表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
28/46

客人

「変わった子犬ですね、敬子様」


 敬子が拾った妖犬の子犬を見た空が言った。


 これから、宮殿に乗り込むにあたって色々と準備が必要になる。

 宮殿へ行っている間、子犬の世話を空と海に頼もうと思い、敬子は叔母の家を訪れていた。


「私が宮殿へ行っている間、この子をお願いできない? 妖犬の子犬なのだけれど、怪我をしていてまだ歩けないの……人に危害を加えることはない妖よ」


 過去に妖に襲われたこともある彼女達だ、世話を拒否されても仕方がないことだった。


「敬子様が拾われたのですか?」

「うん、今にも死にそうだったから……」

「人を襲うことは、ないのですね」

「小型の家畜を食べるけれど、人は食べないって豪也さんが言っていたわ。大人しいし、私も噛まれたことは無いの」


 白い子犬は、今も大人しく敬子に抱かれている。

 時折、小さな桃色の舌で敬子の手をペロペロ舐めた。 それを見た空の顔が緩む。


「可愛い……普通の犬と変わらないですね。抱いてもいいですか?」

「勿論」


 敬子は、そっと子犬を空に渡した。子犬は大人しくされるがままになっている。


「あ、敬子様! 姉さんも……それは何ですか?」


 おそらく仕事中だったであろう、海も傍にやって来た。

 空の腕の中にいる白いふわふわした塊に目を向ける。


「子犬よ、妖犬の」


 空が穏やかな笑顔で答えた。空は子犬のことを受け入れてくれたみたいだった。

 しかし、海は妖と聞いて戸惑いの表情を浮かべている。


「大丈夫、人は襲わない妖なんですって。ほら、こんなに小さくて可愛らしいのよ」


 空はそう言うと、腕の中の子犬を空に見せた。子犬は顔を上げて黒い瞳で海を見上げている。


「……可愛い。それに大人しくてお利口なのね……あら、怪我をしているのかしら」


 海が子犬の包帯に目を留めた。


「そうなの、治ってきてはいるのだけれど。加世さんに診せたいものの、家に麗華がいるから中々妖のことを言い出せなくて……」


 麗華は、妖全般に良い感情を持っていない。

 駆除しろなどと言われたら、たまったものではなかった。


「麗華様は巫女様ですからね……」


 空と海の二人も苦笑いを浮かべた。敬子と同じことを頭に思い描いたのかもしれない。


「分かりました。加世さんに言って、許可を貰えたら私達で面倒を見ます」


 海も子犬を預かることに異論はない様子である。

 敬子は、ほっと胸を撫で下ろした。


「麗華様には分からないように、隠れてお世話をします。見つかったら、普通の子犬だと言っておきましょう……加世さんも協力してくれるでしょう」

「面倒かけてごめんね、今度薬草摘みを手伝うわ」

「いいえ! 敬子様は私達の命の恩人ですから、これくらいどうということはありません」


 姉妹は、勢い良く申し出を断った。

 敬子には雑草摘みの前科があるので、遠回しに拒否されたのかもしれない。



 豪也に協力してくれるという退治屋達の第一陣が、彩夏にやって来た。三人組の男達だ。


「よく来てくれた、久しぶりだな」


 大叔母の家で、豪也が彼等を出迎える。

 香葉と敬子、加世達も一緒だ。


「よう、豪也! お前、弟子取ったんだってな。そっちの可愛らしいお嬢ちゃんか?」


 この退治屋は豪也と同じ年頃に見えるが、彼とは違って快活な性格のようだ。

 麗華の方を指差してにやにや笑いを浮かべている。

 彼の後ろには青年と少年が控えていた。

 麗華は可愛いと言われてはにかんだ顔をしているが、敬子は不機嫌な気持ちを表情に出さない様に顔を逸らしていた。


「違うだろ次郎、退治屋がそんなお綺麗な肌をしているかよ。どう見てもこっちだ」


 敬子と同じ年頃の少年が、海を指差す。

 遠回しに肌が綺麗ではないと言われた海の顔は、傍目にも分かる程引きつっていた。


「ちがうよ嵐。こちらのお嬢さんだろう、彼女のほうが思慮深く落ち着いて見えるよ」


 青年の言葉を聞いた空が、瞬きしながら頬を染める。


「豪也、覚えているとは思うが弟子の真と嵐だ。二人とも大きくなっただろう」


 次郎と呼ばれた男は、二人の弟子の頭に手を置いて得意げに言った。

 三人とも豪也の知り合いのようだ。


「……俺の弟子の敬子だ」


 そんな空気の中で、豪也がぶっきらぼうに敬子を紹介した。

 次郎達は驚いた様に顔を見合わせる。

 敬子は、いたたまれない気持ちになった。

 この三人は敬子を退治屋だとは思ってくれていなかったのだ。


「敬子です」


 挨拶が多少素っ気なくなってしまったのは、仕方のないことである。

 敬子の視界の端では、その様子を見た香葉が必死に笑いを堪えていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