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雷恐怖症

作者: 潮路

 その日の夜は、ひどい大雨であった。

 稲光が止むことはなかったし、その直後に轟く雷鳴は凄まじいものだった。


 雷は確かに恐ろしいものだ。だが、一部の人間は病的なまでに雷を恐怖する。

 屋内でも恐怖してパニックを起こすのは朝飯前。天気予報で雷という言葉が出たら、その日は何があっても家にこもりっきり。ひどくなると、雷どころか雲すらない砂漠地帯へ引っ越してしまう人物までいるくらいだ。

 私の友人であるアレクサンダーも雷恐怖症の一人である。この日も家に勝手に入りこんだ挙句、神に祈るかのような態勢を取り続けている。


「なあ、スティール。ちゃんと隣にいてくれているよな」


 ああ、いるとも。お前さんが絶えず袖を引っ張るせいで、お気に入りの服が伸びてしまっているがね。


「スティール。俺は、か、みなりが怖い。他のどんなものだって怖くはない。本当だ。だが、かみ、なりだけは、駄目だ」


 雷が怖すぎて「かみなり」という言葉すらろくに発音できていない。


「スティール。我が友よ。お前はきっと、『どうしてこの男はこんなにも怯えているのか』と呆れていることだろう。だが、違うのだ。俺はむしろ、『なぜ、この男は名前を出すことすら躊躇われる、あの光と音に耐えられるのか』気になって堪らない」


 語るまでもないことだろう、ここが屋内だからだ。いや、仮に屋外だからといって、そんなに怯えることはない。急いで自分の家に帰るだけだ。

 そんなことを呟くと、アレクサンダーはこの世の終わりのような顔をした。


「か、かみ、なり、に当たらないという保証はどこにもないじゃないか」


 ああ、そうだな。


「それに、あれに当たったら、まず助からないだろう。しかもいつ、どこに落ちるかなんて、予測がつかない。あの電気の束は、半径数十キロの範囲でいつでも落ちてくる。金属をはずそうが無駄だ。人間そのものが電気を通しやすいんだからな」


 それも恐らく正しいのだろう。雷恐怖症だけあって、雷についての知識は相当にあるようだ。


「まったく、こんな俺に『アレクサンダー』なんてつけた、馬鹿な親を恨みたいよ」


 雷雨が出るたびに、私の友人であるアレクサンダーはこの台詞で締める。そして、彼のその台詞を聞くたびに、私は彼に聞こえないように溜息をつく。友人関係ができてからずっと行われている儀式のようなものだ。

 

 私はおもむろにライターの火をつけた。


 こいつに『アレクサンダー』という名前をくれてやった両親には、先見の明があったと確信している。


 最も、その両親は雷に当たって亡くなってしまっているのだが。


・・・


 朝になり、私とアレクサンダーは家から出た。

 空は雲ひとつなく、太陽の強烈な光が眩しかった。


 アレクサンダーは私に笑顔を見せると、嬉々としてどこかへ走り去って行った。


 その姿を見送った私は、雨宿りとして使った家を振り返る。


 やれやれ、こっちもそろそろ帰るとしますかね。


・・・


『続いてのニュースです。A市で起こっている無差別強盗殺人事件で10件目の犠牲者です。今回の犠牲者はケント・ジョーンズさん(32)で、死因は以前の事件と同様、高電圧のスタンガンに触れたことによるショックとされています』

『また、彼の部屋にある家財道具が一切なくなっていたことから、警察では複数犯の可能性が高いとして調査を行っています』


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