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10年の時に  作者: まほろば
ダイヤ国
44/121

氾濫と奴隷



次の街は王都ピーチ。

向かうのを1日伸ばして、町の慌てぶりを見てから王都に向かうつもりでいた。

が、1500の襲撃は予想より早かった。

明け方から始まった襲撃に軍も冒険者ギルドも何も出来ず、被害は町の中にまで広がった。

まだ町に残っていた冒険者を召集しようと冒険者ギルドは必死になった。

僕と3人の冒険者が泊まっているこの宿に、ギルドマスターが来るほど現状は逼迫していた。

「お願いだ、討伐を手伝ってくれ」

「前回の討伐も報酬無しでした。それで助けろと?」

宿の食堂で冒険者4人とギルドマスターで会った。

「悪かった。今回はちゃんと報酬も出す」

『ナビ。氾濫の様子は?』

『グンハトウソウ』

ギルドマスターと話してるうちに、前回の討伐に参加した1人がやって来てこちら側に立った。

必死なギルドマスターに年長者は条件を出した。

「またうやむやにされたくないので、報酬は先に払って貰います」

「何でも出す。だから町を救ってくれ」

「条件はギルドランクアップと、討伐した魔物の素材は当然の権利でこちらが貰います」

『上手な交渉だね。僕も見習おう』

『マイマスター』

『ギルドランクを条件に出したのはね、前回より数が多い討伐の報酬と前回無しにされた報酬を合わせたら妥当だと思ったからだよ』

『ソノカンテンカラデハギャクニスクナイカト』

「わ、分かった。だから早く倒してくれっ!」

また3人冒険者が増えた。

これで8人、2人は昨日発ったらしい。

「報酬は先と言いったはずです」

「分かった、倒した後必ずランクアップさせる」

オウムのように自分の方の要求だけを繰り返すギルドマスターは信用できなかった。

やはり年長者もそう思ったらしく首を振った。

「信用できません。1度は冒険者を無償で討伐させた事実があります」

「いや、それはだね…」

口ごもるギルドマスターに出口を指差した。

そのタイミングで最後の1人が入ってきた。

8人が集まっているのを見てホッとした顔になった。

「交渉は決裂ですね。お帰りください」

「この町の住人を見殺しにするのかっ!!」

「そちらが約束を守らない結果です。我々に頼らず自力で助けたらどうですか」

ギルドマスターはぎっと睨み付けてきて、悔しそうに条件を飲むと言ってきた。

「それでは冒険者ギルドへ行きましょう」

「先に討伐してくれ!」

「何度繰り返したらいいんですか?それなら自分たちで討伐してください」

年長者は終始冷静だった。

ギルドマスターは悔しそうに冒険者ギルドに同行して、職員にランクアップの話をした。

『マイマスター』

『決裂だろうね』

職員が出してきた僕のギルドカードにはSランクと偽造の魔法がかけられていた。

「偽造の魔法ですか」

冷たく僕が言った。

ギルドマスターと職員がぎょっとした。

「いや、そんな事はない」

ギルドマスターの動揺した素振りに他の冒険者も自分のギルドカードを確認し始めた。

「僕のギルドカードにはスペード国で付けて貰った不正を見破る機能があります」

スペード国のギルドマスターの印を指した。

「あ、…」

ギルドマスターが諦めた顔で職員に頷いた。

改めて戻ってきたギルドカードは偽装もなく、Sランクに変わっていた。

他の8人のカードもギルドランクが上がっていた。

「Sランク…」

僕の横にいた冒険者には僕のランクが見えたのか、脱力したように呟いた。

「えっ!Sっ!」

8人が覗き込んできた。

「それもスペード国のギルド印付きか…」

1番に立ち直ったのは年長者だった。

「約束は守ります」

討伐に向かいながら、8人に伝えた。

「1発なら雷の魔法が使えます。味方を感電させたくないので先に撃ちます」

「それなら前の時も使えたんじゃないのか」

不平の声を年長者が抑えた。

「かなり魔力を削られるので頻繁には使えないんです。まだ8割くらいなので300倒せればと」

「300減らしてくれるだけありがたいさ」

年長者が自然体で言った。

「念のためにどうぞ」

1人2本初級ポーションを渡す。

「いいか、体力の限界を感じたら撤退しろ。長期戦になるから回復したらこい。いいな」

残りの7人は雄叫びを上げたが、僕は遠慮した。

『マイマスター』

『何故火力を落とすか?』

『イエスマイマスター』

『僕が全滅させたらどうなる?結果を考えて。僕は後8年この世界にいる。逆に8年しかいない』

歴史を変えることは極力したくない。

ナビも納得したのか黙った。

群の真ん中に加減して雷の全体魔法を撃った。

計算では800減らすつもりが、魔力の計算が違ったらしく600しか減らなかった。

「300より減ったな。よく頑張ったぞ」

年長者が僕の頭をグリグリ撫でた。

!!

