04
この無人島に漂流して既に二週間近くが経過した。
ワイバーン襲撃後レーダー設備や対空設備を配備して、防備を固めつつ港に適した場所を探し、港作りを始めた。
沢山の工場重機と作業員を召喚し、それを連日に渡り増やしていったので、最近は忙しい毎日を送っていた。
未だに航空機関係は制限が掛かっており、大型船も召喚が制限されているので、島の開発に乗り出したのである。
あのワイバーンは資料に載っていたワイバーンよりもふた回りぐらい小さく、レベル低かったので多分子供であったのだろう。
ワイバーンは亜種とは言えどこの世界最強種の一角である竜種である。
なので例え幼くともその力は強い。
まあ、生まれた時から上位種であるために若い竜などは傲慢である為に、稀に其処を突かれて討伐される例はあるが、それも数十年に一度あるかないかである。
あれから出来る限りエレノスは竜種の襲来に備えて、対空装備やその他の警戒装置を設置して万全の備えをしたが、あれから一度もワイバーンは見ていないので多分あのワイバーンははぐれであったのだろう。
進展と言えば近くの島までなら小型船でも行けるので、最近は周辺の島の探索も行なっている。
何時もの昼下がり、今日は既にノルマ(召喚と増やす作業)を達成しているので、メイドに甲斐甲斐しく世話されながら優雅にティータイムを満喫していた。
優雅にマリアージュフレールの紅茶を飲みながら、バームクーヘンを食べる。
「紅茶のお代わりは如何でしょうか?」
「うん。貰うよ」
「畏まりました」
これぞ貴族の生活と言うようにエレノスは寛いでいた。
「やはり人間心にゆとりが必要だよね。早くサイラス家に戻りたい。って逸る気持ちはあるけどそれも上手く制御しないと空回りしちゃうからね」とひとりごちる。
最近はクローン達にも個性が出て来て、服装や髪型をそれぞれ変えたりしている。
「うう〜ん。平和だなぁ」
背伸びをして空を仰ぎ見る。
雲一つない晴れ渡った良い天気である。
のんびりとしていると扉がノックされる。
メイドの一人が扉を少し開けて誰が来たか確認する。
「キャプテン・ルーバーです」
キャプテンはゴーストトルーパー達の指揮官であり、彼らにはそれぞれ名前を割り当てている。
それにしてもゴーストトルーパーが此処にやって来るとは珍しい事があるもんだ。
何か問題でも起きたのか?
確かルーバーは通信司令部に詰めているゴーストトルーパーの一人だったな。
「入れ」
メイドが扉を開けるてルーバーが入って来る。
「お寛ぎのところ失礼します。至急知らせたい事があり参上しました」
「何だ?」
「はっ!調査チームの一隊がこの島で原住民を確認しました。接触はせずに今は監視に務めさせております」
キャプテン・ルーバーが地図を取り出し、素早く広げて島の一つを指差す。
今エレノスが拠点にしている島から然程離れていない群島の一つである。
「おお!よくやった。それでどの程度の文明を持っているのだ?何処かの国に所属しているのかわかるか?」
「今のところ何処かの国に所属しているかはわかりません。ですが彼らは何と言いますか、その原始的な民族の様です。腰布と槍しか持って居なかったと報告がありました」
それを聞いてエレノスは落胆した。
「まあ、そんなに上手く行くわけはないか」
「如何なさいますか?」
「取り敢えず接触してみよう。相手を刺激しない様に友好的に接しろ。もし言葉も通じない蛮族なら制圧しろ」
「了解しました。すぐに部隊を編成して向かわせます」
「ああ、頼んだぞ。報告は逐一頼む」
「はっ!了解しました!」
敬礼してキャプテン・ルーバーは命令を遂行するために去って行く。
「さてと、いつでも動ける様に準備するかな」
そう言いエレノスは椅子から立ち上がり、サロンを後にする。
部屋に戻ると早速メイド達が動きやすく、それでいて威厳を損なわない服装に着替えさせて行く。
着替え終わり連絡を待っていると通信が入る。
