4.生徒会室の秘密
「見つけたよー!」
茜が目安箱を見つけてくれた。全部で3つ、まとめてあったらしい。
「じゃあ夏希くん。申し訳ないけど、学内に設置してきてくれない?…ここの片付けはまだ時間がかかりそうだから」
「分かりました会長。…それにしても色々出てきますね」
電気ストーブ、デスクトップパソコン、電子レンジ、掃除機…新生活始められそうだな。
「とりあえずちゃちゃっと設置してきますね!」
『いってらっしゃーい!』
■■■■
目安箱は全部で3つ。各学年の校舎に設置してくるだけだ。
初日から早速生徒会っぽいことしてるな。
クラスもいい感じだし、先生も去年に引き続き須藤先生で頼ることができるし、生徒会のみんなとも仲良くやれそうだし。
そんなことを思いながら目安箱を設置して再び生徒会室まで戻ってくるまで10分ぐらいの作業だった。
片付けの続きやるかー!
ガラガラ…。
「………おぃ」
生徒会室に戻って来ると、4人仲良くファミリー向けのテレビゲームに興じていた。
「会長まで一緒に何やってるんですか」
「いやぁ…。去年これがあることには気付いてたんだけどね?去年の生徒会は真面目な雰囲気だったから一切こういったことやれなかったのよ」
会長。…めっちゃ楽しそうですね。
それにしても、テレビにゲーム機、小さい冷蔵庫もあるぞ。
「ここにあるものは過去の生徒会役員が残していったものなのよ」
「なんで生徒会室がこんな場所にあるのか分かった気がします…」
教師の目どころか生徒の目にも留まりにくいから…かな?
「そもそも学園でゲームって大丈夫なんですか?」
「夏希はまだまだだな!うちの学園の規則にゲームの持ち込み禁止なんて無いぜ!」
「そんなこといちいちルールにしなくても、わざわざ学園にゲームを持って来る生徒なんてほとんどいないからね。あんまりルールを作りすぎると、『あぁ、そのくらいのレベルなんだ』って思われるしね」
確かに楓が言うとおりかもしれない…。
『廊下は走らないこと。』なんてルールが明記されていたら、よく廊下を走る生徒がいる学園と思われても仕方ない。…だけど、他校の人が清陽の規則なんて見る機会は無いと思うし、別にルールにしてもいいんじゃ…
「あとうちの学園にはゲーム部があるから、持ち込み禁止にすると色々と面倒なのよね」
…そんな部あったんだ。
「とりあえず先に片付けてしまいましょうよー」
「夏希ってば自分だけ参加出来ないから寂しいんだぜ?」
「コントローラー4つしかないからね」
どうやったら俺がそんなふうに見えるんだよ。
………。
「…次、…替わりましょうか?」
「…うん。ありがと」
俺の本音は顔に出やすいのかもしれない。
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結局1日目だけでは生徒会室の片付けは終わらなかった。
ゲームが一段落して会長が切り出した。
「もうすっかり真っ暗ね。みんなは実家生かしら?」
この学園では学内に寮があり、寮生と区別するために家から通っている生徒を実家生と呼んでいる。比率としては寮生3、実家生7といったところだ。
「俺は寮です」
「わたしも寮だぜ」
「僕も」
「…心結も…です」
ここは街から外れた場所にあるため電車は通っていないし、バスの最終も早い。
みんな寮生ってことは帰りの時間を気にせず生徒会活動が出来るってことだ。
「そう、私も寮生よ!…晩ごはんはみんなで食べましょうか!」
…?。会長が今すごく喜んでいたような…気のせいか。
「今は…7時過ぎですね。戸締まりして学食に向かいますか」
俺の言葉でみんなが自分の荷物をまとめ始める。
「待ってみんな、今のうちに各自に渡しておくわね。生徒会室の鍵よ。なくさないようにね」
なぜただの生徒会室の鍵がシリンダー錠なのか、ツっこむ人はいなかった。
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学食は夜の9時まで開いている。朝は6時過ぎから開いており、寮生は3食とも基本的に学食で食事をとる。
他にも学内の売店があり、学外でも近くにコンビニ、スーパー、飲食店はある。
ただし寮生は証明書を見せることで、朝と夜の時間帯の通常メニューが無料になる。
「うわ。カボチャ入ってる」
「なんだ夏希?もしかしてカボチャ嫌いなのか?」
「夏希くん、カボチャは体にいいのよ」
「…免疫力を高める効果が…あります」
「分かってるんだけどね!…うぅ」
嫌いなものは先に食べる派なので渋々カボチャの煮物を口に運ぶ。
カボチャなんてジャックオランタンを作るためだけに存在してると思ってたよ…。
「もしかしてカボチャはジャックオランタンを作るためだけに存在するって思ったりしてないよね?」
楓の一言にせっかく飲み込んだカボチャが出てきそうなぐらい咳き込んだ。
…俺ってそんなに分かりやすいかな?
