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10年の時に  作者: まほろば
ダイヤ国
46/121

シオンとザスとシン



目的の奴隷商は街の外れにあった。

思ったより清潔でホッとした。

土を踏みつけて固めてあるから歩きやすいし、屋根の代わりにテントを張っているから雨の日も平気だ。

テントの横に奴隷を入れてる檻があって、良く見ると左右に檻があった。

ここからだと中に入っている奴隷までは見えない。

シオンの代わりになる奴隷もいるかもしれないから、出る前に見てみよう。

応対に出て来た奴隷商に、主人がシオンを指差して売った時の書類が見たいと言った。

奴隷商は渋ったが、難癖を付けられていると主人が怒って言うと頷いてテントの奥に下がった。

シオンたちは奴隷商が書類を探す間も口論していた。

それを聞いてるのが嫌でザスと奴隷を見る事にした。

「あ…」

ザスが始めの檻に入っていた奴隷の前で足を止めた。

知り合い?

地図からその奴隷を見たら青から急に赤くなった。

奴隷の視線がザスの足に向いて、にっと笑った。

「お前が奴隷商に売られて以来だな。それよりザス。お前随分変わったじゃんか」

同じ村の村人だった様だが、明らかにザスを馬鹿にした態度で見てる。

ザスの方は見知った同じ村の村人に会って、嬉しそうにニコニコしていた。

「この人に買って貰って」

ザスが僕を見た。

「え?子供じゃんか」

奴隷がチラッと僕を見て、直ぐにザスに向いた。

それを聞いてニコニコしてたザスの顔が曇った。

「相変わらず嘘が下手だな、買い主は何処だよ」

奴隷はキョロキョロ左右を見てる。

「だからこの人だよ。強いんだよ。熊もあっという間に倒しちゃうし俺に勉強も教えてくれるんだ」

ザスは必死になって喋った。

「なら俺も買って貰ってくれよ。のろまなお前より俺の方が気が付くし器用だし何倍も働く。買い得だぞ」

泣きそうなザスの顔が僕に向いた。

「行こうか。シオンの方がそろそろだと思うから」

「ま、待ってくれ。俺の方が働くし、あっ」

奴隷を管理してるらしい男の鞭がパシリと鳴った。

ザスもビクッと大きい体を縮込めた。

余程鞭で怖い思いをしたんだろう。

檻の男はザスの足首を見てから態度が変わった、奴隷商に居る間は魔法を解いておくことにした。

戻ると、シオンたちはまだ書類を待っていた。

言い合いも尽きたのか、両者怒りを顔に張り付けてつんと反対方向を向いていた。

それから少し待つと、やっと1枚の紙を持った奴隷商がやって来た。

「これですな」

奴隷商は紙を見ながら言った。

「売ったのは母親ですな」

「嘘だ!」

書類を奪おうとするシオンの手を、奴隷商がピシリと打って鞭を持ってる使用人を呼んだ。

向こうで見た男と違う男が来た。

「躾が足りませんよ」

「僕が買ったのは半月前です。ここで売るつもりだったので躾はしていません」

シオンが慌てた顔で僕を振り返った。

「何でだよっ!俺は読み書きも計算も出来る!売るならザスの方だろっ!」

「忘れた?ザスがもう1人は君だと言ったから毛皮と交換した。君はそのザスを見下してたよね」

「違うっ!ザスとは仲良くしてた。な、ザスそうだろ、俺たち仲間だよな」

ザスが返事を迷って足元を見た。

「何でだよっ!」

「先にこっちの話をさせてくれないか。長く店を空けたくないんだが」

店主のきつい声とシオンの高い声が響いて、それを止めさせたのは鞭だった。

「今は大じ、つっ!」

奴隷商の合図で使用人の鞭がシオンの右手で鳴った。

僕が売ると言ったからの行為なのは確かだが、撤回する気持ちは無かった。

悔しそうに向きを変えたシオンに、奴隷商が書類を見ながら読み上げる。

「売り主は母親で、売値は大金貨4枚」

何か言おうとしたシオンの手でまた鞭が鳴った。

