巷で流行りのせかんどらいふ
※転生はしない( ゜∀ ゜)
「は。え。」
椎夏は目を点にした。
少年の額からとくとくと流れ出す液体は、やがて小さな血溜まりをつくる。今まで見たこともない血の量に自分の犯した罪の重さを感じたのか、椎夏の体は怖いぐらいにガクガクと震え出した。
「……わたひ…ひっ…ひっ、ひ、ひとごろひ……!?」
もはや呂律も回らない。
必死になって男の身体をガンガン揺さぶるが、ぴくりとも反応がない。
「だめ……死んでる………!」
心拍や呼吸の確認などもせずに、椎夏は勝手に絶望の海へ突き落とされた。
(どうしようどうしようどうしよう)
涙目になりながらも「まずは警察に連絡」とそれなりにまともな判断をし、震えた手でスマートフォンを取り出す。
(110番110番110番110番…)
電源を落としていたため起動が遅い。「なんでこういう時に限って!」と苛立って画面を連打し待つこと数十秒…ホーム画面は表示された。
と、同時に彼女の瞳孔が少し開く。
人差し指の動きが止まる。そこにはその画面には、親からの着信と学校の人のLINEの通知で埋め尽くされていた。
そう、ただそれだけ。それだけだった。
しかしそれは
「…………」
あんなに慌てふためいていた椎夏の表情を一瞬で無にさせてしまうほどのことだったのだ。
(この人が羨ましい)
力の抜けた左手からスマートフォンがつるりと滑り落ち、音をたててコンクリートに直撃。
それを当の本人は気にする余地もなく、死体 (と思われるもの) の隣で三角座りをすると放心したようにただ夜の空を見つめた。
「……………」
冬は椎夏の唯一好きな季節で、理由は四季の中で一番夜空がきれいに見えるから。
今日みたいにとびきり寒い夜の星は一段と強く輝く。
そんな日、椎夏はよく宇宙空間にいるような錯覚に陥ることがある。彼女にとって、それはとても心地が良く最も自由を感じるひとときのようだ。
時々自分が今どこに立っているのかも見失う。見失いたくなる。逃げたくなる。正直もう逃げてしまいたい。
「死んだら人はどうなるのかな。お星様だったらいいな」
そう呟くと椎夏はなにか意を決したように立ち上がり、死体 (と思われるもの) を放置して浅瀬へすたすたと向かっていった。
その横顔は心做しか嬉しそうに見えた。
岸に着いても靴は脱がずそのまま水の上を歩く。
ぶわっと真冬の川水が靴の中に流れ込んでくる。その突き刺さるような冷たさに思わず声を上げたくなっても、ただひたすら遠くを見つめてずんずん進んでいく。
冷たいはずの水も、今日はなんだか気持ちよく思えた。
くるぶしが浸かるぐらいの深さになったところで椎夏はようやく足を止めた。
体がぶるると震え上がるのは全てこの季節が原因なのだ、と自分に言い聞かせる。
さあ、あとは空気の通り道を塞ぐだけ。
水死体になる前に両親や知り合いの顔が何人か思い浮かんだが、無理矢理頭から追い出した。
(謝る相手なんていない。私は勝手な理由で勝手にこの地に降り立たされただけで、何も悪いことはしていない。
でも、ひとつ言うならば)
「ごめんなさい金髪のにーちゃん」
それが椎夏の最後の言葉。
星降る12月の夜、彼女は水に顔を沈めた。
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べちん!
頬に鈍痛が走る。
「むぐ!?」
「なにやってんのよアンタぁ!」
見知らぬ声がする。
その声は口調の割にやけに野太い。
椎夏は状況が把握出来ず混乱しており、とてもそれには応答できる状態ではなかった。
(どういうことだ…私は生きているのか…
ていうかなにこれ、めっちゃ息苦しい………
それに目がよく見えない…どこだここは……)
激しい動悸と立ちくらみ。体がフワフワ浮いてるような感覚。
しばらく咳き込んで呼吸を整えるも、おかしなぐらい息切れが続く。
「ねえちょっとぉ〜大丈夫?強くしすぎたかしら」
「…………はへ」
目の前にだれかいるようだ。
確認しようとしても視界がぼんやりしていてよくわからない。
椎夏は目を凝らして世界を見回してみたが、辛うじて認識できるのは、色とシルエットだけ。辺り一面が真っ暗であるということ、目の前に鏡もちのような体型のま紫色したモンスターが立ちはだかっているということ。その二つしかわからなかった。
(こんなモンスターがいるなんて私…やっぱり死んだのか…ところなんてアレしかないじゃない!うわぁ…実在したんだぁ!)
「おーいってばぁ」
そしてそのモンスターが、なにやら話しかけてくるのだ。椎夏はこの謎の生命体に不思議警戒心を抱かなかった。
(このモンスターさんに色々聞いてみよう…!)
「あ、あの!」
「ん?なあに?」
「ここって異世界ってやつですよね?」
「は?」
読んでくださってありがとうございます┏○ペコッ
異世界実在してほしい。。
あと、めっちゃこの話病んでるやんけって感じですけどこれから明るくなっていきます!おそらく