表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

魔幻の灯籠

 塵芥は碧空を寇掠し、東風が空際の遼遠まで散らせた。軌跡は流線状を描き、渦巻いたかと思うと、また衰耗して消えた。そして何処かで雨の余滴が涸渇する音が聞こえ、残響に乗せて塵芥がまた去来する。


 気流に運ばれた塵粉は山嶺を二三すり抜けたかと思うと海原を通りすぎて陸を登臨したのち、さらに蒼波を越えた。やがて偏土の寺院の上空に至り、渦動しながら緩慢に降落した。

 寺院は銀灰色の清輝を放ち、浅緑の瓦板が緻密に配祀されていた。円形の煙突が塵芥を集めて、僧侶たちが昼も夜も精細に経典を読誦し祈祷する。


 呪願は魔幻の灯籠に火を灯した。昏蒙で蒼白な炎は明滅しながら像を結ぶ。紛い物の荒野が開展し黒塗りの傀儡が羊を食していた。羊は何度も同じように陵辱された。

 羊は域土の何処にでも横たわった。横たわるたびに犠牲になった。

 悪心は森林を木霊すると囁きに擾乱され四方を揺曳して鎮めなかった。対して慟哭は渓流を遡り淵源の谷底へと速やかに消えた。

 葦原のさざめきは風雪に翻弄され、位相の反転した一本の茎が震動を嵩じながら折れた。


 善も悪も譎詐だった。古の教えは何れの地でも秘密裏に棄却され、猩々の唸鳴にすり代わっていた。

 嘆息は歯車の奏でる笛竹だった。悪罵は醜い諧謔に他ならなかった。


 灯籠の炎はしばらく冬天の息吹を吸い上げたあと睡夢の中に帰去した。余熱も散逸すると灯籠は小さな石塔に戻った。魔幻に葬られた羊を顧みるものはもう誰もいない。乾いた東風が吹き、塵芥が再び還昇する。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