依頼
敬子は驚いた。あの麗華が自分に向かって頭を下げるなんて思いもしなかったからだ。
「加世さんに聞いたわ……あの時、私を助けてくれた退治屋の弟子になったと……」
こちらを静かにに見つめる麗華の言葉に、敬子は嫌な予感がした。
どうか、その先は何も言わないで欲しい……
しかし、敬子の望みは叶わなかった。
麗華は、無情にも言葉を続ける。敬子が最も聞きたくなかった言葉を……
「私は、その退治屋の人にお祖母様を助けてもらいたいの! だから……」
「無理よ!」
敬子は麗華の言葉を遮って言った。豪也をも巻き込むなど、冗談ではない。
この無責任女は、どれだけ私の周りを引っ掻き回せば気が済むのだと、敬子は自分の根性なしを棚に上げ、心の中で麗華を非難した。
「……どうして? もう、その人に頼るしかないのよ。私にはどうすることも出来ない」
それはそうだろう。
自分と同じ年の少女一人に、宮殿に巣食う妖を排除するなんて出来るはずがない、荷が重過ぎる。
……危険すぎる役割だ。
でも、それは豪也や香葉だって同じなのだ。
彼らだって、毎回無傷で妖を仕留められる訳ではない。
怪我をすることもあるし、いつも死の危険と隣り合わせで仕事をしているのだ。
結界の張られていた宮殿に入り込むなんて、余程厄介な妖に違いない。万が一が無いとも言い切れない。
敬子は、大切な彼らを失うのが怖かった。
「……宮殿へ行ってもらうのが嫌だから、私は反対しているのよ。そんな危険な場所に、豪也さんを行かせられない!」
「なによ、それ! お祖母様の命が懸かっているのよ? どうしてそんな我が儘で冷たいことが言えるの?」
出た、麗華の偽善。そして、それを他人に押し付ける厚かましさ。
彼女は自分が正義だと思い込んでいてそれを疑わない。
里にいた頃は、そんな彼女に誰もが味方した。
ここで暮らすうちに消えていた苦い感情が蘇ってくる。
「私は、そのお祖母様とやらには会ったこともない。お祖母様よりも加世さんや空と海、豪也さんや香葉が大事なの。彼らを危険な目に遭わせるなんて嫌なの」
「危険な目に遭わせるなんて……だって、彼らは退治屋でしょう? 妖を退治するのが仕事なのでしょう? 宮殿に関わる仕事ですもの、きっと報酬だってたくさん出るわ!」
その瞬間、敬子の頭がすっと冷えた。
頭にのぼっていた血が一気に降りてきて、敬子の心を凍らせる。
「麗華……これ以上、あなたと話すことはないわ。今後、私に関わらないで、私の居場所を……大切な人達を取らないで」
敬子は踵を返した。豪也には申し訳ないが、一晩彼の家に泊めてもらうことにする。
妖の子犬の件も、今の麗華の前では言い出しにくい。また出直すことにした。
「香葉……」
自分よりも少し背の高い少年を見ると、彼は全て分かっていると言う風に頷いた。
「帰ろう、敬子」
差し出されたその手を、敬子は迷わず取っていた。




