表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10年の時に  作者: まほろば
緑の大陸・獣人国
72/121

町2つ

書き直しました



昨夜のトラブルで精神的に苛々してた。

この心理状態で旅は危ういとソウに話して、1日水晶の中で座禅を組んだ。

『これも透の国のしきたりか?』

『みんながみんなはしないよ。僕は自分の感情が昂ってる時に、冷静になりたくて組むんだ』

ソウに御爺様の話をした。

僕の中で、座禅と御爺様は1つだったからだ。

『それほどに好きか』

『両親より好きかな。小さい時から剣の師であり、1番近い存在だったから』

ソウに聞かれるまま素直に話した。

居合いを習い始めた時の苦しさも話せた。

『苦しき道を何故選ぶ』

『追う御爺様の背中が目の前にあるから、かな』

初めは、ただ導かれるまま剣道を始めた。

幼かったし、日頃怖い御爺様に打ち込めるのが単純に嬉しかった。

それが何時しか自分の意思で刀を持ち、自分の世界の中心になった。

『10歳で居合いを習い始めた時、父は反対した。父も小さい頃御爺様の手解きを受けていてその苦しさを知っていたから』

深く、深く息を吐いた。

『それからの2年は毎日止めたくて仕方無かった。父はそこで止めたから、止めたかったら御爺様に話してやると言われた。止められると思った時、刀を置けない自分が居たんだ』

