魔法少女パティシエ・バランス
わたしのなまえは佐藤 かえで。高校二年生。パティシエ目指して家でお菓子を作ってます。
そんなわたしが学校帰りの今いる場所。
それは、普段なら学生とかサラリーマンさんとかが行き交う駅の入り口。
だけど今は誰もいない。
かわりにいるのは黒い全身タイツで体を覆った仮面のおばさん。わたしのお母さんそっくりの、三段のお腹。
そんなおばさんの目の前に、わたしは立っている。
魔法少女パティシエ・バランスとして。
ことの起こりは一ヶ月前。
ラングドシャをつくろうとして卵をわろうとすると、それは喋った。
「やっとみつけた。お願いだから割らないでほしいな」
びっくりして思わず床に叩きつけました。
「探している人を見つけるためにパック詰め工場に潜り込んだのはいいけど、ずっと身動き一つ取れないんだから」
それは殻が砕け、中身をはみ出させながらも喋りかけてきました。
「アクの手先から世界を守るため、僕と契約してくれないかな?」
「そういうの間に合ってるんで」
「えっ」
「えっ」
いい加減卒業した魔法少女をもう一度やれとかこの卵もどきおかしいんじゃないでしょうか。
「だが断る! 強制契約だ!」
………………。
特に何も起こらなかったので雑巾で片付けようとしました。
まさかそれで契約されるだなんて。
こうしてわたしは料理用の秤で変身する、魔法少女パティシエ・バランスにされてしまいました。
その後、卵もどきの殻をセロハンテープで直させられました。
そしてそれから怪人を何体か倒して、今に至ります。
八百屋のおじさん、隣のお兄さん、おとうさん。安らかに眠ってください。あなた達の食生活はわたしがしょうがないので取り戻します。灰汁の帝国メシマズナノデスを倒して。
「回想は終わったかしら?」
「あ、待っていてくれたんですね。ありがとうございます」
「あんたに文句を言う前に倒しちゃ、本末転倒だからねぇ」
「何に文句があるのですか!」
メシマズナノデスを倒すことに文句を言われる筋合いはありません。
「毎度毎度あんたの攻撃での道路の陥没だとか家屋の倒壊だとか、こっちに押し付けるんじゃないよ!」
ああ、なるほど。
確かにわたしの魔法は、スカートや頭に乗せている秤を質量保存の法則を無視して巨大化、落下させることです。それで道路陥没や家屋倒壊なんてこともまれによくあります。
だからといって。
「あなた達に言われたくない!(勝てば官軍です)」
「な」
あれ。本音と建前が逆に出た気がします。
「お母さんはあんたをそんな子に育てた覚えはありません!」
まあいいd
「え? お母さん?」
「そう。あたしこそあなたの母おy」
「人様にそんな恥ずかしい格好をするなあああああ!!!!!!」
怒りと羞恥で満たされた秤は、三メートルほどの深さのクレーターを作りました。
まったく。母親がわたしの黒歴史を増やすだなんて。
前回の魔法少女のときにお父さんが戦闘員Dとして毎回襲ってきたのと同じくらいの気持ちかもしれない。
毎回練乳で全身強打していたのに、家に帰るとあざ一つなかったし。
メシマズナノデスを倒したから、今回の契約は解除されました。
「ただいまー」
「お帰りー。今夜は麻婆豆腐よー」
「あ、またお母さん料理してる! メシマズなんだからわたしがやるって言ってるのに!」
佐藤 かえで。パティシエ目指して頑張ります。
次に何かに契約されそうになったら、ぬか床に漬け込んでみようかな。
正直勢いでやった。後悔はしていない。