転移
『歪みが直るまでの10年。君には本で読むような能力を授けるよ』
「ムリ。読んだといってもたった4、5冊。能力を把握しきれない」
『ステータスにナビも着けるよ』
声の主はどうしても僕に行かせたいらしい。
その理由が分からなかった。
『神でも世界に干渉する力はない』
「神でも?」
『神だから。神が干渉する時は最後のただ一度その世界を破壊する時だけ』
突然出たベビーな言葉に体も無いのに震えが着た。
「神の勝手で壊すのか。そこには人間だけじゃなく生き物がいるんじゃないのか?」
『それを決めるのは上位神だ』
「上位神?何度か出てきた単語だね」
『神にも位はある。私は上位神が造った星の幾つかの見守りを任されているだけ。上位神は1つの銀河と言うか君達が言う太陽系程を管轄してる』
「その上も?」
『宇宙そのものの神がね』
答えに科学で教わった知識を裏打ちされた気がした。
『他に質問はあるかな』
「確実に10年後帰れるんだね?」
『保証する』
確信のない口約束だが、このまま此処へ10年留まるよりはましだった。
『君の行く世界を説明するよ』
前は長閑な風景に代わった。
町には中世のヨーロッパみたいな建物が並び、道を通る人の服装もよく似ていた。
しかし中世に黒髪と茶髪だけとか、あまり良い図柄に見えないのが難点か。
『人種はエルフ、獣人、ドワーフ、人間、魔族』
「エルフ?ドワーフ?」
『地図を出そう』
前に海の真ん中の四つ葉のクローバーが写し出された。
『これが地図、何処にどの人種が居るのかは自分で確かめて』
「言葉は?食事は?」
『全部の言葉が話せるよ。食事は洋食に近いかな』
洋食で連想した。
「米は?」
『日本の主食だね』
前の画像が消えて変なものか浮かんだ。
小室透(15才)男
その後にずらーっと∞
ゲームをしない者には理解不能の羅列だった。
『これがステータス画面。思うだけで開く。横の地図とナビも思うだけ。ゲームをしない君用だ』
「どうも」
『イメージしただけで魔法も使える。例えばコップに水を注ぐイメージをすると本当に水が出る』
飲む水は抵抗があったので花の水やりをイメージした。
すると。
「…え?」
本当に目の前のじょうろから水が出るように見えた。
驚いて下を見たが水は50センチほど下で霧のように消えていた。
『この世界は科学の替わりに魔法がある』
「本にある生活用の魔法?」
『それと君達が愚かに繰り返す戦争の攻撃魔法と防御魔法。本のファイヤーとかバリアだね』
「危険だろ」
あちこち気分のままに火事とか危なくてたまらない。
『君が懸念するほどの魔力を持つ人間はいないよ』
脳裏に杖を構えていな姿が甦る。
「アイテムで増幅させるのか」
『その考えが近いかな』
声の主は肯定すると次の説明に移った。
『地図の上にアイテムボックスとあるのが分かるかな』
「分かる」
『米は此処に入れておくよ。装備も入れておく』
「どうしても僕を行かせたいみたいだね」
『行かせたい。君がすべき事だと思うから』
「僕が?」
『召喚には多大なエネルギーが必用になる。君を召喚したエネルギーは何十、何百の命だ』
「…え」
『懲らしめて欲しいんだ』
事が大き過ぎて答えられなかった。
『可能なら私たちが罰を下したい。けれど今はあの世界を壊す時じゃない』
「だから僕が?」
勝手な言い分に呆れる。
本でもかなりいい加減な神も居たと思い出す。
それと同時に、自分の召喚で犠牲になった命があるなら弔ってやりたかった。
「僕を召喚して何をさせようとした?」
『君の世界で言う世界征服』
「僕独りで?」
『転移者は異世界から転移するエネルギーでずば抜けた能力を持つと言い伝えられている』
「世界征服出来るほど?」
『言い伝えではね』
「言い伝え?」
『今まで1度もエネルギー不足で成功しなかった。それが今回は』
「成功した」




