懐かしい顔
『ナビ。ヨハンさんが何処にいるか分かる?』
『イエスマイマスター』
頭の中に地図が開いて1ヶ所点滅した。
『ありがとう』
店の裏に回って転移した。
ヨハンさんは予想通り冒険者ギルドにいた。
「えっ!トオルっ!」
驚いてるヨハンさんを外に連れ出した。
久し振りのライトの街だ。
「話はヨハンさんの宿で」
ヨハンさんの部屋に僕も泊まるよう追加を払った。
「トオルも転移が使えたんですね」
「国には帰れないですが」
「それは仕方無いでしょうね」
ヨハンさんは笑って10年経てば入れるよう魔法を掛けたんだろうと言った。
「兎に角、私に聞かせたい話があるんですね」
手短にロベルトと会ってからの話をして、名前の話を最後にした。
「やはり、気になってトオル宛にも送ったんですが読んでませんね?」
「すいません、ロベルトと別れて、直ぐ飛んできてしまったんです」
ロベルトが急いで冒険者ギルドへ戻った理由が分かっていたから、こっちも急いだと言うと頷かれた。
「実はさっきも聞かれてたんですよ」
「もう届いたんですか?」
「30分ほどで届きますよ」
ヨハンさんの口調だと商談の話は進んでなさそうだ。
「トオルの話だと資金も店も盗られてるんですよね?私との商談の資金は何処から捻出するつもり…ああ」
ヨハンさんも話ながら気付いたのだろう。
「だからトオルですか」
「多分」
「他力本願では商売は成り立たないと言うのに」
「僕との約束は3日後です」
「だから急いでるんですね」
さっきロベルトの手持ち資金大金貨88枚分の初級ポーションを売ったと話したら、残念そうにしたヨハンさんは根っからの商売人だと思った。
「乗っ取ったブル商会はハート商会より悪質なんですよ。兄が売って弟が仕入れと分担が別れてるので効率がいいんですが、書類偽造はお手の物。トオルも気を付けた方が良いですよ」
「それで商談が流れたんですか?」
「違いますよ。私たちも、ロベルトの父親と私は互いに歳ですからね、もしどちらかが倒れたらの符号が有るんですよ」
「符号、ですか?」
聞いてハッとした。
それが互いの子供の名前だとしたら…。
「諭いトオルは気が付いた様ですね」
「本人の確認は?」
「顔を見れば解りますよ」
ヨハンさんは簡単だと可笑しそうに笑った。
確かにそうだ、と思った。
王都ハーツの店を守ってるヨハンさんの息子もヨハンさんにそっくりだから、ロベルトも亡くなった父親にそっくりなんだろう。
「話は戻りますが、ブル商会で冒険者を雇うのは仕入れの弟ですか?」
「それは私には分かりませんが、ブル商会からは納品に行かないで客に来させるそうなので仕入れかもしれませんね」
「傲慢な商売で潰れないんですか?」
「スペード国1番で王族御用達だそうですよ。冒険者も50人は雇ってると聞きました」
「店主が雇うんですか?」
「まさか、雇い入れを担当する社員がいるんですよ。小さいながらうちの店にもいますよ」
ヨハンさんの話で疑問は解けた。
スクラムは知らずに応募したんだ。
ホント、スクラムは裏切らない。
「ロベルトは引き受けました。アランもこの町に戻ってますよ」
聞いてる側から部屋のドアが乱暴にノックされた。
返事も聞かず入ってきたのはアランで、その暑苦しさにステップして逃げた。
「暫く見ないうちに少しは顔付きもしゃんとしたな」
「冒険者ギルドで聞いてきたんですか?」
ヨハンさんが聞いた。
「ヨハンさんが若い冒険者に拐われたって聞いて、宿に着たら部屋で話してるって言うから急いできた」
「はは、着たらトオルで驚いたんでしょう。私も驚きましたからね」
2人に短くクラブ国とスペード国の話をした。
「クラブ国の自滅は時間の問題だ。スペード国が狙っても間にクロスがあるから、ハート国もダイヤ国も絶対に侵略は許さないさ」
「ならクラブ国が無くなったらどうなるんですか?」
「新しい国が出来るか、ハート国とダイヤ国で領土を半々にするかだろうな」
「かなり痩せてますよ」
「土地も人もな」
最後のアランの一言がとても重かった。
話が一段落してから僕の話になった。
転移が出来るなら何故顔を見せなかったとか、2人からかなり言われた。
正直何処まで転移できるか分からなかったから、言わなかったと説明した。
「転移出来るなら何故ぐずぐずしてるんだ?こっちへきてもう1年だろう?」
「僕の転移はめんどくさくて、実際行った場所にしか転移出来ないんです」
「きっとそれは親心ですよ。自分の足で歩かせて、10年でなるべく多く世界を見せたかったんでしょう」
ヨハンさんの話にアランも大きく頷いていた。
「1年でハート国とクラブ国、9ヶ月でスペード国を走破したのか。最後はダイヤ国だな」
「国の国民性には驚かされます。特に頭にきたのはスペード国の僕を『ガキ』って嘲ることです」
ヨハンさんとアランが目配せしているのが分かった。
「ハート国の子供を見る目とは違うんですよ。スペード国でまた会いたいと思うのは2人しかいません」
「それは少ないですねぇ」
「ギルドカードのランクを見て対応を変える、あっ」
急に話を切った僕を2人が見てきた。
「ヨハンさんにお礼を言い忘れていました」
ヨハンさんに深くお辞儀をしてから話した。
「スペード国でギルドランクAになりました。ヨハンさんが届けてくれていた事を教えてもらいました」
「そうですか。良かったですねぇ」