あまりに自然で逃げる事も出来なかった。

相手に悪意が無かったからだと思う。

唖然としてる僕を、相手は誉められて動けないと思ったらしく笑いながら魔物の群に向かっていった。

ナビに言われて、急いで倒した600を風でアイテムボックスに入れた。

もしナビに言われなかったら、馬鹿みたいにその場で呆けていたと思う。

900倒すのに朝から夜まで掛かった。

ボスははにわに似た石の人形だった。

ドロップはレインボーカラーの小さい玉。

討伐が終わった時、怪我はあるけど全員生還した。

そう聞いていたのに年長者の怪我は重症だった。

仲間を庇って受けた傷だと1人が泣いていた。

「大丈夫ですから水を持ってきてあげてください」

年長者と2人になると急いで上級ポーションを出して、飲ませながら回復魔法を使った。

「雷だけかと思ったら光も使うのか」

楽になったのか年長者は苦笑した。

「どっちも初級ですが」

「お陰で命拾いした。礼を言う」

年長者は『ハドソン』と名乗った。

スペード国からの旅人だと言った。

「ステルスさんを知っているのか?」

「はい、知ってます」

相手がスペード国の人だから素直に肯定した。

「名前を聞いていいか?」

「あ、申し遅れました。僕はトオルといいます」

「トオルか、覚えておこう」

その場でハドソンさんを含めた8人と別れた。

後に残ったのは、3分の1壊されたチェリーピンクの町だった。


その翌日、チェリーピンクを発った。

次の街は王都ピーチ。

1ヶ月半の長い旅だ。

地図を見ると、チェリーピンクから先はかなり町と町や街の間隔が開いている。

不思議に思っていたらナビが教えてくれた。

他の国から侵略されても応戦できるようチェリーピンクまでの街や町に軍の半分以上を駐屯させていると言った。

ピーチまでに5つの村があるけど、王都に近付くにつれ態度が横柄になった。

言葉のはしはしに他の国への優越感が覗いていて、それを聞いてるとうんざりしてくる。

『ナビ。僕はこの国が1番嫌いだ』

ナビは答えない。

考えたらナビには人間みたいな感情が無いから、好きとか嫌いとかは理解できないと後から思った。

3つ目の村に着いたのは昼過ぎだった。

畑を耕してる奴隷の中に大人並みに大きい奴隷がいて、横の少年奴隷がこそこそ何かを話し掛けていた。

気になって風の魔法を使う。

「こうして真上に抜くんだよ、横に引くと中で折れて見張りに怒られるからね」

「こうか?」

「そうだよ」

少年奴隷は見張りが回ってくるのを見て、大男から離れて自分も抜き始めた。

雰囲気からクラブ国の奴隷には見えなかった。

気にはなったけど、あの男の子の時みたいに足抜けとか言われたら堪らない。

「うちの奴隷を熱心に見ていましたね。あの中の気に入った奴隷は売っても良いですよ」

「いえ、王都に着いたら買うつもりなので村の奴隷を見てたんです。カモにされるのは嫌ですから」

「そうですか。ちなみに予算は?」

『ナビ。この国の奴隷の値段は?』

『ダイキンカ10カラ15』

「高くて大金貨12枚ですね」

「そんな安値では子供も買えませんよ」

大袈裟なジェスチャーに思わず体が引いた。

「子供で構いませんよ。読み書きを教えて、商売の手伝いをさせるつもりですから。安いだけ良いです」

「はは、そうですか」

何かを思い付いたらしく身を乗り出してくるから、乗り出された分下がった。

「うちに良いのが居ますよ。親が死んで奴隷になったんですが、読み書きが出来るからお買い得ですよ」

「いくつですか?歳よりはいりません」

「今年14です。如何です」

「見て話してみないと決められないですね」

僕が乗り気じゃないからか、村長があからさまに疑いの目を向けてきた。