「条件として、自分が売った事は内密にして父親の里が売ったと言い含める事。売買理由は療養費とある」

「それこそ嘘だ。男と逃げる金が必要だったんだ。お前は知らないだろうが兄の葬式は家で出した。お前もお前の母親も兄をどこに埋めたかすら知らないだろ」

両手を握り締めて奴隷商を睨み付けているシオンは急に振り向いてザスに殴りかかってきた。

「お前さえはいと言えば済んだのに。お前さえ!」

その手を払って当て身で気絶させた。

ザスはぶるぶる震えて今にも泣きそうだった。

「あぁー、そっちも売った奴ですねぇ」

奴隷商は嫌そうにザスを見て、買い取りたくない顔を隠さない。

「ザスは売りません」

ザスを安心させてから店主の方を向いた。

「後は奴隷商がシオンに説明するでしょう」

「そうですね。少しは気も晴れましたから帰ります」

土の上に転んでいるシオンを見て気が済んだのか、店主は早足で帰っていった。

「さて、この奴隷を売っていただけるそうで」

「はい」

「さっき、文字も数字も出来ると言ってましたが?」

「書けます。数も足し算引き算は難なく出来ます。掛け算割り算は難しくなると詰まりますね」

奴隷商と話してる間に使用人がシオンの両手を後ろに回し手鎖を付けた後水を掛けた。

大男のザスが、僕の後ろで小さくなって震えてるのは笑えない光景で全然隠れてない。

「お前、読み書き出来るとか計算できるとか、そんな話は1つも聞いてないぞ」

シオンはグッと唇を噛んで横を向いていた。

「まさかとは思うが、奴隷が平民に戻れるとか思っているんじゃ無いだろうな」

シオンは答えない。

僕が首を傾げてるのを見て、奴隷商が教えてくれた。

「いえね、こいつが家に来た時一緒の小屋に居た奴が、そこにいた奴隷にそう言い触らしてましてね」

「…違うのかよ」

シオンの声が震えていた。

「そんな奴隷は万に1人も居ないさ。奴隷は一生奴隷だ。ようく覚えておけ」

使用人が呆けているシオンを立たせて奥へ消えた。

奴隷商は、シオンの値を決めるまで奴隷を見ててくれと奴隷の檻を指した。

さっきの事もあるのでまた見に行く気にはなれない。

待つ間ザスに聞いてみた。

「シオンに何て言われたの?ザスは奴隷商と聞いて怯えてたよね。僕は売らないと言ったはずだよ?」

暫く僕の顔とシオンが消えたテントを交互に見ていたけど、決心したように話し出した。

「お、俺はのろまだからシオンのおまけで買って貰えて、主よりシオンの言うことを聞けって。聞かなきゃ奴隷商に売り飛ばすって」

だからシオンに先に肉を渡したり、シオンの寝床の仕度までザスがしてたのか。

それで納得できた。

「ザス、僕の言ったことちゃんと聞いていた?」

「…俺」

「ザスは売らない。分かったね」

「うっ、うっ」

ザスが何度も頷いてぐずぐず泣いた。

「お待たせしました」

奴隷商は四角いお盆に大金貨40枚を乗せてきた。

その中から20枚を取った。

「僕が村長から買った時は約大金貨10枚なので倍額の20枚貰います」

「よろしいので?」

「はい」

ザスを促して出ようとしたら、後ろから奴隷商が声を描けてきた。

「もし奴隷が必要になったらいらしてください。お安く卸させていただきますよ」

「ありがとうございます」

2度と来ないだろうと思いながら言葉を返した。


奴隷商を出るときにまたザスの足首に魔法を掛けた。

王都を見るのは1日では無理なので、ナビの選んだ宿に2人用の部屋を取った。

宿まで歩く間に、足首に魔法を掛けたから足輪は人に見えない事を何度も教え込んだ。

宿に落ち着いてから、改めてザスの事を聞いた。

ザスの産まれはベビーピンクの近くの村で、かなり裕福だとザスが言った。

「裕福なのにザスを売るの?」

「俺、のろまだから」

「ザスは字も書けるし計算も出来る。もっと勉強すれば掛け算と割り算も今より早く出来るようになる」

