来訪者
豪也の家に帰った敬子は子犬を手当てした。あとは、この子犬次第だ。
「こいつ、面白いよね。敬子」
香葉は全く手伝わないが、興味があるのか、ずっと近くで子犬を見学している。
子犬はまだ動く様子はなく、腹が上下するのを見て辛うじて生きていると分かる状態だった。
「大丈夫だよ。妖は生命力が強いから、人間よりも回復が早い」
香葉の言った通り、子犬は翌日に意識を取り戻した。
真っ黒な瞳で敬子を見つめているが、少し怯えているようにも見える。まだ動くことは出来ない。
敬子は子犬の背を緩く撫でた。まだ怪我は治っておらず、痛むといけないので力を入れないように優しくその毛皮に触れる。
「もう平気かな。今日の修行が終わったら、加世さんにちゃんと診てもらおう」
「……加世ちゃんって、犬も診てくれるのかなぁ?」
加世は腕の良い薬師だが、香葉の言う通り動物をしかも妖を診られるのかは謎だった。
午後は、戦闘に関する修行が残っている。
豪也の家の前の平地で豪也相手に刀を振るうというものだが、いつも簡単にいなされてしまうのだ。
まだろくに戦えない敬子だが、退治屋として働くにあたり生存率をあげる為にも、この修行は必要だと思っている。
以前、巫女を助けたときの臨時収入で、豪也はしばらくは進んで働かなくても大丈夫と言っていた。敬子の修行を優先してくれるのはとても有り難い話だった。
でも、彼は時々ひどく何かを焦っているように見える。
何が彼をそうさせるのか分からないが、敬子は早く一人前になって彼の期待に応えたいと思った。
今の自分に出来ることは、立派な退治屋として働けるようになることしかない。
修行の後、敬子は子犬を抱いて彩夏へ戻った。辺りは暗くなり始めている。
敬子はいつも加世の家から、豪也の家へ通っているのだ。
しかし、毎日山の上り下りをするのも大変なので、豪也の家で住み込みで働く事も考えている。
それに、敬子自身、その方がより退治屋の生活に馴染みやすいと感じたのだ。
弟子としての最低限の家事くらいなら、加代に習った敬子にでも出来るし、豪也は大ざっぱなので高度な仕事を要求されることもないだろう。
すっかり目を覚ました子犬は、敬子の腕の中で身じろぎしている。
香葉は子犬に興味を持ったようで、敬子について山を下りてきた。
妖花なら暗くなっても帰りを心配する必要はないだろう。誰も彼を襲うことなど出来ない。
加世の家に近づくと、敬子はいつもと家の様子が違うことに気が付いた。
この時間、家の外で作業をしている空と海の姿がない。
家の明かりが付いているので、香葉を連れて中へ入った。
「ただいま」
しかし、出迎えはなかった。部屋の奥に人の気配を感じ、そちらへ進む。
「加世さん、今戻りました……」
言葉が途切れた。
手前に立っていた空と海が振り返り、敬子を見て固まった。
気まずそうに目を伏せる彼女達の奥、大叔母の隣に立っている人物を見て、敬子はその場に立ち尽くした。
「……なんで、あなたがいるの?」