「今週中には生徒会室の片付けをしてしまいたいわね」
「明日から部活動勧誘が始まるよね。そっちも違法な勧誘が無いか生徒会で見回らないといけないね」
「じゃあ生徒会室の片付けは勧誘活動終了時間の夕方6時以降になるな」
「…そんなに時間無いですね」
「会長、生徒会室って何時まで使用可能なんですか?」
普通教室や各部の部室、グラウンドなどについては一律20時まで使用可能で、延長願を生徒会に提出することで21時、場合によってはもう少し延ばすことも可能だ。
しかしその生徒会が使用する生徒会室の使用可能時間はどうなっているのだろうか。
「特に制限は無いわ。泊まってもらっても構わないわよ?」
みんな何となく予想はついてたみたいで、特段驚いた様子は無い。
「あの生徒会室にあった冷蔵庫や電子レンジ、ソファーベッドも過去によく泊まりで作業していた生徒が置いていったものよ」
…生徒会ってそんなに忙しいの?
「みんなそんなに心配しないでね?過去にも色々事情はあったみたいなの…。みんなには泊まりで作業なんてさせないから安心して?ね?」
…まぁ、だいたい予想はつくけど。他の3人も事情を察しているようだ。
「会長、何でも1人で抱え込んだらダメだよ?僕たちはみんなで生徒会なんだから」
楓の言葉に驚く会長。
「会長は私たちを甘く見てるな!」
「…生徒会室にあったもの、…1人暮らしみたい。…ソファーベッドも、1人しか寝れない…から」
「たぶん実家生があそこで寝泊まりしてたんでしょうね。1人に生徒会の作業の負担が集中する…恐らく過去の生徒会長には負担が大きくなる人もいたんじゃないですか?」
俺の言葉の後、2年生はアイコンタクトでお互いの意思に相違が無いことを確認し、楓が続ける。
「確かに会長以外は2年生で生徒会が構成されているから馴染み辛いところはあるかもね。2年生は部活で忙しい人もいるだろうし、3年生は早いうちに引退するから」
「だから会長ばっかりに負担が行くことがあったんだな!私たちは会長1人に全部押し付けるつもりなんてないからな!」
「確かに生徒会2年目の会長にはたくさん教えてもらうことはあると思います。でも、会長1人で頑張る必要なんてなくて、生徒会みんなで頑張ればいいんですよ」
「…みんなで頑張れば、…支えあえるから。…会長、1人で抱え込んだら…心結が許さない…です」
「っ…。どう言っていいか分からないけれど…ほんとにありがとう、みんな」
完全に涙目の会長。
会長は私立清陽学園生徒会会長として学園の顔になる立場の責任を感じていたはずだ。
恐らく初めて集まった生徒会、今年の生徒会が上手くやっていけるかどうかも心配していたはず。もしかすると過去にあった生徒会のように会長1人に仕事や責任が集中してしまうのではないかと…
会長の性格をまだ詳しく理解しているわけではないが、場合によっては仕事を全て自分がやっておくなんて言い出しそうだ。
「…そんなこと心配しなくてもいいのに」
楓の心を読んだかのような一言にいよいよ会長の涙が粒となり頬に落ちそうになる…
「だ、大丈夫だよ会長!めんどくさい仕事は全部夏希がやるからさ!」
「なんでだよ!勝手に決めんなよ!」
「夏希、これだけ美少女が揃ってるんだから、頑張っても損は無いと思うな?」
「それは…、ご、ご褒美的な意味で?」
「…夏希くん、…サイテーです」
笑い声が響く。会長もようやく笑ってくれた。