表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/9

5.怪音の正体

 「あー、つかれたー!」

 「まさか新入生でもないのに茜が勧誘されるなんて、運動部は戦力の確保でどこも必死だね」

 「…楓も勧誘されてました。…もうヘトヘトです」

 「心結ちゃん、よく頑張ったわね。ほーら、おかしだよー」

 授業が終わり、放課後の部活動勧誘も終了した週末。生徒会室に戻ったみんなは疲れきっている様子だ。

 心結ちゃんは会長に餌付けされ、まるで仔猫のよう…

 「…心結ちゃん。ほーら、こっちにもおかしあるよー」

 「しゃー」

 威嚇された。

 「夏希はそんなことやってないで、早く目安箱の中身を回収してきてよ。おかしは僕がもらっておくから」

 俺の持っているお菓子を取ろうとする楓に、

 「ほーら、届くかなー?」

 「…へぇー?」

 楓は笑顔で股関を蹴りあげてきた。俺はその場に崩れ落ち、楓は無事ご所望のお菓子を手に入れる。

 「うずくまってないで、早く回収してきなよ?」

 「うぅ…、行ってきます」


 ■■■■

 

 「へぇー、意外と集まるもんですね」

 「…たくさん…です」

 「僕たちはゲームやってるから、夏希は内容まとめておいてよ!……冗談だよ、半分。だからそんな顔しないでよっ」

 …今「半分」って言ったか?まぁいい。

 

 みんなで投函された内容を手分けしてまとめる。

 「「寮への渡り廊下の蛍光灯が切れている。交換してくれないか。」これは学園の事務に報告だな!」

 「「コピー機の自由使用を求める。」これはどうする?」

 「今は事務室に2台しか設置されていないわね。わざわざ事務室まで行かないといけないうえに事務室は18時で施錠されるわ」

 「…例えば、寮にあったら便利…です」

 「そうね。これは総会でも意見を聞きたいわね。後ほど詳しく考えましょう」

 「「水泳の男女共同授業化を希望」これはどうします?」

 『却下』

 おおぅ…。

 

 まともな意見から、中には少々ふざけた意見もあったが、予想はできていたことだ。

 「…まぁ生徒の純粋な意見を聞けるってことはいいことだよな」

 「茜、お疲れ」

 茜は放課後も勧誘されまくっていたから、もうヘトヘトだ。

 『ぐぅぅ』

 「…茜ちゃん。パンあるけど、食べる?」

 「会長…頂きます」

 ただお腹が減っていただけみたいだ。

 

 それにしても、何か気になる内容があった。

 「夏希くん?どうしたの?」

 「いや、…少し気になる内容の投函がありまして…」

 会長が俺の持っている紙を覗きこむ。

 「…何だか不気味ね」

 他の3人も気になっているようなので、みんなに見えるように机の上に紙を置く。


 『旧校舎裏の資材置き場から変な音がする』


 旧校舎裏の資材置き場は、今は園芸部などがあまり使わない道具を置いたりしている。

 今は園芸部も別の場所に新しい倉庫があるため、そちらは滅多に使わないようだ。

 旧校舎の裏は山を少し切り開いた場所にあり、資材置き場は山肌を掘って作られた、防空壕のような場所だ。もしかすると昔は実際に防空壕として使用されていたのかもしれない。

 旧校舎裏となると灯りも少なく、夕方になると山と旧校舎の間には陽の光が届かなくなるため大変薄暗くなる。学園のなかでも不気味でほとんど誰も近寄らない場所だ。


 「…それに似た内容、…ありました」

 心結ちゃんも机に紙を置く。

 『旧校舎の裏。不気味です。ライトとか設置出来ませんか?』 

 『園芸部の使っていない資材置き場。あそこだけ雰囲気ヤバいです。』

 

 確かに俺もあの場所は不気味だし、近づくことはない。きっと学園の生徒の多くが近づいたことはないだろう。そもそもあそこに用事がある生徒もいないと思う。

 今俺たちがいる生徒会室も旧校舎にあり、その裏に問題の場所はあるのだが、俺たち生徒会役員ですら近づくことはない。

 

 「…どうします?」

 「…不気味だけど、変な音がするって部分は調べる必要がありそうね」

 やっぱりそうですよね…

 「夏希?もしかして怖いの?」

 楓の言葉に茜がニタァと笑う。

 「これはしっかり調査する必要があるなぁ?」

 「別に怖くないし?」

 「…夏希。分かりやすい…お子さま」

 「…会長、本当に調査しますか?」

 「んー、どうしようかしら…」

 会長も迷っているようだ。即決じゃなくてよかった。心の準備には時間が…


 「先に晩ごはん食べないと学食閉まっちゃうわよね」

 調査することは決定事項のようだ。…はぁ。

 

 ■■■■

 

 学食で晩ごはんを済ませ、生徒会室に戻った頃には夜の8時を回っていた。

 生徒会室の隣の部屋には様々な備品、どこに保管していいか分からないようなものが乱雑に仕舞われている教室がある。

 「ロウソクとライター見つけたぜー!」

 「おぃ茜、なんでロウソクなんだよ。こっちに懐中電灯あるだろ!」

 「え?肝試しじゃないのか?」

 「…調査だ」

 「いいねー!肝試し!ちょっと季節的には早い気もするけど」

 「楓、少し黙っててくれ…」

 「…夏希、…怖がってる?」

 「全然」

 「じゃあ夏希くんが怖がってるようだから懐中電灯にしましょ。人数分はあるようだし」

 …誰も俺の話をきいてくれない。

 