自分の両手を見て口を閉じた。

『透はそれで良い』

ソウは穏やかな顔で笑っていた。

丸1日水晶に埋もれソウと居た事で、荒れていた気持ちも静まりまた歩き出せた。


2つ目の町ワインレッドは獣人の姿があった。

20件くらいの家が固まって建っていて、真ん中は広場になっていた。

街や町の家の造りは、使う素材は違うけどエルフと同じ様に見えた。

人間に獣の耳や尻尾が付いている感じで、走ってる子供は元気で可愛かった。

レッドの街で話した熊の獣人も、後ろを見たら熊の尻尾があったんだろう。

ただソウと僕をジロジロ見てきて感じ悪かったけど、本屋で鍛冶の本を探しても嫌がられなかった。

「すいません。獣人の国の硬貨は持ってないので、何かと交換でこの本を売ってくれませんか?」

本屋の店番をしていたウサギ耳のおばさんに聞くと、驚いてたけど頷いてくれた。

「何と交換して貰えますか」

「薬となら」

おどおどと答えるおばさんにニコッと笑って見せた。

「どんな薬が必要なんですか?」

「骨折を治す薬と毒を消す薬と交換してくれたら」

緊張してるおばさんからは、本当に薬を必要としてるのが伝わってきた。

「怪我人が居るんですか?僕でよかったら診ます」

初級ポーションと毒消しを出して聞いた。

「診て貰っても払う物が無いから」

「いりません。怪我人を診せて下さい」

病人は店の奥に居た。

10歳くらいのウサギ耳の男の子で、木から落ちて右足の太ももを骨折していた。

怯える男の子に上級ポーションを飲ませて、果物とお菓子を出した。

エルフの国でアイテムボックスの在庫をかなり出してたから、渡せる物が少なかった。

「何か食べたいものはある?」

転移して買ってくるつもりで聞いた。

そうすると、消えそうな声が返ってきた。

「…お肉」

網と牢屋を警戒して、思うように狩りが出来ず食料が不足してるとおばさんが言った。

肉ならアイテムボックスに大量にある。

ウサギのおばさんに肉の塊を渡したら、町も飢えてるからもう少し貰えないかとお願いされた。

「良いですよ。皆さんで食べてください」

町の人に広場に集まって貰って肉を出した。

犬耳のおじさんが1頭分の塊を切り分けて配った。

「ありがとう」

おそらくこのおじさんがこの町の長だ。

一段落ついてからまた本屋に戻った。

本屋のおばさんに毒消しは誰が使うのか聞いた。

「魔物の蛇に噛まれて…」

毒消しが必要だったのは町外れに住むおじさんで、かなりの頑固者らしい。

僕まで怒鳴られるのは悪いと言って、おばさんだけ薬を持って家の中へ入っていった。

おばさんを怒鳴る声が外まで聞こえてきてた。

「行く必要はない。相手は動けない」

助けに行こうとした僕をソウが止めた。

納得いかなかったけど、行くなとしか言わない。

何故なのか考えてたら、ソウは町の長に挨拶してその足で町を出た。


『ナビ。次の町は?』

『ローズレッド。トホ55ニチデス』

『55。約2ヶ月か』

次の町へ最短距離を行けば半分以下の時間で着きそうだ、とか真面目に思っていた。

歩いてはソウと訓練して、僕には楽しい時間だった。

いつの間にかワインレッドの町の事も忘れていた。

ソウと2人で居ると御爺様と居るようで、自分が子供に戻っている自覚がある。

気付いた時はショックを受けた。

それから改めて考えて、未熟だから安心できる存在に依存に近い感情を抱いてると自覚した。

自覚して凹んだ僕に、ソウが言った。

「未熟ゆえ我が応えた」

………

ああそうか、召喚の時からソウには分かってて僕に応えてくれたんだ。

「ありがとう」

それからの旅は背伸びせず自然体で歩いた。

歩き始めて一月近くなるしそろそろピーチに戻ろうかと考えてたら、いきなり犬の耳の少年が森から飛び出してきた。

「薬持ってるんだろ俺にくれ。妹が病気なんだ」

早口な少年は手を突き出してくる。

「早く寄越せっ!」

「断る。そんな言い方の人に君なら薬をあげるの?」

「うるさい!寄越さないなら力ずくで奪うっ!」

ナイフを抜いて身構える少年を追って来たように、おじいさんが出て来て少年にすがり付いた。

「この子を許してやってくだされ、これの妹が熱を出していて薬と肉が欲しかったんですじゃ」

地図を見なくても、この2人が同情を誘ってポーションと肉をくすねようとしてるのが分かる。

旅が順調過ぎて何か落とし穴が有りそうとか思ってたけど、まさかのこの展開は予想してなかった。

『食糧難だから?』

声に出さすソウに聞いた。

ソウは速業で2人を気絶させた。

「楽に生活の糧を得る術に溺れた者よ」

この先も2人と同じ考えの獣人が出てくるだろう。

ソウは平然と言った。

「エルフの国ではこんなこと無かったのに」

「食の違いだろう」

「あ」

言われてようやく気が付いた。

野菜をメインにするエルフと肉をメインにする獣人。

狩りに危険が伴う今、食料の確保は死活問題だろう。

「礼儀知らずに情けを掛けるな」

「そうだね」

それが許されたら国が荒れるだけだ。

それでも後味が悪かった。


30日でピーチの店に戻った。

「ただいま」

「お帰りなさい」

「お帰りなさいませ」

アズが、シンはザスと買い物に行ってると言った。

ノアンはシンに怒られたばかりだから、しばらくは静かなはずだった。

だけど、何で2人で買い物?

