初めての町と宿屋
初めての町は思ってた以上に小さかった。
何とか門番に銀貨1枚払って町へ入れて貰った。
真っ直ぐ通りの先にも門番が立っているのが見える。
入ってきたのが西門で前に見えるのが東門だとナビが教えてくれた。
ポツポツと通行人がいて、うちの1割?2割くらいは装備を付けていた。
「装備を付けてるのはみんな冒険者?」
『イエスマイマスター』
かなり汚ならしい。
あの身なりを見ると、この世界の冒険者は貧乏なのかもしれない。
「とにかく冒険者ギルドへ行ってみよう」
探さなくても冒険者ギルドは目の前にあった。
入って直ぐ右横に依頼掲示板、目の前の受付カウンターにお姉さん。
そして横にある酒場。
本と同じ光景につい笑いそうになった。
冒険者ギルドの規模は違うけど中の造りはみな同じだとナビが教えてくれた。
ポケットから出したように金貨5枚を握って受付カウンターに行った。
「すみません」
「いらっしゃい。御用件は何かしら?」
にこにこしたお姉さんが子供を見る目でこっちを見ていた。
「冒険者登録をお願いします」
イラッとしたのを隠して金貨をカウンターへ並べた。
「冒険者になりたいの?」
「はい」
「そう」
お姉さんはカウンターの金貨5枚と僕を見比べてから紙を1枚出してきた。
「これを書いてね。書けないなら代筆するわよ」
「結構です」
書きにくそうなペンを持って紙を引き寄せた。
名前トオル
年齢15
得意な武器剣
書き終えて顔を上げると、お姉さんが僕が書いてた手元を覗き込んでた。
「トオルくんて言うの?珍しい名前ね」
「そうですか」
「ホントに15才?」
「本当です」
本気で言った。
冗談じゃない。
子供じゃない!
登録のシュミレーションはナビと数回してるから慌てることはない、って思ってたのに。
こんな落とし穴があるとは思ってなかった。
それは確かに海外へ行くと日本人は小さいから子供に見られるって聞くけど、異世界もなのか?
「魔力の鑑定をするわね」
「お願いします」
クスクス笑うお姉さんが出してきた黒い板に左手を開いて乗せた。
本は水晶玉だった気がするけどここは違うのか。
「あら、思ったより有るのね」
一瞬ドキンとした。
「ん~、でも魔法使いにはなれないわね」
高かったら態々ステータスの隠蔽魔法をナビに教わった意味がない。
これでもナビの予想より高かったんだろう。
『サンシュツミスデス』
聞こえてくるナビの声が小さくなった気がした。
「最後はこの板よ」
そう言いながらブルーの薄い板を出してきた。
あぁこれが。
ナビが言ってたやつだ。
手を当てると年齢と名前が出るやつだ。
これがあるなら態々書かせなくてもいいと思う。
ギルドカードは手に入れた。
次は宿屋だった。
宿屋は料金がまちまちらしい。
残念だけど、この町の宿屋には1件もお風呂が無いと聞いてがっかりした。
町の中に入るまで、ナビにもその町の情報データが無いと言われてクレームは止めた。
汚い部屋とか嫌なので、この町で1番掃除のいき届いた宿を探して貰った。
料金は高かったけど清潔は譲れなかった。
宿のおばさんも笑顔で良さそうな感じだった。
部屋は6人部屋と4人部屋と個室があった。
勿論個室。
誰かと相部屋とか有り得ない。
部屋は清潔に見える。
見えたけど、クリーンを掛けないと部屋へ入る気になれなかった。
やっとベッドで寝れるのに、このごわごわの服が嬉しさを半減させている。
「はぁ」
がっかりしてため息をついたらナビが反応した。
『マイマスターシツモンヲドウゾ』
「この服、もっと肌触りのいい服にならないかな」
イメージすれば造れると教えられて、綿を思いながらシャツとズボンを造ってみた。
シャツは正解だけどズボンは柔すぎて失敗だった。
でもこれは使える。
シャツを数枚とボクサーパンツを数枚造った。
ズボンはGパンをイメージして、これも数枚。
この世界の服は暗い色ばかりだから不満だけど今回はそれに習った。
パジャマ替わりにスエットの上下も3セット造る。
これで風呂があれば文句無しだ。
ナビは魔法で浴槽を造って水魔法で湯を作ればいいと簡単に言うが、魔法で出した水には抵抗があった。
何処の水だ。
それが一番知りたい。
夕食の時間になって食堂に降りると、もう何人か先に食べていた。
メニューは無くて座るとごろごろの肉と野菜のスープと固いパンが出てきた。
薄い塩味で不味くはないけど美味しくもない。
夜営で焼いた肉が今一つ物足りないと思っていたけど、スープを飲んでみて足りないのは塩とコショウだと気が付いた。
この先を考えたら、調味料は絶対欲しかった。
あと、鍋か釜だ。
米が炊ければおにぎりも造れる。
其所でまた水がネックになった。
笑われそうで嫌だったが水の出所をナビに聞いた。
空気中の水分が魔法の水だと教えられて、脱力した。
吸ってる空気の中から作るなら飲めるし風呂の水にも使える。
もっと早くナビに聞くべきだったと今さら思った。
なら鍋も?
鍋は土の中の鉄分から作れて、蓋は木から造れると聞いて脱力してしまった。
森であんなに苦労したのは何だったんだ。
今度からは絶対ナビを活用してみせる。