 問題の資材置き場は生徒会室のある旧校舎別館の裏だ。

 「…ここ、心結たちも全然来たことないですよね…」

 「ほんとに何か出そうだね」

 「変なこと言うなよ、楓。とりあえず中を確認しないと」

 みんな一斉に俺を見る。…うん。みんなの想い、悲しいほど伝わってくるよ。


 怖くないかと言われればそりゃ怖いが、資材置き場を少し覗くだけならそれほどのことではない。

 資材置き場の入口から中を懐中電灯で照らして様子を伺う。

 中には園芸作業用のスコップや農業用の一輪車、古くなったプランターなどが置かれている。

 「夏希くん、何かあった?」

 「いえ、特に気になるものは…」

 本当に怖いものも何も感じないくらいに普通の資材置き場だ。他に何かないか確認するために中に入ってみる。続けてみんなも中に入ってきた。

 中の広さは生徒会の5人が入ってもまだ余裕があり、天井こそ低いがまぁまぁの広さだ。

 「何もないな」

 「何か自然と音が出るようなものも置かれていないみたいだね」

 「イタズラの投函だったのかしら。…でもこの場所についての投函が複数あったのも事実よね」

 そこまでしてこんな小さいイタズラをするような生徒が、果たしてこの学園にいるだろうか。

 

 みんながそろそろ撤収しようと考え始めた時、

 「なぁ、こういう穴の中って風…吹くのか?」

 「茜、お前結局ロウソク持ってきたのかよ…」

 見ると茜がロウソクに火を点けている。

 その火が…確かに揺れている。俺たちが動いたり息をするだけじゃ、この揺れ方はしないだろう。

 「洞窟の外と中の気温差によって空気の流れが生じる場合はあるわ。でもそれは大きな洞窟などの話で、このくらいの穴で中で発生するかは…分からないわね…」

 「…不気味だね…」


 まだみんな余裕はあるものの、少し焦りのようなものがにじみ始めた。

 俺も一度ここから出たいし、調査はまた今度、こんな夜じゃなくて昼間にでも来ればいい。

 「…一旦出ませんか?」

 「そうだね。何も無いみたいだし、そろそろ出ようか」

 みんな同じことを思っていたのか、資材置き場から出ようとする。…心結ちゃんを残して。


 「心結?どうしたんだ?出るぞ?」

 心結ちゃんは1人、資材置き場の奥を向いたまま動こうとしない。

 怖いからそういうのやめてほしいな…

 「…何か…聞こえませんか?」

 やめて頂けませんかねぇーそういうの…

 「…この奥から…何かの…音が」

 みんな耳を澄ます。


 『ヒューー』


 「いやいやいや!これはヤバいって!」

 「うるせえよ夏希!びっくりするだろ!」

 どことなく叫び声にも聞こえなくもないそれは、資材置き場の奥から聞こえてくる。でもそこにあるのはただの土の壁だ。

 「俺の声のせいにするなよ!茜だって隣でビクッてしてただろうが!」

 「し、してないしー?」

 この叫び声が投函された内容の正体だろう。

 それにしても…いよいよここから逃げ出したくなってきた…

 「夏希?僕たちを置いて逃げ出したりしないよね?」

 「絶対にしませんけど?」

 楓、こいつが一番怖いかもしれない。

 

 「…風の音かしら?奥に何かありそうね」

 会長は火の点いたロウソクを奥の壁に近づける。するとロウソクの火が大きく揺れた。ここから風が吹いてきているようだ。

 

 「夏希くん、ここ…掘ってくれる?」

 「…はい」

 周りの「お前やれよ」的な視線を感じたので、素直に返事する。…弱いな…俺。

 園芸部のスコップを借りて奥の壁を掘ってみる。

 あれっ?

 土の壁を掘る感覚はすぐに無くなり、スコップが奥にある空間?に突き出てしまう。

 「…奥に何か空間がありますね」

 「…マジか」

 茜も信じられない様子だ。

 「夏希、奥覗いてみてよ」

 「嫌だよ!俺が穴掘ったんだから楓が見てくれよ!」

 「夏希くん…今のところだけ聞くと…ただの変態よ?」

 「…会長、こんな時に何考えてるんですか…?」

 「怖い雰囲気を変えようと思ったのだけれども」

 「…ありがとうございます」

 会長は学園の代表、容姿端麗で清楚系お嬢様キャラだと勝手に思っていたが、頭の中は案外危ない人なのかもしれない…怖いなぁ。


 もう他の人に頼む気力も失せたので、ここは俺が覗くことにする。奥を懐中電灯で照らしてみると…

 「…まだ奥に空間が続いてるみたいですね」

 「会長、どうする?進んでみるか?」

 「そうね…、何があるのか確認したい気持ちはあるのだけど…みんなは大丈夫かしら?」

 予想外の出来事にみんな少し気持ちの整理がついていなかったようだが、

 「いよいよ肝試しらしくなってきたね!」

 「楓、これはあくまで調査だからな!」

 「えー?こんなリアルな肝試しなかなかやれないぜ?」

 「茜が一番ビビりのくせに?強がっちゃってぇ?」

 「…服、燃やそうか?」

 「…茜ちゃん、…ここで燃やしたら…酸欠になる…かも」

 「…心結ちゃん?俺のこと守ってくれたんだよね?」

 「…燃やすなら…外で」

 「俺なんか悪いことしたかなぁ!」

 「それじゃあ決まりね。奥に進みましょうか。ただ洞窟なんかは本当に酸素が少ない場所が存在することもあるわ。気分が悪くなったりしたらすぐに引き返しましょう」

 会長ももはや俺のことはどうなってもいいようだ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