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10年の時に  作者: まほろば
スペード国
34/121

おじいちゃんの形見



サックスブルーの街へ戻って、次の町を目指した。

『そう言えば、クラブもスペードも馬車を見ないね』

『クラブコクハバシャヲツクルヨユウガアリマセン』

『あ、確かに。スペード国は?』

『オウシツヤキゾクノノリモノトサレテマス』

『困らないの?あ、大きな荷物は魔法の袋?』

『イエスマイマスター』

『納得』

暫く歩いてると、太ったおじさんの商人がぶつぶつ文句を言いながら歩いているのが見えた。

おじさんの後ろから、疲れた顔でぼろぼろの服を着た少年がついて歩いていた。

「あ…」

つい声が漏れてしまった。

2人に振り向かれて、つい顔を背けた。

少年の足の鉄輪に驚いて、思わず声が出てしまった。

『スペード国には奴隷がいるの?』

『イエスマイマスター』

『そうか…』

なるべく見ないように歩いた。

追い抜こうと思ったけど、おじさんのぶつぶつが気になって後ろを歩いた。

他の歩いてる人は、少年を見ても平気で歩いてる。

この国では珍しくもない光景なのか?

2人が村に泊まるのを見て、急いで先を急いだ。

『次の町まで何日?町の名前も聞いてなかった』

『ピーコックブルー16ニチムラ2デス』

『明日もあのおじさんの後を歩くよ』

同じ姿じゃ怪しまれるから、偽装しようと決めた。

おじさんは何処の商売がいくら儲かったとか、何処は魔法使いを雇っていて商売が不利だったとか、飽きないのかって思うくらい言い続けていた。

話の中で、この国の王家も他国への侵略を考えていて着々と準備をしているらしいと言っていた。

魔方陣を書ける魔法使いが必要とか、魔力がどうとか、それが成功すればいくら儲かるとか、聞いていて怪しい話ばかりだった。

おじさんは同じ話を延々繰り返すので、翌日1日聞いて次の日からはサクサク先を目指した。

町まで後1日くらいのところでおばあさんに会った。

疲れて歩くのも辛そうだった。

「良ければお茶を煎れますから一休みしませんか」

道の端に焚き火をして鍋を置いた。

火から鍋を下ろして紅茶の茶葉を入れて少しまった。

いびつなお客さん用の湯飲みを出すのは恥ずかしかったので、おばあさんにはマイコップを出して貰った。

茶漉しで濾して出来たお茶をおばあさんと飲んだ。

「良ければ次の町まで一緒に行って下され」

「残念ですが先を急ぐので」

丁度そこへ匂いに誘われた旅人が足を止めた。

あと1人分はあったからどうぞとご馳走した。

「美味しいお茶ですね」

旅人同様焚き火の始末をして、僕も先を急いだ。

もうすぐピーコックブルーに着くって時に、ナビから聞いてきた。

『ナゼドレイヲカイトラナカッタノデスカ』

『彼だけ救っても解決にならないから』

『オバアサンハ』

『あのおばあさん歩けるよ』

理解したのかナビが黙った。


ピーコックブルーに着いたのは昼過ぎだった。

普通な町だった。

何か最近片寄った町ばかり見てたからか、普通な町にホッとしたりした。

『時間も半端だし、冒険者ギルドへ行ってみよう』

あ。

冒険者ギルドに着いて思った。

僕は1度も依頼を受けてない。

最初の依頼はアランが選んだし、ヨハンさんはアラン繋がりだったから選んだ事にならない。

『ちょっと情けないな』

依頼板を見て回った。

『ナビ。次の街は?』

『オオトフォレストブルー』

『フォレストブルーか』

端から見ていってフォレストブルーまでの依頼は5つあった。

『ねぇナビ』

『マイマスターシツモンヲドウゾ』

『フォレストブルーまで何日かかる?』

『20ニチムラ2デス』

『う~ん』

『マイマスター』

『フォレストブルーまで金貨1枚っていう依頼があるんだよね。他のは大金貨3枚とかなのに』

『イライミスデハ』

『そうかもね』

結局依頼は受けなかった。

相手を知らないで依頼を受けるとか、自分には到底無理だと実感した。

『取り敢えず宿を取ろう』

ナビが選んだ宿は何時もの宿より庶民的だった。

『ここしかなかったの?』

『コノマチニハヤドハ2ケンシカアリマセン』

『たった?』

この町に滞在する人が少ないらしく宿屋が少ないとナビが説明してきた。

久し振りに部屋にクリーンを掛けた。

お風呂の後に食堂へ行った。

パラパラと客がいて、習慣で端を選ぼうとしたら不審者みたいな先客がいた。

前に荷物を抱えてキョロキョロ警戒しながら食事をしてて、自分から襲ってくださいって言ってるよ?

