝動がジークを支配する。

 

 

 呼吸を忘れる。

 

 

 

 刃をゆっくりと、子供でも見切れそうなほどゆっくりと振り下ろす。

 垂直に飛び、ウロボロスの円から抜け出す。竜脚を展開し、ゆっくりとジークは空中を歩いた。

 刃は彷徨う、怪しげな月光を照り返し、歪めている。

 

 

 帳は降りた。幕引きの刻限、来たる。

 

 

 黄色と緋色の相貌が月を背にすることでその孤高さを強調する。

 

 ジークはウロボロスの攻撃を避けることも無く外周をぐるぐると歩み寄る。

 

 そうしていくうちに、瞳の緋色と黄色は混ざり合い橙色に変貌を遂げる。

 

 ウロボロスは既に死にかけている。何が起こっているのか彼の竜は理解できないまま幕は下りる。

 

 龍神演武■ノ型

 

 ■灰

 ■雨

 ■気■■

 

 双子の竜ウロボロス、討伐。

 

 領土、黒の砂漠オニキサート、消滅。

 

 そして、


そしてこの技は竜相手に二度と使うことは無いと誓った。


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