ペット・セマタリー
「兄ちゃん、遅くにゴメン。実はな、兄ちゃんとこの、隣を買ってん」
と山田鈴子は言う。
「ああ」
と軽く返事。驚きはしない。なんだか、そんな気がしてた。
鈴子は<イノシシ男事件>の情報から、安い物件の存在を知った。
あの人らしく、ビジネスにしただけの事だと。
「一番に、橋を付け替える事になった」
「……成る程、さすがに使えませんか」
女が首を斬られ、遺体があった橋だ。
いずれ心霊スポットになるのは間違いない。
「でな、調べたら、あの橋は神流さん、兄ちゃんのお父さんが、村に寄贈しはったモンやった」
「へっ?……、そう、なんですか?」
コレは初耳だった。
父に聞いた覚えは無い。
わざわざ話す理由が無かったんだろうが。
「断りを入れるのが仁義やと、電話した」
「……父が寄贈した橋でも、壊して下さい。それが俺の希望です」
きっぱり答えて、電話を切った。
足下にシロがいる。
足首にもたれて半分寝ている。
マユは、消えていた。
「まだ、マユとは、話が残ってたのに」
とシロに呟く。
「カオルが一目惚れしてたって、言ってない」
薫の告白を聞いたのに、黙っていていいのか?
でも……どんな言葉で伝えればいいのが……難しすぎる。
(行方不明者リストの写真を見て)
なんて、
この口から出そうに無い。
第一、薫は全部過去形で喋ってた気がする。
手術が成功して、ガンの転移が無かったとなれば、
<死>が遠ざかるように、マユへの思いも……。
「やっぱ、黙ってようか?」
シロに聞く。
返事のようにスマホが鳴る。
また、山田鈴子だ。
「兄ちゃん、まだ話あってん。すぐにでも工事に入りたいから」
「工事?」
聖は鈴子が何を言ってるのか、理解出来なかった。
「前々から、企画は上がっていたけど、肝心の広い土地が確保できずにいた、」
と、聞いても話が見えないし、鈴子が買った土地をどう運用しようが
関心は無い。鈴子が自分に了解を取る義務も無いはずだ。
と、思ったままをストレートに告げた。
すると鈴子は、
「うん。新しい事業は神流剥製工房と関係ない。けど、関係ができるかも」
と謎のようなことを言う。
「……そう、なんですか」
新しい事業?
気になってきた。
「一体、どんな事業なんですか?」
聖は、大きな声で聞いていた。
鈴子の答えは
「ペット・セマタリー」
だった。