案の定ガラの悪そうな冒険者が絡み始めた。

「大事そうに何持ってんだぁ。俺らに見せてくれよ」

「だ、ダメです」

不審者はアランくらいの歳の青年で、ひょろひょろで押されたら骨折しそうなくらい細かった。

冒険者は3人。

青年の座ってるテーブルの前に1人、横に1人、後ろに1人、残る1面は壁になってる。

「大人しくよこせっ」

「ダメです」

泣きながら荷物を前に抱え込んで必死に体を屈めてるけど、横から引っ張られて椅子ごと倒れた。

それでも必死に掴んで離さないのは、それだけ大切な物だからだろう。

青年は荷物ごと引き摺られても荷物を離さなかった。

周りは見ない振りでひそひそと食堂から出ていった。

仕方無いな。

手近な男から当て身をくわせ、2人目も眠らせたら、最後の1人が仲間を捨てて逃げて行った。

「大丈夫ですか」

「あ、ありがとう、ごさ…、ありがとう」

青年は途中で言い替えた。

本当にこの国は年齢が秤なのか。

「ま、待ってくれ」

呆れ返って食堂を出ていこうとしたら、よろけた青年に呼び止められた。

嫌々振り向けば、傷だらけの顔が見えた。

「君強いね。フォレストブルーまで金貨1枚で警護してくれないかな」

「…は?」

聞き違いかと思ったけど、直ぐ冒険者ギルドの依頼板を思い出して妙に納得してしまった。

「冒険者ギルドに依頼出しましたよね。金貨1枚で」

「出したよ。だけど受付のお姉さんは誰も受けないって酷いこと言うんだよ」

「当然ですね。大金貨3枚が相場です」

「そんな大金無いよ」

話にならない。

「お願いだよ。フォレストブルーに着いて、このおじいちゃんの形見を渡したらきっとお金を貰える」

おじいちゃんの形見。

その言葉が耳から離れなかった。

「フォレストブルーに着いてお礼を貰ったらきっと払うから、連れていって」

礼より形見が気になった。

「部屋は?」

「そこの8人部屋だよ」

本気で目の前の青年をバカだと思った。

盗られて困る物持って鍵の無い8人部屋?

「話だけは聞く。僕の部屋へ」

「え?君の部屋?」

青年は首をかしげながら後から着いてきた。

「どうぞ」

傷や埃で汚れてる青年を部屋へ入れる前に、クリーンを2回も掛けた。

「…ここって、1番高い個室だろ?え?君みたいな子供が?うそぉ~」

どれだけ人の神経を逆撫でする気なんだ?

「口を慎まないと話も聞かない、出ていけ」

ムカついてギッと殺気を投げた。

「ひっ!ごめんなさい」

「出ますか?話しますか?あなたの言動は失礼すぎて今すぐ追い出したいくらいです。あなたと僕の力の差を分かって話してますか」

「ご、ごめんなさい…」

青年はドアの前にしゃがみ込んで頭を下げた。

「分かったならサクサク話してください」

青年は半泣きで話始めた。

「俺はおじいちゃんと田舎で畑を耕して暮らしてたんだ。そのおじいちゃんが先月具合悪くなって…死んじゃって。おじいちゃんの遺言で宝石箱をおじいちゃんの妹のところに届けろって。だから届けに行こうと」

「妹さんがフォレストブルーに居るの?」

「居る。住所を書いたメモも宝石箱に入ってた」

「その宝石箱を見せて」

「まさか取るつもりじゃ…」

「分かった。出ていって」

疑う目で見てくる青年にドアを指して言った。

もういい加減うんざりしてきた。

「ごめん。こ、これだよ」

青年が渡してきた宝石箱を調べてみる。

『ナビ。隠してる手紙とか無さそうだよね』

『イエスマイマスター』

『きっと形見は口実だよ。形見を届けさせて、彼のこれからを妹に頼むつもりだったんだろう。フォレストブルーまで依頼を受けて警護するよ』

『イエスマイマスター』

「夜に殺されたくなかったら、今夜はこの部屋の床で寝るんですね」

宝石箱を返してそう言った。

「ふ、フォレストブルーへは?」

「明日依頼を受けてあげます。報酬の金貨は有りますね?明日冒険者ギルドに払って貰います」

「え?フォレストブルーに着いてからじゃないの?」

「依頼成立で成功報酬は冒険者ギルドが管理する」

「え?だって商人のおじさんは後からだって」

「それは冒険者ギルドに信用がある人だけ。他は払わないで逃げる依頼人も居るから先払い」

「そんなぁー」

「まさか無いの?依頼出したのに報酬の用意がないとか、契約違反になりますよ」

「あるよ!万が一の金貨1枚」

本当に頭痛がしてきた。

「報酬の1割は冒険者ギルドの収入になる。冒険者ギルドへ支払うのは金貨1枚と銀貨1枚」

「嘘…そんなの聞いてないよ」

「なら冒険者ギルドの職員の給料はどこから出すんですか?銀貨1枚は冒険者ギルドの手数料です」

「あ…」

「理解したら明日があるので寝てください」




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