弐話 再会と裏切り
皆さんお年玉たくさんもらいましたか?ミナヅキは昨年比で減りました。
初投稿のシリーズです。至らぬ点も多々あると思いますが、ご指導ご鞭撻のほどお待ちしております。
第弌章 ポーリッツ王国動乱
弌幕 フリューゲル王国出立
あの後ぼくはヴィーとアルンと別れ、それぞれ派遣の用意をしてからバロニカ第一基地でまた会おうと約束した。
荷物は送ってもらえば事足りるけど卒業や辞令の報告をしたかったし、何より夏休み以来会えていない家族に会いたかった。またこれから2年間もあえなくなるとなると寂しい気もするが、軍務につくということは独り立ちするのと同義なんだ。もう学生じゃないんだ、と気を引き締めてみた。
「ただいま。」
「おかえりなさいませ、シエン様。全員テラスでお茶をしているのでいらっしゃい、と奥様から言付けでございます。あと、旦那様が渡したいものがあるそうで御座います。出発前に1度執務室へ顔を出したほうがよろしいかと存じます。」
「分かった、すぐ行く。それと聞いているとは思うがすぐポーリッツに出立しなければならないので、礼服を含めて荷物を大至急まとめておいてくれ。馬車が使えるから荷物は多少大きくなっても構わない。」
「かしこまりました。」
セバフ(うちの家に使える初老の超一流の執事)の去っていく背中を見てこう思った。
((帰って一番最初に会うのがセバフか。母様が出迎えてこれると思ったけどちょっと甘かったかな。))
驚いた。自分の記憶にあるシエンという人間は真っ直ぐに強く、強く在ろうとしてた人間だったのに...。友達と羽目を外すことはあっても、家族に寄りかかるような思考は捨てたのに。
やっぱり前世の記憶が戻ったのは喜ぶべきことだけど弊害も出てくるよね、そりゃ。怪しまれないように多少大げさであっても大人ぶってみるか?高等士官学校を卒業したんだ、そのせいだと納得してくれるだろう。
珍しくシリアスな雰囲気になっていたぼくだった。だけど、セバスのいったことを反芻しているうちにそんな雰囲気は半分ぐらい吹き飛んだ。
「サロン、か。なつかしいな...。ん?そういえば父様が何か渡してくれるって言ってたな..。」
用兵術関係の本かな、でもほとんど読んじゃったしな。ま、まさか秘蔵のエロ本か!...って、なわけねーか。
そんなことを考えながら歩いていると、こっちに手を振る兄さまが見えてきた。
「お帰り、シエン!卒業おめでとう!」
「ありがとうございます、兄様!それより、また昇進なさったらしいじゃないですか!おめでとうございます、弟としてとっても誇らしいです!」
「はは、ありがとう。祝う側のはずが逆に祝われてしまったね。」
そう言って目を細めて首をかしげる姿は、弟じゃなきゃこの身を捧げたいくらい艶やかさで残り半分のシリアスさんもどこかへ吹き飛ばしてしまった。
...うん、自覚してる。重度のブラコンだってことぐらい。でもしょうがないよね、兄様って社交界じゃ、女性男性問わずモテモテだもんね。
「それにしてもシエン、配属先の話聞いたよ、大変だね。ヴィーネさんもアルンヘイム君も一緒にいるだろうから大丈夫だとは思うけど...。うーん、シエンだからね。
「そうですね、ぼくですからね...って兄様ちょっと意地悪です!でもでも、無理矢理特進させての赴任ですよ、絶対あの古狸が一枚噛んでいるにきまってるんだ。」
「うん...伯爵、ね。ちなみにヴィーネさんはこの件についてなんて言ってた?」
「古狸のことですか?そうですね、駐ポーリッツの大使まで殺された件について嬉々として嘆いていた、とかどの国に飛ばそうかぼくの卒業を楽しみにしていた、と聞きました。」
「そう、か...」
思ったより掘り下げて聞かれて訝しんだぼくが何か事情でもあるのかと思って聞こうとしていた時、いきなり父様が口をはさんでき(やがっ)た。
「こら、いくら的を射ているからって、将来お前の義理の父になるかもしれない相手だ。シエン、そういうのは後々良くないとお前なら分かっているだろう。」
