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道中

 巫女の輿が出発した。

 敬子は巫女の一行の後方で馬に乗っている。お嬢様教育の賜物で、敬子は一人で馬に乗れるのだ。


 敬子の周りには、麗華の世話をするために集められた下働きの女たちが同行していた。

 下働きは侍女よりも身分が下になる。彼女たちは馬を持たず、徒歩で山道を移動していた。


 当初は敬子も徒歩で都に向かう事になっていたようだが、敬子が馬を扱うことができたことと、馬を持っていたことが幸いした。

 しかし、徒歩の者もいるため、一行の歩みは遅い。


 都へ行くためには、ここから山を二つ越えなければならなかった。

 一行の顔ぶれは、巫女である麗華と黒鵜を始めとした使者が三人、軽装だが腕っ節の強そうな護衛の兵士が二十人、輿を運ぶ者が十二人、下働きの男が三人で女が十人である。


 麗華は輿の中にいた。身分が身分なので、他の者と気安く話ができないようだ。

 敬子は今のうちに周りの者達と親しくなっておこうと思った。これからの旅が辛くならないように。

 神楽の里では、周りの者に距離を置かれていたように思う。

 巫女の家のお嬢さんだからというのが、最大の理由だ。事実、親しい友人はいなかった。

 年の近い下働きの少女達とは比較的仲良く過ごせている。彼女たちの多くは都付近に住み、宮殿に奉公に来ている娘だ。

 少女達は敬子に対して気安く、親切に応対してくれる。敬子は里にいた頃との環境の違いに喜びを覚えた。年の近い話し相手が出来たということが純粋に嬉しい。

 里を出て、初めて良かったと思った瞬間だった。



 麗華は輿の上から外の景色を眺めていた。


「巫女。私が、巫女」


 今でも信じられない思いでいっぱいだ。それでも、心は浮き立っている。

 道中、時々黒鵜が様子を見に来た。彼は麗華に好意的だ。

 黒鵜はいつも麗華を気遣ってくれるし、他の使者達も麗華を気にかけてくれた。


 時々、敬子も顔を出した。

 正直、彼女が同行すると言ったことは意外だった。

 敬子の性格からして、絶対に麗華の侍女など買って出ないと思っていたからだ。

 里の他の者達とは違い、敬子が自分に好意的でないことは知っている。敬子は、決してそれを表に出しはしないが、他との明瞭な違いが麗華には分かるのだ。


 だから、敬子は麗華の代わりに里に残り、結婚し子を産む運命を辿るだろうと考えていた。なのに、意外な結果になっている。

 黒鵜が敬子に何か告げたのだろうか。

 そういえば、黒鵜はやたらと敬子を侍女にしたがっていたように思える。敬子を連れていくことに、何かメリットがあるのだろうか。

 麗華は少し不安になった。


「やっぱり、素人の巫女である私では、役不足なのかしら」


 巫女に相応しいと言われたところで、麗華は全く巫女の勉強をしていない。

 素質はあるらしいが、巫女の術も全く知らなかった。

 今の今まで、巫女になるつもりなんて無かったので当然なのだが。


 黒鵜は、巫女である祖母が術を指南してくれると言っていたが……麗華の覚えが悪ければ、代わりに敬子を巫女に据える気かもしれない。


「そんなの嫌だわ」


 せっかく日のあたる場所に立てたのだ。元の場所に戻るなど考えたくもなかった。


「大丈夫よ。今までだって、私の方が何でも覚えるのが早かったわ……これからだって」


 麗華は自分に言い聞かせた。

 この場所は、敬子に渡さない。


 ——絶対に

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