残念な結果
次のローズピンクの町までは15日。
間に村は6つ。
ローズピンクまで歩いてからピンクに戻れば、約束に丁度良い計算だと思う。
変わり無く3つ目の村に着いた時、突然魔物が村を襲ってきた。
逃げ惑う村人は戦う術もない奴隷に倒せと命令する。
村に居る奴隷は15人ほどで、4人は女性だった。
男女構わず棒を持たせて魔物の前に蹴倒す。
ただ棒を持って震えている奴隷を下がらせて、魔物を氷の剣で倒した。
「あ、ありがとうございました」
村長が出て来てお礼を言う間に、村人たちが奴隷を蹴りながら奥の小屋に閉じ込めた。
「お目苦しい物をお見せして、すみません」
「いえ、農業用の奴隷に戦闘は無理です」
「あなたはどちらの国の?」
「僕はハート国から旅をしてます」
嘘は言ってない。
「ああ、確かハート国の奴隷はみんな国営農園に居るんでしたね」
「そうです」
村長は納得して自分の家へ招いてくれた。
「昔は殆んど魔物の被害は無かったんですが、ここ数年はたまにですが耳にするようになりまして」
この村が襲われたのは初めてだと体を震わせていた。
「あなたが居てくれて助かりました。まだほんの子供なのに強くて驚きました」
村長の言葉にかなりむっときた。
スペード国で耐性が付いたはずなのに違うらしい。
「あの、魔物を譲っていただく事は出来ませんか?」
「良いですよ」
村長の提示した金額にナビはノーと言った。
「その金額では売れません。商談が終わる前に解体しているようですが」
「いえ、そんな事は…」
村長の目が泳いでいた。
ナビから適正価格を聞いて提示すると、村長は渋々の態度で値切ってきた。
「この話は無かった事にします。文句があるなら冒険者ギルドにどうぞ。Aランク冒険者からぼろうとするやからは相手にされないでしょうが」
「Aランクっ!」
村長のしまったと書いてある顔を横目に外へ出ると、解体中の魔物を鞄からアイテムボックスへ入れた。
「村長との商談は決裂しました。獲物は売りません」
まだ皮を剥いでる途中だったのが幸いした。
もう泊まる気持ちも無い。
その足で村を出て、何時ものように夜営した。
「ナビ。この先も腹立たしい気がするよ」
『イエスマイマスター』
次の町ローズピンクに着いたのは16日目だった。
約束の一月まで3日あるから、ローズピンクに2泊するつもりで宿を取った。
ローズピンクは鍛冶屋の町だった。
鍛冶に必要な魔物から取れる素材を、高く買い取ると書いてある店が並んでいた。
アイテムボックスの中には大量の素材が入っているが、次のドワーフの国まで出したくない。
逆に持ってない素材を買いたいくらいだ。
冒険者ギルドに情報は無いかと立ち寄れば、職員は奥でお茶を飲んでいた。
話を聞ける雰囲気じゃないので、早々に引き上げる。
何の収穫もなく、ピンクに転移した。
一月前泊まった宿に個室を取った。
窓から店の裏を覗くと、変わってない感じだった。
夜になって、妙に店主が小屋へ出入りしている。
不審に思い、小屋の中の会話を魔法で聞いてみた。
「まだ来ないのか?」
「まだ来ません」
話しているのは店主と使用人らしい。
あの男の子たちの声は無かった。
「来たら捕まえて奴隷の足抜きはどんな刑罰になるかとことん体に教えてやれ」
一瞬自分の事がばれたと冷や汗が出た。
その直ぐ後、いや大丈夫だと思った。
宿の主人が僕だと分かってるなら宿に来た時に捕まえてるはずだ。
誰か分からないから小屋に使用人を張り込ませてる。
店主が宿に戻った後、使用人が誰かと話し出した。
「こんなところに3日も張り込まされてよぅ」
「今日辺り来て貰いたいもんだ」
話の感じから潜んでいる使用人は2人と分かった。
「あの調子じゃ後3日は張り込ませるつもりだぜ」
「こっちにしたら堪ったもんじゃねぇ」
「ホントだぜ」
途中ちょこちょこ店主が来て話が中断したが、話をまとめると危ないと思ったあの女の子が仕事中干し肉を噛んでいた事から店主に見付かったらしい。
渡した本は没収して焼いたそうだ。
驚いたのは見付かったのが僕が宿を出た3日後で、干し肉は女の子が噛んでたのが最後だったらしい。
僕にとって幸いだったのがあの3人に日にちの感覚がなくていつ泊まった客か断定できなかった事だ。
逆に残念なのは3人はばらばらに売られてしまって、あの男の子を見付ける手段が無いことだ。
ダイヤ国は裕福だけど金に汚いのかもしれない。
船が出る街まではまだかなりあるけど、早く着きたいと本気で思った。
翌朝ローズピンクに転移して、次の町チェリーピンクを目指した。