不思議に思ってたら、シンはザスと重い物の買い出しに行っていた。

戻ってきたシンに聞いた。

「ダダは休み?」

「母親の兄弟が会いに来るそうで今日休みが欲しいと言うのでザスも休みにしました。それと旦那様」

シンは孤児院の子供の為に、鍛冶で出た残りで敷物を造って良いか聞いてきた。

「敷物?」

日頃隅に積みっぱなしの素材や革の切れ端を集めて、床に敷く物を作るらしい。

時間があれば造って欲しいと、孤児院のおばあさんに頼まれていたそうだ。

「ザスも造る気満々だね」

やる気のザスにお菓子を両手一杯出して渡した。

「仕事~仕事~」

小屋に持って行って仕事の合間に食べると喜んだ。

「何枚くらい造れそうなの?」

「5枚かなぁ~」

店をアズとノアンに任せて、4人で敷物を造った。

中でもソウが1番楽しんでいて、シンははらはらしてそれを見ていた。

前から思ってたけど、シンは苦労性だ。

人手が有るうちにと、出来上がった5枚をその日の夜には孤児院に届けた。

孤児院は老朽化した家でも綺麗に掃除がしてあって、子供たちも元気だった。

「わざわざありがとうございました」

敷物は寒さ避けに子供たちの寝室に敷くらしい。

下に敷くならと、売り物にならない毛皮を寄付した。

「それとこれを」

大金貨5枚と獣の肉をおばあさんに渡した。

孤児院からの帰り道で、知り合った経緯を聞いた。

シンが店番をしてる時におばあさんが来て、敷物を造って貰えないかと聞いてきたそうだ。

「最初アズに頼んだようですが、旦那様に聞かないと分からないと断られて、俺に頼んで駄目なら諦めようと思ってたそうです」

「子供大勢で大変そうだったな。来月からは毎月大金貨5枚を届けてあげて」

「はい」


翌朝獣人の国へ転移してローズレッドを目指した。

歩き出して3日目に、空を鳥が飛んでいるのを見た。

何気無く、この世界で鳥を見るのは珍しいなと思っていたら、ソウが軽く言った。

「あれが鳥人だ」

思わず足が止まってソウを見た。

「獣人は獣化出来る物が半数いる」

「獣化?獣の姿になるって事?」

「そうだ」

ソウは空の鳥を指して頷いた。

「こうして見てるのに信じられない」

それが正直な感想だった。

「向こうも気付いたな」

「そうみたいだね」

上空からこっちを見ているのが分かる。

歩き出しても上空が気になって、つい後ろを振り向いてしまっていた。

それからは獣人に向ける視線が変わった。

獣化でどう変わるのか。

何時か見たいと本気で思っていた。

ローズレッドが近付くにつれ獣人にも変化があった。

素直に肉が欲しいと言ってくるパターンと、強奪に来るパターンの2つに別れた。

もちろん前者は礼を尽くして肉を渡す。

後者は力で押さえる。

安全な場所から僕とソウを襲いに来るのは、リスクが大きいと解らないのだろうか。

「解れば己の身の程を見誤るまい」

一月後、やっとローズレッドが見えたところでヨハンさんの所へ転移した。

「ちょっと待ってくださいね」

ヨハンさんが品物を手早く魔法の袋に入れた。

「これをお願いしますよ」

「行ってきます」

その日は配達のあとピーチの店に転移した。

「ただいま」

「お帰りなさい」

「お帰りなさいませ」

ソウはスッと消える。

ノアンを嫌ってるから速い。

何時ものようにシンと店の在庫を補充する。

その時、最近アズが凹んでいるように見えるとシンが心配そうに言った。

「理由に思い当たる?」

「孤児院の頼みを断った事で旦那様に売られると怯えてる、とノアンがいってました」

「分かった、ザスと革の仕入れの話をしてから、アズと話してみるよ」

自分はその場に居ない方が良いだろうと言って、シンはアズと交代しに店に戻っていった。

ザスのメモを持って居間に行くと、アズがしょんぼりお茶を飲んでいた。

「アズ」

「旦那様。お帰りなさい」

「どうした?元気がないね」

「あ…あの」

アズが話始めるのを待ってたら、やはり原因は孤児院の話になった。

「捨てる部分を使うから、僕に聞いてみるとシンは言ったんだよ」

「で、でも…その後旦那様があんなに親身になってお金も出してて、だから…」

「何を怯えるの?誰もアズを怒ってないよ」

アズの心から恐怖が消えるまで、何回もこんな会話を繰り返す気がする。

根気よく付き合うしかない。


翌朝ローズレッドの手前に転移した。

ワインレッドの町と違って、ローズレッドは暴力で服従させようとする町だった。

子供の姿が無いから地図を見たら、女子供らしい点滅は奥の一件に集まっていた。

「通して欲しがったら早く肉を出せ!」

町へ入った途端怒鳴られてムッとした。

脅せば言いなりになると決め付けてる対応に腹が立って、囲んでくるおじさんたちを風で吹き飛ばした。

ソウはおじさんたちを見もしない。

「ちくしょう」

起き上がって拳を振り上げるおじさんを、もう一度吹き飛ばした。

ぷんとアルコールの臭いがした。

「まだやりますか」

気になって地面に尻餅を付いてるおじさんたちを見直せば、酔ってるらしくふらついてた。

おじさんたちは無視して奥の家を訪ねた。

「こんにちは」

声を掛けてコンコンとノックする。

「足りない物は無いですか?」

待ってると頭に角がある男の子が、後ろから押されて出てきた。

男の子の後ろにも同じ角が見えた。。

「こんにちは」

「こ…んにちは」

男の子の目は、この位置からは見えないおじさんたちの方へ向いていた。

「あ…の」

「ごめん。殴ろうとしたから大人しくして貰った」

「えっ…」

後ろの子を振り返ってお互いに見合ってる。

「酔っ払ってたから」

男の子の顔が歪んだ。

「生きてるの?」

「もちろん殺さないよ」

「そうなんだ」

残念そうに呟く男の子の目はぼんやり宙を見ていた。

「大丈夫?」

「え?うん」

思わず聞いた僕に、男の子は驚いた顔をしたけど直ぐ笑顔になった。

「肉ならあるよ」

「え?」

男の子の顔が輝いて、しょんぼりした。

聞かなくても何と無く分かる。

「お母さんは、いる?」

男の子は奥を見た。

「僕が訪ねたのは気付いてるはずなので、広場に1頭の肉を出します」

出てきた女性にアイテムボックスから干し肉の袋を1つ出して渡しながら、指を口に持って行った。

『保存食にどうぞ』

『ありがとう』

おじさんたちに聞かれないよう声を出さず会話した。

広場に出した1頭を切り分けたのは、やはり2度飛ばされたおじさんだった。

「この1頭は子供を飢えさせたくないからです。まだ態度を改めないなら僕もそれなりにします」




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