「どんな商売を?」

「毛皮を」

鞄から3枚ほど出して見せた。

「これは立派な。譲っていただくわけには?」

ナビの出した金額を告げると、高いどこそこが切れてると値を下げようとする話術に疲れた。

「そこまで言うなら他で買ってください」

もう泊まる気持ちも無くなって立ち上がった。

つくづく僕は商人に向いてないと思った。

「それなら毛皮1枚と奴隷を交換してください。うちにいるのは傷もないしダメなら王都で売れますよ」

腕を捕まれそうになって逃げても村長は諦めない。

「分かりました。売れる毛皮はこれです。嫌なら取引はしません」

出した毛皮は大金貨20枚の熊にした。

「いや、それでは安くて売れませんよ」

「間違えないでください。毛皮が欲しいのはあなただ。僕はここで奴隷を買いたいわけじゃない」

「うちの奴隷は上物を揃えてるんですよ」

「畑にいた奴隷は大金貨2枚~8枚です。どれが上物何ですか。商売人を騙せると思ってましたか?」

村長は悔しそうに奴隷を連れに行った。

こんな状況でまだ売るつもりなのには驚く。

予測通り、村長はあの少年奴隷を連れてきた。

着てる奴隷の服が大きめで裾を引き摺っていた。

村長の隣に座らされた少年奴隷はぎゅっと唇を噛み締めて横を向いていた。

「ちゃんと前を向かないか」

ピシリと後ろで鞭の音がした。

村長の手には乗馬用に近い鞭があった。

「売り物を傷付けると値が下がりますが」

村長ははっと鞭を背中に隠した。

「君は読み書きが出来るの?計算は?」

「出来ます」

「これを解いてみて」

紙に簡単な足し算と引き算掛け算と割り算を書いた。

少年奴隷はさらさらと解いた。

「如何で」

村長が揉み手するように聞いてきた。

「彼だけじゃ金額が釣り合わないかな」

「とんでもない大金貨18枚でこっちは買ったんだ」

「嘘だ!払ったのは6枚じゃないか」

少年奴隷を殴ろうとする村長の手を叩き落とした。

「もう1人連れていくとしたら誰?」

「トーイ、を」

「この子とトーイの2人と毛皮を交換する。いいね」

村長が村人に連れてこさせたのは、体は大きいけど昼とは違う青年だった。

青年の足には奴隷の足輪がついていた。

少年の足にもだろう。

『ナビ。あの足輪を取る魔法はあるの?』

『アリマス、デスガ』

ナビが頭の中にこの部屋を写し出したら、3人とも赤く写った。

『共犯?』

『チガイマス』

「2人とも足を出して」

「な、何を?」

「所有者を変えるんです」

「え!奴隷商でも無いのに?」

「出来ますよ。足を出して」

2人は目配せしてから大人しく足を出した。

「最初に言うよ。僕は若いけどSランク冒険者だから、反撃は手加減しないよ」

穏やかに笑って3人にギルドカードを見せた。

3人がぎょっとした。

「敵意を向けられると分かります。交換するなら他のにします。村長。もう1人大きい奴隷が居ましたね」

「あれは…、一昨日買ったんですが躾がまだで」

「連れてきて下さい」

足輪の付いた大男を座らせ字が書けるか聞いた。

地図の彼は青かった。

「少しなら」

「数字は?」

簡単な計算をさせると、掛け算と割り算で詰まった。

「僕の言う通りに書いて」

ペンの持ち方はぎこちないけど素直な字を書いた。

「奴隷をもう1人連れていくとしたら誰かな」

「来たばかりで…」

大男は少年をチラチラ見ていた。

「分かった。この2人にします」

2人に足を出させて所有者を変えた。

村長から泊まるよう言われたのを断って村を出た。




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