2.生徒会役員任命式
始業式はそのほとんどが校長の話で終わった。
新入生も加わり学園の雰囲気も変わる。新しい気持ちで勉学や部活動に取り組みましょう。といった当たり障りのない内容だった。
各クラスの担任が発表され、校歌を歌い式は終わる。
そのまま生徒会役員の任命式が始まる。清陽学園においては始業式よりこちらのほうがどちらかというとメインの催しだ。
放送部のアナウンスで式が始まる。
「これより第150代生徒会役員任命式を執り行います。第150代生徒会会長は壇上へお上がりください」
1人の女子生徒がシンとした静寂の中、控えめに足音を立て壇上に上がる。一歩一歩を踏み締めるように。ゆっくりと。ゆっくりと。
この学園の制服は個性演出のため規則で少々の改造は許されてはいるものの、全員が同じ制服を着用している。学年に応じて男子はネクタイ、女子はリボンの色を変える。1年生は赤、2年生は青、3年生は緑だ。制服も生徒の意見で少しずつ改良が加えられ、周辺の学校の中でも特に人気がある。この学園の制服を着たいがために受験する人もいるとか。
冬服は男女ともブレザーを着用するが、今階段を上っている彼女はブレザーを着ていない。シャツにベスト、緑のリボンにチェックのスカートという姿だ。
演台に設置されたマイクの前で全校生徒の方に向き直る。そして、…暫くの沈黙。
講堂は音を無くしたかのように静まり、制服の衣擦れの音でさえうるさく感じられるほどだ。
独特な緊張感の中、そっと湧き出てくるかのように優しいトーンで話し始めた。
「皆さん、こんにちは。第150代生徒会会長を務めます、3年の天寺琴音と申します」
緊張を感じさせない暖かな笑みでゆっくりと話し始めた彼女は、同じ高校生とは思えない大人びた雰囲気を醸し出している。
男子生徒からの人気も大いにあり、会長の物腰の低さゆえか告白したという話もよく耳にする。結果は皆ことごとく失敗なのだが、なぜかフラれた男子は落ち込むこともなく会長により協力的になるというから不思議だ。
「昨年度は会計を担当しておりました。その経験を生かし、わたしは創立150年となる清陽学園をより良い、皆さんが楽しいと思える毎日を送ることのできる、そんな学園にしたいと考えています」
会長はここで一呼吸置き、講堂全体を見回す。そしてこう続けた。
「わたしは特別何かに秀でている訳ではありません。皆さんを引っ張っていけるような力も…まだ無いと思います。ただ、この仕事をないがしろにするつもりはありません。ただ、会長の任期を消化するつもりもありません。今のわたしができる精一杯の努力をし、行動をもって皆さんに示します。この学園をより良くしたい。皆さんにもっとこの学園を好きになってほしい。そんなわたしの想いが皆さんに伝わったなら、…非力であるこのわたしに力を貸して頂けると嬉しく思います。今年は創立150周年ということもあり、各行事で新たな試みがあるでしょう。新たな催しを企画することもあるかもしれません。今まであったものを改変することや、新しく何かを始めることは…、わたし1人の力では到底実現できません」
最後の一言を儚げな笑顔で飾った会長は、おもむろに後ろを向き、演台の下に置いていたのであろう黒いジャケットを大げさに羽織る。
表に向き直った会長の表情は真剣そのもので、ジャケットを羽織ったこともあってかより威厳が感じられる。
「副会長、七瀬茜、藤宮楓。
書記、神崎心結。会計、相田夏希。」
会長に名前を挙げられ、ブレザーを自席に置きベスト姿の俺含め4名が壇上へ上がる。
壇上で順番に会長からジャケットを受け取り、その場で羽織る。
会長を中心とし、左右に2人ずつ並び全校生徒の方を向いて立つ。
今5人が着ているジャケットは生徒会役員しか着用することの許されない、清陽学園生徒会役員であることを証明する特別な制服だ。
「昨年度末に行われた生徒会役員選挙において承認された4名に対し、生徒会会長として役職を任命しました。今年度の生徒会役員はわたしを含め計5名で構成します。生徒会役員一同、精一杯頑張ります。ご協力よろしくお願い致します」
全校生徒からの拍手が起こる。よく音が響く講堂ではその音が反響し、より盛大に聞こえる。
まだ拍手が鳴りやまない中、会長はさらに続ける。
「この瞬間からわたし達生徒会の任期が始まりました。早速ですが1つ変更したいルールがあります。生徒会へ意見や要望を挙げるには各クラスごとに学級会で取りまとめたうえでクラス委員が報告する必要がありました。これは一度クラスで取りまとめを行うことで、生徒会で審議すべき議題の数を減らし、議題の質を高めるためのルールでもあります。しかし、これでは生徒1人1人の声が生徒会まで届かない場合があります。そこでわたし達生徒会は最初の施策として学内に目安箱を設置します。匿名でも構いません。皆さんの意見、要望を聞かせてください。もちろん全てに対応することはできないと思いますが、皆さんの声を聞くことが大切だと考えているのです。賛成される方は拍手をお願いします」
再び講堂に拍手の音が響く。