俺も異世界にって女の子とイチャイチャハーレム状態を堪能したり、無双でかっこよく敵をなぎ倒したりしたいんだが、どうやったら「異世界転生」とやらができるか教えてくれ
「俺も異世界の行きたいわ」
俺、佐久間雄一は自室でそう叫んだ。
手元のスマホには「小説家になろう」というサイトが開いていて、タグのところに「異世界転生」の文字。
もちろんそういう考えに至る理由があるのだが、その前に俺について語っておこう。
俺は現在、職もなく、一日中ゴロゴロする生活を送っている。いわゆるニートというやつだ。母親は働けというがまだその時ではないと思っている。俺は先ほどの思考を親に述べた。だが当たり前のように嘲笑う返答が帰ってきた。
「俺、異世界に....」
「はぁ?異世界?何寝ぼけたこと言ってるの。良い歳なんだから働きなさい」
という感じに「働け」といういつものワードで一蹴されてしまう。はぁ、とため息をつき階段を上がる。キシキシという音を立てる。
「はーあ、異世界ならなあ」
と、繰り返す。というのも、小説で異世界といえば無双、ハーレム等が定番になっている。そんなことができるなら異世界に行きたい。
「どうにかしていけないものか....」
俺は本を取り出してページをめくる。表紙には「異世界転生」の文字。どうにか行く方法は無いかと色々読み物を漁っている。
「んーやっぱり行けないのかな」
悲観的な言葉を繰り返し、大の字で寝転がり天井見ながらそう口にする。まあ側から見たらバカだと思われるであろう。
もちろんそんなものはいけるはずもない、非現実的だ、バカだ可哀想だとか思われようが、俺は本気だった。異世界転生できるその日まで.......。
「なんかー異世界転生とかできる仕事はないですか」
俺は母親に言われしょうがなく職を探すためにアローワークに向かった。そこで夢を捨てきれず、こんなことを口走ってしまった。もちろん相手の顔は「何を言ってるんだ?」と言いたそうな顔をしている。
「ええと、何を仰ってるのか....」
「まあ、最悪クソ小説家のやつでもいいです」
その顔にどうしようもなくなり、少し黙り込む。
「.....おかえりください」
少し黙ったのち、それだけが帰って来た。どうやら理解しあえないとわかったのか雄一はその場を去っていった。
「やはり何か条件とかがいるのかな」
帰り際もそんなことを考えていた。ひたすら、そう願い続けて。
向こうでは真っ赤な夕日が、慰めてくれるかのように包み優しく照っていた。
次の日、それは急に起こった。
「ここはどこだ?」
みしらぬ場所に居て「ここはどこだ?」という決まり文句をつぶやく。
「何ぼけっとしてんだ?ささっと倒しちゃおうよ」
仲間と思われる女がそう呼びかける。防具のようなものを装備して居て、明らかに普通じゃない。
「なんだ....?」
「何言ってるの?ほら、いくよ」
困惑する雄一そう促されて、剣を振る。すると苦戦することなくあっけなく倒せてしまう。
「やるじゃん」
「お、おう...」
敵をなぎ倒していくうちにだんだんわかって来たような気がした。俺は異世界転生というのをできたんだと。
「やっと!!やっと!!!行けたんだ!!俺も!!俺も!!異世界に!!」
敵を圧倒しているところを見ると、どうやら無双系の奴らしい。無双は敵をズバズバとなぎ倒していき爽快感を得られる小説だ。きっとなろうにあったらとても評価が高くなって居ただろうに、そこは少しもったいないように思えた。
「よーし、このまま進んでいくぞ!」
「魔王の城はあそこだ」
指差す先に魔王の城。ご都合展開のようにも思えるが、まあそこは妥協であろう。
「さあ、魔王の城に行くぞー!」
というところで世界が変わったような気がして.......
「あれ?」
気がつくといつもの部屋にいた。白い壁の、雄一の部屋。先ほどのが夢だということだと理解するのはそう難しくなく、落胆する表情をみせた。
「はあ、夢か......」
そう呟き天井を見上げた。天井には星か象られた模様だけが広がっていた。
「一体何を仰って.....?」