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黒鵜

 妖からの依頼で、黒鵜は巫女の一族が住むという「神楽の里」へと足を運んだ。

「神楽の里」は都から山を二つ越えた先にの小さな村にある。

 黒鵜はこれから妖の餌食になる可哀想な巫女のことを考えながら、馬を進めていた。


 里に着くと、何も知らない里長が娘を連れて黒鵜に頭を下げた。

 次期巫女だと言われる少女は、何の変哲も無い凡庸な村娘である。

 大事に育てられたのだろう、 その白い手は汚れたりひび割れたりすることなど知らず、その頭は世間知らずで愚鈍そうだ。

 巫女として育てられたせいか、綺麗な所作が目を引くがそれだけだった。


 それよりも、黒鵜は宴の席にいた少女に興味を持った。やや赤みがかった長い髪を持つ美しい娘。

 聞けば、彼女は次期巫女の少女の従姉で麗華という名前だと言う。

 麗華は全てを諦めている様子で、興味なさげに宴の席に座っていた。過去の自分と同じような表情で。


 それを見た黒鵜は、面白いことを思いついた。ほんの気まぐれの遊びだ。

 過去の自分と同じように、この少女にも機会を与えてやろう。

 それをどう運ぶかは彼女次第。上手く黒鵜を利用すれば都で一花咲かせることも可能だし、駄目なら妖の餌になるだけだ。

 この思いつきに、黒鵜は満足した。


 早速、麗華という娘に声を掛け、巫女として都へ連れて行くことにする。

 彼女は予想通り、この機会を見逃さなかった。

 従妹に気を使っているように振る舞っているが、麗華の目は野心で煌めいている。


 もう一人の、巫女になり損ねた里長の娘にも声をかけた。

 いざという時の麗華の身代わりにするためだ。

 黒鵜はもし、麗華が上手く立ち回ることが出来たなら、彼女を逃がしてやろうと考えた。代わりにこちらの娘を妖の餌にしようと。


 里長の娘に、麗華の侍女として都へ付いてくるように告げると、彼女はそれを渋った。従妹の侍女という立場に抵抗があるのだろう。

 都に連れて行く理由など、なんでも良かったが、侍女にしたのは単純にそうするのが面白そうだったからだ。

 今まで里の者達からかしずかれて当たり前だった少女が、侍女になるよう言われたらどうするのか。

 それも、自分がつくはずだった巫女の座を奪った女の侍女だ。心中穏やかではないだろう。

 生まれながらに身分ある者への、ほんの意趣返しだった。


 しかし、黒鵜の予想に反して、一緒に出発した里長の娘はケロリとした表情で下働きの娘達と楽しそうに会話している。不可解だが、何かを企んでいるのかと思えばそうでもない。

 自分の状況を理解できないくらい、頭が弱いのだろうか……

 しかし、黒鵜は、それ以上里長の娘に興味が湧かなかった。


 麗華は輿に乗り、楽しそうに景色を眺めている。

 出発した日の夜に妖に襲われて里長の娘を失ったのは計算外だったが、麗華は無事に宮殿へと辿り着いた。



 麗華はいつ気付くだろうか。

 自分が妖の餌だという事実に、彼女の祖母である巫女の行方に。

 祖母の不在を不審に思っているようだが、彼女はまだ動かない。


 そう思っていたある日、麗華が逃げ出した。上手くやったらしい。 

 追う事はしなかった。そうしようと決めていたからだ。

 なのに……何を思ったのか、麗華は戻ってきた。巫女である祖母を助けるつもりのようだ。

 彼女の愚かしい行動は、正直期待はずれだった。


 けれど、これはこれで面白い。彼女は真実を知らないから。

 誰が宮殿に妖を引き込んだのか、何故麗華が妖に狙われる事になったのか。

 真実を知れば、麗華はどんな反応をするだろう。

 祖母を恨むだろうか。見捨てるだろうか。慈愛の精神で自己犠牲に走るだろうか……

 

 黒鵜は自覚している。自分がおおよそ普通の人間とはいえない思考回路を持っているということを。

 だけど、止められない。

 部屋の天井が崩れ、二人の前に巨大な妖が降って来る。巫女が側に置き、黒鵜が取引をした妖だ。

 黒々とした毛並みを持つ、人の三倍程の大きさの大鼠。腕には巫女である菫子を抱えている。


 麗華は目の前に立つ巨大な生き物を見上げ、悲鳴を上げた。

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