『こちらアルファ01。無事原住民達との接触に成功しました。反応は上々であります。それと驚く事に彼らは皆精霊魔法が使えます』
『ん?と言うことは彼らはエルフ族なのか?』
この世界でも精霊魔法と言えばエルフ族と認識されているので、エレノスの疑問は当然である。
『いえ、違います。彼らは歴としたヒューマンでありますが、長い年月文明と切り離された生活を送っていたためか、森との親和性が高く気付けば精霊魔法が使える様になって居た様です。それと言葉ですが、我々が使う大陸共通言語とは少し違い、所々わからないところがありますので、言語学者などの派遣を要請します』
『わかった。すぐに手配しよう。引き続き其処に留まり彼らとのコミュニケーションを取っていてくれ』
『了解しました』
早速エレノスは言語学者を数名召喚した。
「では、件の島に私も行く」
エレノスの最近の一人称は私である。だが時々興奮したりなどしたら、俺になる。
「危険では?」
メイドの一人が心配そうに問いかけて来る。
「確かに危険かもな。だが、私のその目で精霊魔法とやらを見てみたいのだよ」
「畏まりました。出過ぎた事を言いました。お叱りはなんなりと」
「構わないよ。私を心配してだろう?ならば不問に処す」
「ご温情ありがとうございます」
「いいさ。では、港に行くとしよう」
基地内にある屋敷からキャデラックリムジンのブルーブラックⅡに乗り込み港に向かう。
基地から車で約20分程の所に港を建設している。
今現在も日々拡張工事が続けられている。
最近は生産工場の建設も視野に入れている。
此処に永住するつもりはないが、実家に戻った後も此処を放棄するつもりは無いからだ。
そうすると此処で暮らす者達の日用品なども用意しなければならない。
今は大量に召喚し増やして、倉庫に物資を貯蔵している。
なので当分は問題はないが、減る一方なので補給の目処を立てないと行けない。
資源はあるので後はその資源を加工する施設を作れば良いのである。
そうやって今後の予定を脳内で立てていると「エレノス様。間も無く到着致します」と運転手が声を掛けてきた。
窓を開けると港が見えてきた。
その港はバレッタの様に美しい港町である。
バレッタと同じようにはちみつ色の要塞が建てられている。
「なかなかサマになって来たな」
港町に到着すると、港には複数の中小のエンジン船が浮かんでいる。
それ以外にも帆船が数隻浮かんでいる。
エレノスはその内のFF230に乗る予定である。
今日はもう夕刻なので、この港町で一泊してから明日の朝出発する予定だ。
港町にあるエレノスの為に建てられた屋敷へと向かう。
「ようこそおいでくださいました。エレノス様」
そう言って頭を下げたのは、この屋敷の管理を任せている執事である。
「ああ、問題はない?足りない物などがあったら遠慮なく言ってね」
「はい、ありがとうございます。今のところは大丈夫でございます」
「そう、ならいいや」
その後は部屋に案内されて夕食まで寛ぐ。
暫く待っていると、扉がノックされたので入室の許可を出す。
「失礼します。夕食の準備が整いましてございます」
「わかった。今行くよ」
メイドに着いて行き食堂に向かう。
今夜の夕食は新鮮な海の幸を使った海鮮料理である。
やはりとれたての魚は美味い!
たっぷりと海の幸を堪能した後は、屋敷の中にある室内プールに向かい、軽く食後の運動を行う。
「ふぅ〜極楽極楽。もしかしたら実家よりもこっちの生活の方が贅沢出来ているね。いやもしかしなくてもこっちの方が贅沢かも。そう言えば来年になれば、いよいよ魔法を教えてくれることになっていたな。で、再来年は学園に入学予定の筈だ。みんな心配しているだろうな。早く帰りたいよ」
気付けば頰を一雫の涙が流れていた。
「いけない。弱気になっちゃ駄目だ。心を強くしないとな」
もうひと泳ぎしてからプールから上がり、シャワーを浴びてから就寝した。
エレノスの口調が定まっていないのは仕様です。