取引
巨大鼠の振り回した爪が退治屋の師の背に命中しそうになったが、近くに居た嵐が咄嗟に彼らを突き飛ばした。
師と弟子は間一髪で、前に転げて鼠の爪を避ける。
だが、巨大鼠の攻撃は止まず、師と弟子は、続く鼠の猛攻を受けて弾き飛ばされた。
嵐が隙を狙って攻撃を仕掛けるが、巨大鼠の皮膚は厚く、中々傷をつけるには至らない。
豪也と香葉も同じく、巨大鼠に手こずっていた。香葉は、言っていた通り鼠が嫌いらしく、必要以上に近寄らないようにしている節がある。
豪也達が絶体絶命なのに、敬子には何も出来ない。
敬子は結界の中で見守る事しか出来ない自分を歯がゆく思った。
そんな敬子に、静寂を縫って麗華と黒鵜の会話が聞こえてくる。
「どうなさいますか、麗華様。今、向こうで結界を張っている彼女を巫女として差し出せば、貴女はあの妖に食われることなく無事でいられます。退治屋達も助かります。どうせ元々巫女候補とされていた人物ですから彼女を餌にしても問題ないでしょう」
黒鵜が、麗華に取引を持ちかけているようだった。それも、敬子にとって非常によろしくない物騒な内容の取引を。
「麗華……」
敬子は覚悟した。あの麗華が自らを犠牲になんてする訳がない。
自分や祖母を助ける為ならば、きっと諸手を上げて敬子を差し出すはずだ。
しかし、続けて聞こえて来たのは麗華が黒鵜の頬を張る音だった。パアンと高い音が部屋に鳴り響く。
「馬鹿にしないでちょうだい!」
暗くて敬子からは見えにくいが、麗華が怒った様子で黒鵜に対峙している。
「そんなことを言われて、私が易々と従妹を差し出す人でなしだと思っているのね。いくら私でも、そこまで恥知らずな真似が出来る訳ないじゃないの!」
短いですが……。