「俺馬鹿だから。シオンみたいに速く出来ない」

「そう思うなら勉強するんだ」

「…はい」

ザスは宿の夕食に驚いていた。

3人前をペロリと平らげて嬉しそうに寝てしまった。

『ナビ。あの城に入る方法は無いかな?』

『4ツキゴノコクオウタンジョウサイニイチブカイホウサレマス』

『それまで待つのか』

翌日街を歩いた。

新しく本を買ったり、食糧を買い足したしながらあちこち回った。

冒険者ギルドでザスを冒険者にしようとも思ったけど、次の大陸に行くことを思えばヨハンさんとか信頼できる人にザスを預けるのが1番良いと思えた。

考えながら道を変えて宿に戻ろうとした時、右の大きな建物から歓声が上がった。

入り口を探して壁伝いに歩くと、大柄の男が4人高い門の前に立っていた。

「入るなら入場料を」

「ここは何ですか?」

「何だ知らないのか?」

「ここはコロシアムだ」

どこかの町の広場で聞いたと思い出した。

「1人金貨5枚だ」

『キンカ3マイ』

黙ってギルドカードを見せて、金貨6枚払って中へ入っていった。

中は大きな円形ドームになっていて、真ん中にリンクみたいなのが作られていた。

壁に対戦表が吊るしてあって、1日3試合らしい。

昼からの開演なので残りは最後の人対獣だけだった。

獣は魔獣と見間違うほど大型の熊。

対する男は傷だらけだった。

足には足輪が着いている。

負けると分かってる戦いに挑む男の顔は静かだった。

ザスが震えてるのが伝わってきて顔を見れば、目を見開いて男を見ていた。

「ザスの知り合い?」

「同じ村の…兄貴の友達」

「お兄さん?」

あっ、男の子がザスだけなら親が売るはずがないのに、言われるまでそんな事にも気付かなかった。

「兄貴は遊んでくれなかったけど、シンにいちゃんは俺も一緒に遊んでくれたんだ」

ザスの顔はこの後の残酷さも知らず、男への懐かしさで一杯だった。

ふと、本当に毛皮商に成ってしまおうか。

そんな妄想が生まれた。

始めのゴングの後はザスが目を背ける光景だった。

このタイミングで男を見たのはザスのために買えと言われてる気がした。

ぎりぎり勝てるよう、熊に風でダメージを与える。

勝っても立ち上がれない男にブーイングが起きた。

コロシアムの職員?が横から走ってきて男を引き摺って下がっていった。

動揺するザスをなだめて入り口近くに待たせてから、関係者の居る奥へと行った。

「この役立たずがっ!」

主らしい男が男の脇腹を蹴飛ばす。

それでも男は動かない。

「少し良いですか」

「何だお前は」

ムッとしながらギルドカードを出して見せた。

「えっ!Sランクっ!」

「その男、頑丈そうなので練習台に買いたいと思ってきたんです」

主がニヤリとした。

「この男に…」

「もう捨てるだけでしょ。Sランク相手にぼったらどうなるか解って言ってるんですよね」

「いや、元手が掛かってるんだ簡単には売れない」

主を横目に見て笑って見せた。

「じゃあいらないです。その代わり、もし王都に魔物が襲ってきても僕は討伐に参加しません。もし参加を求められたらあなたの名前を出して断ります」

「そ、それは脅しじゃないかっ!」

「あなたがSランク冒険者からぼろうとするからですよ。こちらはぼろきれの奴隷を買い取ってやろうと言ってるんです。恐喝はぼろうとしたそっちですよ」

自分でも呆れる。

この世界に来て、自分が悪人に染まった気さえした。

「う、売る」

主の目は足輪を見てほくそえんでいた。

売っても所有印は自分だと思っている顔だった。

「じゃあ」

主に大金貨15枚を投げて足輪の所有者を書き換えた。

「あぁ?」

間抜けな顔は見たくないのでザスを呼んだ。




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