飢えた国
分かれ道を右のレモンイエローに曲がった。
レモンイエローまでの間の村は2つ。
分かれ道まで10日、分かれ道から半月で次の町レモンイエローに着いた。
飢えているのは他の村と同じだったけど、帰りにまた通ると思ってるからにこにこと見送ってくれた。
着いたレモンイエローの町は陶器の町だった。
やはり入口の兵士2人に銀貨9枚と言われた。
今度は銀貨を15枚入れたら10枚盗られた。
近くに良い土が取れる崖があって、町中が職人だったから宿屋も無くて早々に分かれ道まで転移した。
分かれ道を左の王都に向かった。
王都までの村は3つ半月の旅だった。
村は蚕を飼って畑で綿花を作っていた。
土が痩せているのか綿花の木はひょろ長かった。
3つ目の村には珍しく馬車が来ていて、村人は泣きながら馬車を見送っていた。
その風景を横目に見ながら先を急いだ。
クラブの王都はジョンブリアン。
入るのに金貨2枚盗られた。
本当の税は金貨1枚らしい。
ここまでに盗られた金の3分の1は国に入り、残りは2人の兵士が山分けらしい。
それだったら他の 兵士から不平が出ないのかとナビに聞いたら、順番に月毎に変わるそうだ。
どれだけ腐った軍だとさすがに呆れた。
嫌々払って入った王都は機織りと織った布を仕立てる店が街の半分以上を占めていて、残りは宿屋と他国から仕入れにきた商人に売るための店が並んでいた。
中心にある城はハート国の半分もない。
国民同様貧しいのかもしれない。
街には食堂もなくて屋台を探したけど下町に形ばかり数件出ているだけだった。
怪しい串焼きやパンを多目に買って、国の情報を屋台の店主から集めた。
陶器や服だけでは国民が暮らせなくて、小さい暴動が各所で起こっていが軍が制圧しているらしい。
王さまはまだ小さく国は軍が支配して、スペード国を狙っているらしい。
然り気無く魔法使いの話を聞いたら、見付けられると処刑されるそうだ。
「あんた、魔法使いかい?」
屋台の主人は僕が魔法使いだと軍に密告して報償金でも貰うつもりだ。
「使えたら旅をしないでハートで暮らせてるよ」
「へぇー、ハートでね」
まだ疑ってる主人に、ハートは魔法使いを教会が雇ってくれると話した。
「もし知り合いに魔法使いが居るなら、ハート国に逃げろと教えあげなよ」
「へぇー、教会ねぇ」
「この国には無いの?」
「無いねぇ」
「死んだ人はどうするの?」
そのまま埋めると言われて驚いた。
「祈ってくれる牧師さんは?」
「軍がのさばってる国だぜ居るわけねぇだろ」
「そんな国だったなんて、来て失敗したな」
「何事も勉強だな」
「高すぎるよ。ここまで3回も払ったんだよ」
「3回?」
「クロスからクラブに入るのに銀貨3枚、クリームイエローで金貨1枚、ここで金貨2枚だよ」
「軍め、旅人からも巻き上げてるのか」
「クラブで仕事探すつもりだったから言葉も覚えたのに。仕方無いからハートに帰ろうかな」
残念そうに言ってその場を後にした。
『国から腐ってるね』
『イエスマイマスター』
『話だけで確かめられないのは困ったな』
『ヘイシノキョジュウクニイカレテミレハ』
『何か情報があると良いな』
大きな通りを歩いてる人に聞いて、探し当てた場所にはおばさんがたくさんいた。
「あら、子供が迷い込んできたよ」
「坊やは何処からきたの?兵士になりたいのかい?まだ年が足りないよ」
「いえ、牧師さんが居たら祈ってもら…」
「しっ!この国には居ないよ」
途中で止められてそう言われた。
「お城の中にも?」
「居ないさ。元帥さまが嫌っているからね」
「1人も?お母さんが死にそうだから助けてもらえたらって思って来たんだ。旅の人が魔法使いか牧師さんなら治せるかもって教えてくれて」