確かに古狸呼ばわりしているというのは叱られて当然だと僕も思う。でも叱るポイントがちょっとずれている気がする。これは母様案件だな、と思っていると、
「あ・な・た?そうじゃないでしょ?関係性が違ったら言ってもいい、って2人が受け取るかもしれないじゃない。
いい?2人とも、貴族っていうのはいくら優秀でも、子供みたいなやつが大半なの。悪口を言った言わないで紛争、そのまま両家おとりつぶしになった例だってあるの。メルキュール家はお父さんの功績で興ったんですからね、めんどくさい貴族に目を付けられないようにそういうのはこころにしまっておきなさい。
...まあ、いざとなったらパパにたのむけどね。」
案の定、ちょっと最後のしまらない説教をされた。
とはいえ流石王宮育ち、貴族の醜態をよく見てらっしゃる...と男衆3人の気持ちが尊敬の念で一致したとき。母様は連続でしゃべってのどが渇いたらしく、もう温くなった紅茶を一気に飲んでしまった。お代わりをメイドに頼むと急に何かを思いついたらしく、いつの間にか背後に待機していたセバスに声を潜めて何かを頼み始めた。気になって風魔法を使ったけれど隠密性重視で無詠唱でつかったので
「.....シエン.....ふに.....めいど.....」
のようにしか聞こえなかった。自分の名前が出てきたので恐る恐る顔をあげてみると、いたずらを思いついた子供のように無邪気に輝いた母様の目が僕をとらえて離さない。いつもの我が家だな、と言ってしまえばそれまでだけど、自分がターゲットなのでそうものんびりしていられないんだよ。そうだな、同じ表情をした後に起こった過去の事例でいうと...
1、もしやパーティーにガチで(息子に)女装をさせて出したら面白いんじゃないかしら!
⇒しばらく中等貴族学院で女装癖があると疑われるという地獄。
2、よく物語にある砂糖と塩を間違えたお菓子というものはどんな味なのか(息子で)試してみましょう!
⇒試すお菓子が砂糖菓子で、一口サイズの一気に食べるタイプだった時点で悪意しか感じられない。
等々...思い出すと余計に嫌な予感がしてきた。援軍を!と思い父様を見ると母様の表情に見惚れていた。...父様も母様もまだ元気だからなー、弟かなー、妹かなー。と、ちょっとあり得そうで怖い現実逃避をして(役に立たない)父様から目をそらした。残るは兄様のみ!と思い兄様を見ると、同じ結論に達したみたいで目が合うという奇跡。これはもしや運命か...!と思い、目での会話をしてみた。
((兄様、さっきから悪夢がフラッシュバックしたりと、嫌な予感がするのです。助けてください。))
((それはおそらくPTSDだね、緩和療法をお勧めするよ。がんばって!))
((それって失敗したら余計にひどくなるのでは...?))
((それはいわゆるコラテラルダメージという、治療目的の為の致し方ない犠牲なのだよ。))
((...っ!ゆか〇ラン大尉、だと!?))
((どうしたんだい?私は軍属じゃあないから階級はないよ?))
((あ、い、いえ、何でもないです。))
一瞬、前世のある自称戦闘のプロのセリフを聞いた。まさか兄様も転生者...?そんなことを考えていると
「お母様、私はまだ仕事が残っているので心苦しいですがこれで失礼させていただきます。シエン、一所懸命に軍務に勤しむんだよ。」
なんと兄様が、逃げた。
「そうなの?お仕事頑張ってね、ヤーサク。」
「はい。では失礼します。」
ぼくはそう言って自室へと速足で去っていく兄様の後ろ姿を見ながら、寂寥の缶に浸っていた。
いきなりの魔法登場です。デビューが主人公の盗聴用っていうのもちょっとあれですが、今後もっとちゃんと(多分)独自の理論でもって再登場しますのでご安心を。
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