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慟哭

 床に倒れた巨大鼠は、荒い息を繰り返していた。

「六角! 六角! 馬鹿な子だよ、本当に!」

 そのすぐ傍で、菫子が鼠に呼びかける。

「……菫子、ずっと一緒にいる。だから巫女を食べる」

 巨大鼠が最後の力を振り絞って立ち上がり、しかし最早それだけの体力が残されていないのか……直ぐにずしりと床に沈んだ。

「六角!」

 一心不乱に妖に呼びかける菫子の姿を見て、敬子は奇妙に感じた。

 祖母をここに捕えていた巨大鼠を、なぜそこまで心配する必要があるのかと。

 鼠側が祖母を気に入り、大事に扱っているということは、香葉の話から分かった。

 だが、果たして祖母が鼠を気遣う必要はあるのだろうか。自分を閉じ込めて孫を食い殺そうとしていた妖を……


 豪也が鼠に近づき、止めにその刀を突き刺そうとする。

 それを阻止しようと必死で懇願する菫子を、嵐が説得しながら押さえつけた。

「六角、六角っ!」

「菫子、一緒にい……」

 ズシャッという生々しい音と共に、鼠の声が途切れる。豪也が巨大鼠に止めを刺したのだ。最後に鼠は何と言おうとしたのだろうか。

 鼠の背からはごぷりと音を立てて黒い液体が溢れ出す。

 祖母の絶叫が部屋に響き渡った。


 空が白み始めた頃、妖退治はようやく終わりを告げる。多くの犠牲者を出して。



 敬子の祖母である菫子は、ぽつりぽつりと鼠との出会いについて退治屋達に語った。

 巫女であることの孤独や重圧、鼠との交流、事件の発端……


 敬子は、菫子に同情する気は微塵もない。

 祖母と鼠の間には確かに絆があったのかもしれないが、その所為で多くの人間が犠牲になった。下手をすると、敬子自身も鼠に食われていたかもしれない。


 でも、その反面、祖母と自分はどこか似ているところがあるとも感じていた。

 祖母はネズミを拾ったのだ。敬子が白い子犬を拾い上げたように。


 祖母はまだ話を続けているが、敬子は席を外した。彼女の懺悔を聞いても、終わってしまったことは変えようがない。

 それに、先程から香葉の姿が見当たらないのが気になる。

 あの後、香葉は鼠を一方的に甚振り、豪也の無事を確認すると、後は全てに興味を失ってしまった。

 泣き崩れる菫子にも、捕縛された黒鵜にも……亡くなった師と弟子の退治屋達や次郎にも、見向きもしない。


 辺りはもう、すっかり明るくなっている。

「香葉、どこにいるの?」

 宮殿内を歩き回る敬子は、祖母が拘束されていた部屋で香葉を発見し、そして後悔した。

 香葉は、退治屋達が倒した巨大鼠達を食している最中だったのである。


「敬子、どうしたの。豪也達は?」

「お祖母様の話を聞いてる最中よ……あんた、本当に食い意地が張っているのね」

 この部屋付近で亡くなった退治屋達の姿も見当たらないが、敬子は敢えて香葉に問うことはしなかった。

「折角の御馳走だもの、放っておくなんて勿体ないよ」

 人食い花は、どこまでも気ままな妖だった。

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