「え?…えっ!トオルがAランクっ!嘘だろ。ギルドカード見せてみろ」
アランは忙しかった。
「ホントにAだ…」
かなりショックだったようで、床に寝転がった。
「あぁ?トオル。ギルドマスターのステルスさんと知り合いになったのか。あの人はいい人だぞ」
「ステルスさんと言うんですか?面白い人でした」
「…じゃあ代替わりしたのかもな。ステルスさんは生真面目で融通のきかない頑固者だからな」
アランから押されてるギルドマスターの印は総括しか付けられないと言われて驚いた。
「その印はどう言う意味なんですか?」
「これか?これは総括が他のギルドマスターと同じ権限をトオルに与えた印だ」
「えっ!」
まさかそんな印とは思わなかった。
あのおじさんもそんな話しなかった、あ、そう言えば…笑われた。
ようやく笑った意味が分かった。
スペード国の10にんのギルドマスターの1番上があの人だと知ってから見たマークは微妙だった。
一晩ヨハンさんとアランとずっと話してた。
ヨハンさんがたまに抜け出て冒険者ギルドへ行って、がっかりして帰ってくる。
それを夜まで繰り返した。
その隙にアランからロンの話が出た、1年でCランクに上がったが冒険者仲間に嫌われていると聞いた。
「金に汚いからパーティーに長く居られない」
「妹がいるからじゃないんですか?」
「それもあるだろうが、もとからだろうな」
アランも仕事でグリーンに行く時は、気になるから様子を見ているらしい。
やっとパーティーに入ってると思えば次に行った時には抜けていたりと、アランなりに心配していた。
「気になるだろうがお前は行くな。俺を恨んでいるがお前をも恨んでいるからな」
「アランより僕でしょう。直に妹を見ればアランは絶対断らなかったって思ってるはずです。」
「それは面と向かって言われたさ。グリーンの宿に連れても来られた」
「そうですか」
「悪いが、見てもロンと同じにしか見えなかった」
吐き出すようにアランが言ったのが驚きだった。
ヨハンさんとアランと別れた翌朝、サックスブルーのギルドマスターを訪ねた。
そこに居たのは見たこともない人だった。
「あの、違うギルドマスターは?」
自分でも質問の仕方が変だと思うけど、それしか言葉が浮かばなかった。
「あぁ、ステルスさんですかぁ」
ステルス?
アランの言った名前とあのギルドマスターがどうしても重ならなかった。
「…そのステルスさんは今何処に?」
「今はフォレストブルーのギルドマスターに戻ってるのでフォレストブルーですよ」
「ありがとうございました」
1日2回の転移は堪えたけど確かめるのが先だ。
冒険者ギルドでギルドマスターに会いたいとギルドカードを出して伝えた。
案内されたマスタールームに、あのおじさんがにやにやして座っていた。
「ステルスさんですか?」
「トオルが訪ねてくるって事は何かトラブルかな?」
「いえ、知り合いとの話でスペード国のギルドカードのマークの話になって、マスター総括のステルスの名前と人柄を教えられて確認に着たんです」
「成る程な。俺の名前を出した冒険者は誰だ?この国じゃないな。ハート国か?」
黙っていたらドアがノックされて、女の人がステルスさんに何か渡して出て行った。
「話を抜かしたな。お前先にサックスブルーに行ったじゃないか。それで謎が解けた」
僕が何故訪ねてきたのか不思議だったと、ステルスさんは受け取った書類を指で弾いた。
咄嗟に身構える。
「俺に敵意は無い。可能なら俺の噂をしてくれた奴の名前が知りたいが教えてはくれなさそうだな」
ステルスさんは順番に名前を6人上げた。
その中にアランとベルの名前もあった。
「やっぱりか、顔が答えているぞ」
ステルスさんはそう言ってクスリと笑った。
「ベルの子供は可愛かったか?男か?女か?」
「あっ!聞いてないっ」
ステルスさんを警戒するより自分の迂闊さが先にたって、思わず言っていた。
アランに会って聞いてないとか、自分で落ち込んだ。
「面白い奴だ」
ステルスさんに大笑いされた。
「そうだ、ステルスさんはこの国の教会に詳しいですか?魔法使いの着てる服とか知りたいんですが」
「知りたいのか?」
「はい」
「何故だ」
ステルスさんの気配が変わった。
互いに目を背けず間合いを計った。
「敵か否か知りたいから」
「敵と分かれば」
「全力で滅ぼします。例えあなたが敵でも」
5分、10分過ぎた頃ステルスさんが引いた。
「まるで仇を探しているように見えるが」
「それに近いです。見えた景色と同じ場所を旅をしながら探しています」
「それが我が国だと?」
「分かりません。だから知りたいんです」
「見たら分かるのか」
「はい」
ステルスさんは立ち上がり来いと促した。
「お前は水晶の玉を持っているか?」
歩きながら聞いてきた。
「はい」
アイテムボックスから出して見せた。
「それを何処で?」
「ハート国です。クロスから近い盗賊のアジトで見付けました」
「譲って貰えるか?」
『ナビ』
『イエスマイマスター』
「はい」
長い廊下の奥の部屋に魔方陣があった。
ステルスさんに促されて後に続いた。
「これが玉の礼だ」
視界の先が反転して次に表れた空間は白一色だった。
「…違う」
ステルスさんに着いて教会も見た。
魔法使いの服は薄いグレーだった。
地図の城の中は青かった。
「ありがとうございました」




