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不慮でも有罪

今回は長いのかも



「・・・・・!」


椎夏は血の気が引いていくのを感じた。

(うわ…消えたい…)



この河川敷周辺は電灯の光が行き届いておらず、日没後は完全な暗闇になる。みんな不気味がって避けているのかこの時間帯は全くと言っていいほど、人通りがない。町で一番星が見える場所がこの草むらだということを知っているのは椎夏ぐらいだろう。

だいたい何が目的でこんなところに来るのかと言うと、ただ独り言をぶちまけたいだけなのである。だれかに言えず喉元で押し殺した言葉や思いを声に出して、誰もいないこの空間で吐き出す。それが彼女なりの鬱憤晴らし。だから人の寄り付かない夜の河川敷は絶好のひとりごと言い放題スポットなのである。

とはいえ、毎度毎度あれほどに酷い雄叫びを上げているわけではない。いつもなら近隣住民の目を気にして小声で呟く程度だ。

だけど今日は違ったのだ。意識せずとも掛かる自制心という名のブレーキは効かなかった。とうとうその機能は身体からすっ飛んでしまったのだ。


こんなに声を荒げた夜は初めてだった。




どうしてそこまでバカなんだろう。成績どうこうの問題ではなく、人間的に 人としてバカなの。あの人たちは。なんであんなに無神経なことが言えたの?そしてなんでいざという時は、反吐の出るくらいに優しい言葉が出せるの?

勘違いしているようだけど、どれだけ綺麗なモノを選んだって結局は使い手の器次第なの。優しい心の持ち主が使えばそれは情に溢れたものになるのかもしれない。でも、反吐のようなやつが使えば反吐。反吐でしかない。反吐は反吐しか出せないの。ああ、自分たちが後者だということに気づいていないあたりが最高におかしい。今日のあの綺麗なだけの言葉が耳から離れてくれない。思い出すだけで虫唾が走る。もう二度と口を開かないでね。その真剣で、かっこいいと勘違いしている眼差しが私を見ていた。脳裏に過るその目はあまりの気味の悪さに頭がいかれてしまいそう。もう二度と私という対象物を視界に入れないでね。


要は

消えろ 死ね 偽善者 !!





椎夏のどこかで積もり積もったストレスは心の闇の餌となり、勢力を増した心の闇は心の鎖をも侵食 破壊し、普段胸の奥に閉じ込めた黒い黒い人間色をしたかたまりが口を通って空気に触れる瞬間ーーーーーーーー


ーーーーーーーに出くわしてしまった最高にツイてない少年




「ヒィッ!?」


「・・・・・・!」


知らない声が静かな夜の住宅街に響く。

その甲高い声は若い少年を連想させた。


(うわ…消えたい…)

聞かれてしまった驚きと恥ずかしさの余り椎夏は体を硬直させていたら、お次は

ガタッ

となにか金属のような違和感を覚える音がした。

バッと反射的に振り返ると目に飛び込んできたのは、


川に対して急斜面の芝生を猛スピードで転げ落ちる自転車と それに乗る金髪のオニーチャン。


「うわあああああくぁwせdrftgyふじこlp」


あまりの恐怖に金切り声を上げる男。これはどう見ても緊急事態。

男は何度もブレーキを握るが止まる様子はなく、一方椎夏は頭が追いつかず唖然とそれを見ているだけだった。


状況から見て恐らく

冬の静かな夜道に突如ぶち込まれし悪魔(椎夏)の叫喚。その悍ましい声にびっくり仰天、道を外し河川敷に転落ーーといったところだろうか。


加速していく車輪。自転車は止まらない。男の目から噴き出す涙も止まらない。


「シヌシヌシヌシヌシヌーーーッッ!!!」


彼の視界は青で埋まる。

それは限りなく黒に近いけれど、間違いなく青色なのだ。果てしなく深い青。紺碧色。そう それは川の水。


「………!!」


このままでは男も自転車も川にダイブ。第一浅瀬のため溺れる心配はないが、この男がおおらかで心の広い人間でない限りきっと椎夏はこのあと責められる いや、シメられるだろう。奇抜な金髪からしてそれは充分にありえそうなことだ。

(この人、最寄りの駅によくたむろしてる不良の一員かもしれない…変に関わって顔を覚えられたりでもしたら最悪だな…)


逃げるという選択肢もなくはなかったが、あの暴走した自転車は何かに衝突しない限り止まらないだろう。このままでは男に怪我を負わせてしまう。そんなことにでもなれば後日、彼が仲間を引き連れて返り討ちにやってくるかもしれない。

(殺される…!)

椎夏は覚悟を決め、止めに入った。


「とりゃーーー!」


とりあえず真横から自転車に突っ込み力一杯サドルを自分の方に引き寄せるが、


「くうっ」


車輪の勢いは凄まじくか弱い女子高校生の力には到底叶わない様子。既に前車輪は水に浸かりかけていて、ついでに男はぶくぶく泡を吹いている。完全に力が抜けてしまったようで体をこちらによろめかせていた。

(せめて人だけでも)

自転車は諦め片手は男の腕、もう片方は体にまわすと、カッと目を見開いて


「うらああぁぁぁぁあ!」


ドサッ。


渾身の力を振り絞り、体を引きずり下ろしてなんとか救出成功。


「はあ。はあっ。や、やった…」


喜びと同時に自転車はボチャ!と音を立て川に落下。どうやらもうひと仕事やらねばならないみたいだ。


冬なのに嘘みたいに身体が熱い。息が上がる。どっと疲れに襲われて目の前がくらくらする。休憩を挟みたいところだが、自転車は少しずつ流されていく。


先程とは違って水面にぷかぷか浮かぶだけの大人しい自転車を引き上げるだけなら彼女にも簡単に思えた。


「ーーさて、」


夢中だったからかあれから意味もなく掴んでいた男の腕をぱっと離し、川に向かって踏み出すと


ゴツン!


後ろで鈍い音がした。


「…?」


恐る恐る振り返ってみると、それは男がコンクリートに頭を打ち付けた音だと理解する。


(あ…この人意識ないんだっけ…)


足元を見ると灰色の床に赤色がだくだくと広がっていく光景が。

椎夏はまたしても、血の気が引いていくのを感じた。


読んでださってありがとうございます。


キャラをいまいち掴めてない気がするので

少し補足すると、

椎夏はちょっとタマシイの抜けてる

ただの思春期の女の子なのです



ツイッター変えました

@paserutula


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