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8.もうひとつの世界

 メイド服の人たち…きっとコスプレじゃなくて本物のメイドさんなんだろうが、彼女たちに案内され俺たち生徒会役員は屋敷のある部屋に通される。

 「こちらの部屋をお使い下さい。夏希様は隣に部屋を用意しております」

 部屋に入るとベッドが4つ用意されていた。

 きっと隣の部屋にも俺のためのベッドが用意されているんだろうが、急に来た俺たちに対してこんな部屋まで用意してもらって…何だか申し訳ない。

 「ありがとうございます」

 「何かありましたらお気軽にお声掛け下さい。それと、後ほどエリン様がもう少しあなた方とお話がしたいとのことでした」

 「…分かりました。とりあえずここで待っていればいいですか?」

 「はい。エリン様にも伝えておきますね」

 メイドさんは丁寧にお辞儀をして部屋を出ていく。

 

 …さて。

 

 「…なんだかすごいことになっちゃったね」

 一番最初に口を開いたのは楓だった。

 「そうだな…正直まだ夢なんじゃないかって思ってる」

 茜もやっぱり混乱しているみたいだ。

 心結ちゃんは…ぐったりだな。

 「心結ちゃん、少し横になったらどう?」

 「いや…大丈夫です。…ありがとう、夏希」

 …ほんとに大丈夫かな?

 ベッドに腰かけている心結ちゃんの隣に会長が座り、心結ちゃんをそっと抱きとめる。

 「…まさかこんなことになるとは思っていなかったわ。…みんな、巻き込んでごめんなさい」

 会長はこの状況になったことに対して責任を感じているみたいだ。

 …会長が謝る必要はないんだけどな。

 隣の心結ちゃんが会長を叱るような目で見つめているのが気になるが…

 「会長、誰も会長が悪いなんて思ってないですよ。心配しないでください」

 みんなが頷く。

 「みんな優しいんだね。ありがとう」

 

 ひとまず落ち着いたところで俺が切り出す。

 「…とりあえず状況の整理をしたいな」

 とりあえず命に関わる状況は脱することができたが、それ以外は何も解決していない。

 

 「あの人、ルカさんは私たちのことを地底人って言ったわね」

 「そうですね。あの人たちは俺たちの国では夜が暗いことと、大和やローマってキーワードから俺たちを地底人だと判断したみたいです」

 そういえばあのエリンって少女は今日はもう遅いって言っていた。そのことを思い出し、今度は腕時計ではなくスマートフォンを取りだし時間を確認する。

 「…22時だ」

 これが解決していない謎のひとつ。

 俺たちの体感時間的にもそうだし、スマートフォンの時間もしっかり夜の時間を示している。

 しかし外は昼間の明るさだ。

 今までの情報から推測すると…


 「この国は夜でも太陽が沈まないってことかな?」

 楓が答える。

 「白夜ってあるよな?地理かなんかの授業で習ったことあるぞ。あれじゃないのか?」

 「それは北極圏や南極圏に近い寒い地方での話だよ。ここはもっと暖かいみたいだね」

 うーん…分からん。

 

 茜がさっきのことを思い出して話す。

 「大和とかローマとか言ってたよな?あれってどういうことなんだ?」

 「…昔の…国名?…もっと話、聞かないと分からない…ですね」

 …結局何も解決しないままだ。

 「…地底人か。…さっぱりだな」

 俺がそう呟いてすぐ、部屋の扉がノックされた。

 

 「入っても大丈夫かな?」

 「大丈夫だぜ」

 茜が返事する。

 入ってきたエリンは俺たちの様子を見て、

 「やっぱり混乱しているみたいだね」

 そりゃあそうですよ…。

 「いくつか質問してもいいか?」

 「大丈夫よ」

 まずは太陽についてだ。

 「あの太陽は沈まないのか?」

 「太陽が沈んだところなんて見たことないよ。太陽はずっとあの位置にあるよ」

 「…あの位置から動かない?」

 「うーん、厳密にはちょっぴり動いてはいるんだけど、基本的に太陽は真上にあるものよ」

 真上にあり続ける太陽か…

 「大和とかローマってさっき言ってたな?」

 「あれはヤマトの伝承に出てくる地名、あるいは国名かしらね。詳しくはわたしも知らないんだけど。他にも…聖地エルサレムって単語もあったわね」

 「…エルサレム」

 それも確かに実在する場所の名前だ。

 「ヤマトの伝承っていうのは地底国についての都市伝説みたいなものよ」

 「そういえばさっき地底人って呼ばれたよ」

 「そうね、あなたたちは地底人だと思うわ」


 するとエリンは部屋にあったキャビネットの中から仕舞われていた何かを取り出す。

 「地球儀よ」

 その地球儀はガラス製でガラスの上に大陸のようなものが描かれている。しかしそれは見たことが無い形をしていた。

 さらにガラスで透けている地球儀の中心にはオレンジ色の球体がある。エリンはその球体を指差し、

 「これが太陽」

 地球の中に太陽があると言ってのけた。

 

 それを聞いた会長は何かを思い出したかのように呟いた。

 「…セントラルサン」

 「会長、なんだそれ?」

 茜は聞いたことが無いようだが、俺はどこかで聞いたことがあった。

 「セントラルサン。地球空洞説で出てくる、地球の中心にある小さな太陽のことよ」

 そうだ…都市伝説の情報サイトなんかで読んだことがある。会長も知ってたんだ。

 「地球空洞説って…地球の内部はマントルやコアがあるんじゃないの?」

 楓が教科書で習った地球内部のことを話す。

 「一般的にはそうね。でもだれもそれを証明した人はいないわ。人類はまだ地殻の下のマントルにすら到達できていないの」

 「…まだ…殻も…破れてない…ですか?」

 「そうよ。だから本当の地球内部がどうなっているかは誰も分からない。そこで都市伝説的に言われているのが地球空洞説」

 「それはわたしも興味あるわ。聞かせてくれるかしら?」

 エリンも気になるらしい。


 「…私もネットで暇潰しに読んでただけだからそこまで詳しくはないけれど。とりあえず知っていることを話すわ。地球内部はセントラルサンによって常に照らされていて、農作物は地上のものよりも巨大に育つ。そこに住む人たちは長寿で1000年も生きるそうよ。高度な建築技術もあって常に太陽に照らされている過酷な環境でも対応できるとあったわ。そこにある地名も聞いたことがあるわ。確か…シャンバラ」

 エリンは笑って話す。

 「古い言い方するのね。今はアガルタって呼ばれているわ」

 エリンは再び地球儀を指差し、

 「今の琴音さんの説明はほぼ事実よ。これは内部地球。この上に地面があって、その外側が恐らくあなたたちの世界」

 

 ようやく今の状況が分かってきた。つまり俺たちはあの階段を通じて内部地球に出てきた。そういうことらしい。

 「地球の中に人が住んでるなんて…信じられないぜ…」

 そんな茜の言葉に対して、

 「わたしに言わせてみれば地球の外側に住んでるあなたたちのほうが信じられないのだけど。遠心力で飛ばされていったりしないの?空気も全部外に逃げちゃうんじゃないの?」

 

 ………。

 

 「あなたたちはやっぱり地底人で間違いなさそうね」

 「こっちから言わせればエリンさんたちのほうが地底人なんだけど…」

 「確かにそうね。エリンでいいわ」

 「じゃあ地球の裏側同士仲良くしよう、エリン」

 

 お互いに信じられない世界の住人である俺たちは目を合わせ、そのおかしさに声をあげて笑った。

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