再会
どうして、あの女がここにいるのだ。
もう二度とその姿を見たくもなかった。
久しく忘れていたドロドロした感情が溢れてくる。
「麗華……」
敬子がこの世で一番嫌悪し、軽蔑する女がそこに立っていた。
「……敬子、生きていたのね」
麗華は、その美しい顔を歪めて微笑んだ。
腕の中の子犬を抱きしめた敬子は、心を鎮めて平静を保つ。
そうでもしないと、麗華を声の限り罵倒してしまいそうだった。
「どうして、あなたが此処にいるの? 何しにきたの?」
自分でも分かるくらい冷たい声が出る。
「……今すぐ、ここから出て行ってよ」
「敬子」
大叔母である加世が、憤る敬子を止めた。
「……加世さん、何故……?」
加世は麗華の方を一瞥すると、敬子に目を合わせた。
「麗華は、都の宮殿から逃げてきたんだ」
意味が分からない、巫女の仕事を放棄して逃げ出すなんて。
あんなに大勢の人間を犠牲にしてまで得た地位を投げ出して、ここに逃げて来るなんて。
「麗華は、妖に命を狙われている……」
「……それが?」
敬子も、空も海も妖に命を狙われた。紅尋の住人達も、都の外側に住む人間も。
それを見殺しにして、安全な場所でぬくぬく暮らしていた人間が、今更何を言っているのだ。
「聞いて、敬子。お祖母様が、妖に捕われているの……宮殿の中に、妖が入り込んでいたのよ……」
「だから、何?」
宮殿の外は、すでに妖だらけではないか。現に敬子の腕の中と後ろにも一匹ずついる。
「それで?」
また自分の居場所を引っ掻き回すのか。この女は……
そう思うと、更に麗華に接する態度が冷たくなってしまう。
「このままだと、お祖母様が妖に食べられるかもしれないの! 私は、何とか宮殿から逃げ出すことが出来た。でも、お祖母様は、私の代わりに巫女として捕まっていて……このままでは、宮殿に住む妖に……」
よく見ると、麗華の服は巫女服ではなく、簡素な使用人の様な服装だ。
巫女だと気付かれないように逃げる時に着替えたのだろう。彼女は、相変わらず自分本位な女だった。
「だとしても、私にはどうすることも出来ない。麗華、あなたは里に帰れば? 麗華なら出戻っても、きっと皆温かく迎えてくれるわ。特に民子叔母様や里の男共なんて、涙を流して喜ぶでしょうね……あなたが非道な人殺しでも、あの人達には関係がない」
「敬子、言い過ぎだよ!」
加世が敬子の言葉を遮った。大叔母は敬子や空と海のことを分かっている。
それ以上、加世が敬子を責めることを言わなかったので、敬子は感情に任せて当たり散らした自分を反省した。
「出て行ってよ……二度と私や、空や海の前に姿を見せないで……!」
敬子は麗華が出て行くように道をあけて彼女を促す。
自分の平穏な世界を、彼女に二度と壊されたくなかったのだ。
麗華は俯いた。しかし立ち去らず、両手を握りしめて言った。
「……あなた達が私をどう思っているのかは分かったわ……でも、私にも、しなければならないことがあるの……」
そう告げる彼女の声は、不安と屈辱で震えている。
「お願い……敬子、お祖母様を助けて……」
あの麗華が、加代や空や海の面前で、敬子に頭を下げた。




