菫子<※麗華視点>
「お祖母様、お祖母様!」
「お行き」
麗華は隣の部屋に取り残された。
だが、このまま逃げてしまう事には抵抗がある。
しばらくすると、足音の主が祖母の部屋へ辿り着いたのが分かった。
思わず、麗華は息をひそめる。
「菫子様……拘束は、外されたのですか」
聞こえてきたのは黒鵜の声だった。やはり、彼は麗華に嘘をついていたのだ。
「ああ、アレかい。結界を応用した技で切ったんだ」
黒鵜のため息が聞こえた。
「大人しくしていて下さいよ。あの方は菫子様には危害を加えたくないみたいですし……」
「大人しくしてやっているだろう。逃げもせず、この部屋に黙って監禁されている」
「はぁ……、もう少しの辛抱ですので、引き続き大人しくしていてくださいね。次の巫女就任式で、麗華様が妖の血肉となれば、菫子様はこの部屋からは解放されるでしょうから」
「黒鵜、私の可愛い孫に手出ししたらただじゃおかないよ!」
「はいはい、出しませんよ……私はね」
麗華は、恐る恐るその場を離れた。
祖母の言う通り、自分は狙われているらしい。現実味は無いが。
信じられなかった。
あの優しかった黒鵜が、里で麗華を巫女に抜擢してくれた黒鵜が……麗華を妖の餌にしようとしているなんて。
自分の方が敬子よりも才能があると言ってくれた、それすらも嘘だったのか。
「私……馬鹿みたい」
巫女になったと浮かれていい気になって、優しくしてくれる黒鵜に絆されて、のこのこと妖の巣窟までやってきて。
従妹を見捨て、従者を見捨て、祖母を見捨て……
「……最低」
しかし、このままこの場所にいても殺されるだけだ。妖に食われてしまう。
一刻も早くこの宮殿から出なければならない。
そっと部屋を出ると、麗華は外に向かって歩き始める。装飾品にまみれた巫女装束を脱ぎ捨てて……
麗華は、宮殿から出る決意をした。
※
菫子は、先程閉めた襖の方を見やった。
麗華は無事逃げられるだろうか。逃げ切って欲しい……麗華には何の罪もないのだ。
このような事態になったのは自分の所為なのだから。
自分が、妖との距離を測り間違えたから……
黒鵜の方へ向き直り、気になっていたことを問う。
「黒鵜……彼奴は、まだ眠っているのか」
「ええ。一週間起きて、一週間眠るという睡眠周期を繰り返されていますので。次に目覚めた時に、麗華様を食されるかと……あと三日程でしょうか」
「巫女を食べたいなら、私を食べれば良いじゃないか。何故、麗華なんだ」
菫子が問うと、黒鵜が興味なさそうに肩を竦めた。
「知りませんよ。彼ら妖の考えていることは、私のような人間風情には計り知れない内容ですので」
あの妖は菫子を軟禁すると、すぐに里へ新しい巫女を迎えに使いを出したのだ。
菫子の力はまだ衰えてはいなかったので、新しい巫女を用意する必要も無かったというのに。
今は軟禁状態が続き、体が弱ってきているため、思うように結界を張ることが出来ない……
全ては、菫子があの妖に気を許してしまった所為である。
菫子は軽率だった過去の自分の行動を悔いた。
次から敬子視点になります。たぶん。




