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7.太陽が沈む国

 いや、正確には…叫んだ。


 「し、侵入者ー!!」

 「…ぇ?」

 

 なんだかまずいことになっている気がする…

 「夏希、今のは誰の声だ?てかどこに出たんだ?侵入者って言ってたけど、どっかまずい場所に出たのか?」


 俺の後ろ、まだ階段の中にいる4人はこの状況を理解していない。

 「…今の声は学園の生徒じゃない美少女の声で、外はもう昼になってて、今まさに騎士っぽい人が奥から駆けつけてる…メイドさんもいるな」

 後ろ、階段の中へ振り返る。

 あらー。何で皆さんそんな可哀想な人を見るような目をしてるんですかね?

 

 その皆さんの表情が一瞬で驚きに変わる。

 

 振り返っていた俺の首に何か冷たいものが触れたのだ。

 「どこの国の者だ?」

 目だけを動かし首に触れているものの正体を確認する。

 

 ―そこには太陽の光を受け銀色に輝く剣があった。


 きっとさっき駆けつけていた騎士だろう。…ドッキリとかじゃないよね、これ。

 全く現状に付いていけていないが、下手な行動を取ったら…殺される…と思う。

 

 剣の持ち主へと視線を移す。黒髪の女騎士が冷徹な表情を浮かべ俺を見下ろしている。


 「どこの国から来た?」

 「…日本です」


 …ドッキリにしてはやはりクオリティが高すぎる。視界のどこかにスタッフとか隠しカメラとか、俺の見ている光景が作り物である証拠となるものを探すが…ない。


 「ニホン?聞いたことのない国だな」

 女騎士は周りにも確認してみるものの誰も日本を知らないらしい。

 この女騎士…もしかすると芸能人か?誰か有名人がコスプレしてドッキリ企画…


 「まずはそこから出るんだ」

 「はい」

 やっぱり違うか。迫力があるというか…本物っぽい。いや、女優の演技という可能性も…

 

 5人とも外に出た。みんな色々混乱している部分はあるはずだが、今は何よりも俺たちを取り囲んでいる騎士たちへの対応が最優先だ。

 騎士というと男というイメージを持っていたが、俺たちを囲む10名程の騎士たちは約半数が女性だ。

 その全員がこちら、生徒会役員に対して剣を向けている。

 やはり危険を感じた俺は4人を庇うような位置に立つ。…ドッキリ企画でも命に関わるような状況を作り出すものは…俺は見たことがない。

 ようやくこの光景が現実のものなんだと実感できてきた。

 

 「どうやってここに入った?」

 「…階段で」

 「…なんだと?」

 そりゃそうだよね。俺も素直に答えていいか迷ったけれど、他に何とも言えない。

 

 騎士の1人が俺たちが出てきた所を確認する。

 「…階段があります」

 「…なぜこんな所に階段があるのだ。お前たちが掘ったのか?」

 「いえ、俺たちはただ階段を進んでいたらここに出ただけです」

 「この階段はどこから繋がっている?」

 「日本です」

 

 ………。 

 

 女騎士は呆れたような顔をしている。


 すると、騎士たちのすぐ後ろにいた少女が口を開いた。

 「ルカ、こんな夜に呼び出してごめんね?この人たち武器も持っていないみたいだし、男の人も…あの国の戦士の体格じゃないよ」

 「確かに…貧弱そうだ」

 「…おぃ」

 なんだか失礼なこと言ってくれてないですかね?


 「…ところでそれはなんだ?武器じゃないだろうな?」

 ルカという名前らしい女騎士は俺たちの持っていた懐中電灯を指差す。

 「これは懐中電灯。ライトって言ったほうが分かりやすいかな?」

 「らいと?何のための道具なんだ?」

 「ライトは暗い所を照らすための道具だよ。灯りがない場所とか、夜暗くて周りがよく見えない時とか…」

 

 ……。

 

 少女、騎士たち、奥で様子を見ていたメイド服の人たちも俺の今の発言に違和感を覚えたようだ。


 「…ニホンでは夜が暗いのか?」

 「え?夜は暗いものだけど…」

 「太陽はどうなるんだ?消えるのか?」

 …このルカって女騎士、小学校の理科の授業も受けてないのか?

 「太陽は朝、東から昇り西に沈む。当たり前のことだろ?」


 ……。


 なんで沈黙するよ…。もしかして東と西間違えちゃったか?それなら恥ずかしいなー!

 「…間違えてないよ」

 楓はこんな状況でも俺の心を読んでくる。

 

 「…太陽が沈む国。夜が暗い国。…わたし聞いたことがあるわ。ルカもあるわよね?」

 「あぁ…ヤマトの伝承。昔本で読んだことがある。しかしあれは都市伝説のようなものではないのか?」

 「…大和は日本の昔の呼び方だな」

 それまでルカの後ろにいた少女が前に出てきた。

 「ロウマという国はあるの?」

 「…ローマのことか?それはイタリアの首都だ」

 「日本が大和って呼ばれていた時代だと、ローマ帝国が存在したわね」

 会長が補足する。

 

 少女はやっぱりといった表情を作り、ルカに笑いかける。

 ルカは俺の顔をじっと観察し、納得したように少女へ話す。

 「エリン様…きっと、お兄様が彼らをここへ」

 最初に見た時にも似た嬉しそうな表情をいっぱいに浮かべ、少女は俺たち生徒会役員の前に改めて向き直る。

 少女が手で合図をすると、俺たちを囲んでいた騎士たちが剣を収める。

 「失礼なことをしちゃったわね。わたしはエリン=コレット。コレット家の次期当主よ」

 どうやら俺たちは安全な者だと分かってくれたみたいだ。


 「いや、こちらこそ急に驚かせてすまない。俺は夏希、こっちが茜で琴音さん。そっちが楓で…顔面蒼白で倒れそうなのが心結ちゃんだ」

 「心配しないで、あの国の人じゃないって分かったんですもの。乱暴はしないわ」

 なんだかよく分からないが、命の危険は免れたようで一安心。

 頭の中で改めて今の状況を整理しようとするが…混乱しているというか情報も足りない。

 

 「エリン様、国王には…?」

 「報告する必要があるわね…。あっ!心配しないでいいのよ?ただ、あなたたちのことを報告するだけで危害は一切加えないわ」

 国王と聞いて関係性はよく理解できないものの、『始末しろ』の一声で殺されるかもしれないと思ったのが顔に出たみたいだ。

 「明日の朝に城へ向かいましょう。今日はもう遅いからこの方たちに部屋を用意してくれる?」

 「かしこまりました」

 奥で様子を見守っていたメイド服の人たちが返事をしてそれぞれの作業に取り掛かったようだ。

 

 正直ずっと質問攻めでこちらの疑問は全く解決していないのだが…


 騒動に集まっていた人たちが解散し始める中、ルカが振り返って言う。


 「おい『地底人』たち!また明日な!」

 

 『…え?』

 …地底人…だと?

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