「そうかいそうかい。可哀想に」
「この国には居ないんだよ」
「他の国には居るらしいけどね」
「ありがとうございました」
がっかりした振りで街に戻った。
『ナビ。探りすぎたかもしれない。どうしよう』
周りに兵士の気配がした。
『ウラミチデギソウノマホウヲツカッミテハ』
『偽装?』
ナビに姿形を変える魔法だと聞いて、急いでかけた。
イメージは漫画の表紙の真面目なキャラ。
主人公じゃないけど好きなキャラだからか、偽装と思ったときパッと浮かんだ。
「何処に行ったっ」
「見付かりません」
素知らぬ顔で街を出て、次の町、花の名前の町マリーゴールドを目指した。
『この国を出るまでこの姿の方が良さそうだね』
『イエスマイマスター』
王都ジョンブリアンを出て、分かれ道を左に曲がったて着いたのはマリーゴールドの町。
分かれ道まで半月村は2つで、分かれ道からマリーゴールドまで半月で村は3つ。
そこまでの村も飢えていた。
村は3つで蚕と綿花だった。
その殆どを税金で取られるから何時も貧しいと、村人は泣いて訴えた。
王都の屋台で買った物を渡して、兵の話を聞いた。
新しい情報は無かった。
どの村も貧しい。
ここまで貧しい村が税金を払ってやっていけるのは何故か?疑問が沸いた。
『ナビ。何故?』
ナビからの答えは無かった。
3つ目の村で村の少女3人から取り囲まれた。
生きるのに子供が欲しいと抱き付かれかけた。
嫌悪感で触られる前に飛び退いた。
少女だけじゃなく村人まで追ってきた。
村人から逃げて着いたマリーゴールドも、やっぱり入るのに金貨1枚が必要だった。
マリーゴールドも機織りの町だった。
王都で間に合わない布をここで作ってるらしい。
やはり宿屋はない。
また分かれ道まで転移で戻って、そこから最後の町カナリアを目指した。
カナリアまで一月で村は7つ。
やはり飢えていた。
分かれ道から直ぐの村に違う馬車が止まっていた。
そしてまた村人が泣いていた。
『ナビ』
『マイマスターシツモンヲドウゾ』
『あれは人買い?』
『イエスマイマスター』
『そう…』
本で読んだ事はあったけど、現実に見たら苦しい。
子供を売ったお金で税金を払っていると思うと、売られる子供が哀れだった。
『僕は無力だね』
『ナゼホシニクヲムラビトニワタサナカッタノカリユウヲ』
『彼らの目が、感謝より欲望で光ってたから』
『ホシニクハ』
『欲しくて戦争になりかねないよ』
飢えが戦争を呼ぶ。
『何で戦争をするか。それは自分に無い相手が持ってる物が欲しいからだよ』
『リカイデキマセン』
『例えば、死にそうなくらいお腹が空いていて目の前の人が食べるものを持ってたらどうする?自分は死にかけてる相手は持ってる、なら殺しても奪うだろ?』
『リカイフノウ』
『かもね。理解できなくても良いよ。ただね、人はいくらでも残虐になれる生き物なんだよ』
最後の町カナリアでも金貨1枚盗られた。
カナリアは漁の町だった。
海は荒れて船は使えないから、崖から網を投げたり釣糸を垂れたり細々と暮らしていた。
やはり宿は無かった。
『ナビ。僕はクラブの半分しか見てない気がする』
『リユウヲ』
『土地が開墾されてなくても、村や町が少なすぎる』
『コノクニニハカクレタムラガテンザイシテイマス』
『見付からないように?』
『イエスマイマスター』
『会えないかな』
『モットオトナニナッタラ』
『え?年齢制限があるの?』
それ以上はナビが答えなかった。
根負けして肩をすくめて言った。
『分かったよ、クロスに戻ろう』
『イエスマイマスター』