チェリーピンクまでは3週間で村は5つ。
村と村が離れてると地図でも分かった。
『ナビ。気のせいかな?魔物の気配が強くなった?』
『イエスマイマスター』
周囲に人が居るので頭の中で会話する。
地図の感じだと出て来たローズピンクか、向かっているチェリーピンクが氾濫の中心になりそうだ。
まさか両方同時は無いと思う。
『ナビ。これはまだ指導者になるボスが決まってない状態で、決まったら一気に来るね』
『イエスマイマスター』
『それ次第で襲う町が決まるよね。取り敢えずチェリーピンクに急ごう』
間に合わないと大惨事になる。
それからは強行軍だった。
3週間の道のりを18日、2週間と少しで着いた。
チェリーピンクから王都のピーチまでは1ヶ月。
かなりの距離がある。
『ナビ。出来るだけ町の中心に宿を探して』
『イエスマイマスター』
氾濫が起こるのはここ2、3日。
地図を見るとまだどちらとも言えなかった。
『かなりの数になりそうだな』
チェリーピンクなら1000ほどだけどローズピンクなら1500を超える。
数的にはローズピンクだと予測してたら、チェリーピンクに向かってきた。
ローズピンク周辺にいた集団もチェリーピンクに向かっていて、1000弱の襲撃の後に1500の襲撃が来る、予測を裏切る形になった。
1000弱の予測は約800で、ボスは後続の1500の最後尾にいた。
夜に襲ってきた魔物の大群に町人は右往左往した。
軍と冒険者ギルド、どっちが先に動くかと思ったら、襲われるまでどちらも動かなかった。
ハート国でアランと知り合う切っ掛けになったあの氾濫は、数は間違ってたけど予測できていた。
なのにダイヤ国は予測できないのかもしれない。
かなりの被害が出てから駐屯している軍が動き出して、遅れて冒険者ギルドが動きだした。
『ドウサレマスカ』
『まだ動かないよ。不思議なんだけど、今まで氾濫の時どうしてたの?』
『300ホドヲクリカエシテイマシタ』
『300?何故少ないの?少なかったの?』
『ドレイヲヘイシニシタカラデス』
『どうゆう意味?』
『ドレイニヨッテタイリクナイノセイメイバランスガクズレルカラデス』
『まさか…、兵士にして死亡率が下がったから?』
『イエスマイマスター』
『決めたのは僕をこの世界に来させたあの声?』
『チガイマス。ジョウイシンデス』
初めからこの大陸の人工は決まってたのか。
思えばあのアランに会った氾濫も、最初200の予想が400になったけど小規模だった。
魔物の氾濫で人口を調節するとか、神は神の仮面を被った死神なんだろう。
それなら軍が討伐に向かっても奴隷が死ぬばかりだ。
その日、軍は軍だけで対処すると市民や冒険者ギルドに宣言したが、翌日には壊滅状態で撤退した。
慌てた冒険者ギルドの召集の呼び掛けに、答える冒険者はいない。
同じ宿に泊まり合わせた冒険者もダイヤ国の冒険者ギルドの対応に怒っていて、この宿が襲われないうちは参加しないと言った。
地図から見ると、軍が奴隷を使って倒したのは約400で半分でしかない。
困り果てた冒険者ギルドは、驚くほど報酬額を上げて冒険者を募った。
『この金額をホントに払えるの?』
ナビが答えない。
『払えないんだね』
『イエスマイマスター』
傍観してるうちに報酬額に釣られて、1人また1人と参加者が増えていく。
これでは冒険者の被害が増える。
倒した魔物は倒した者が貰う条件で僕も参加した。
「本当に倒せるならくれてやる」
冒険者ギルドの事務員は半分自棄のように言った。
ダイヤ国の冒険者ギルドを信用していないから、倒しながら素材はアイテムボックスへ回収していった。
半日足らずで400は片付けたけど冒険者側の被害も多く、怪我人も多かった。
生還したのは僕を含めて11人。
生き残った冒険者と冒険者ギルドへ行くと、慰労の言葉も無く逆に素材の返却を求めらた。
冒険者側は当然の権利と素材の返却は拒否。
年長者が倒した報酬を要求した。
氾濫がこれで終わったと思っていた冒険者ギルド側は、報酬を払わず冒険者を追い払った。
そのまま冒険者ギルドを出て、別れる時に1人に1つ初級ポーションを渡した。
「良いのか?」
「はい。旅先で商人を助けたお礼に貰った物なので使ってください。僕1人なら職員に言い負けて素材も盗られたと思うのでこれは皆さんへのお礼です」
距離的に明日には1500の襲撃が始まる。
助けるつもりでチェリーピンクに着たけど、冒険者ギルドの対応の酷さに傍観を決めた。




