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菫子<※麗華視点>

「お祖母様、お祖母様!」

「お行き」


 麗華は隣の部屋に取り残された。

 だが、このまま逃げてしまう事には抵抗がある。


 しばらくすると、足音の主が祖母の部屋へ辿り着いたのが分かった。

 思わず、麗華は息をひそめる。


「菫子様……拘束は、外されたのですか」


 聞こえてきたのは黒鵜の声だった。やはり、彼は麗華に嘘をついていたのだ。


「ああ、アレかい。結界を応用した技で切ったんだ」


 黒鵜のため息が聞こえた。


「大人しくしていて下さいよ。あの方は菫子様には危害を加えたくないみたいですし……」

「大人しくしてやっているだろう。逃げもせず、この部屋に黙って監禁されている」

「はぁ……、もう少しの辛抱ですので、引き続き大人しくしていてくださいね。次の巫女就任式で、麗華様が妖の血肉となれば、菫子様はこの部屋からは解放されるでしょうから」

「黒鵜、私の可愛い孫に手出ししたらただじゃおかないよ!」

「はいはい、出しませんよ……私はね」


 麗華は、恐る恐るその場を離れた。

 祖母の言う通り、自分は狙われているらしい。現実味は無いが。


 信じられなかった。

 あの優しかった黒鵜が、里で麗華を巫女に抜擢してくれた黒鵜が……麗華を妖の餌にしようとしているなんて。

 自分の方が敬子よりも才能があると言ってくれた、それすらも嘘だったのか。


「私……馬鹿みたい」


 巫女になったと浮かれていい気になって、優しくしてくれる黒鵜に絆されて、のこのこと妖の巣窟までやってきて。

 従妹を見捨て、従者を見捨て、祖母を見捨て……


「……最低」


 しかし、このままこの場所にいても殺されるだけだ。妖に食われてしまう。

 一刻も早くこの宮殿から出なければならない。

 そっと部屋を出ると、麗華は外に向かって歩き始める。装飾品にまみれた巫女装束を脱ぎ捨てて……


 麗華は、宮殿から出る決意をした。



 菫子は、先程閉めた襖の方を見やった。

 麗華は無事逃げられるだろうか。逃げ切って欲しい……麗華には何の罪もないのだ。

 このような事態になったのは自分の所為なのだから。

 自分が、妖との距離を測り間違えたから……

 黒鵜の方へ向き直り、気になっていたことを問う。


「黒鵜……彼奴は、まだ眠っているのか」

「ええ。一週間起きて、一週間眠るという睡眠周期を繰り返されていますので。次に目覚めた時に、麗華様を食されるかと……あと三日程でしょうか」

「巫女を食べたいなら、私を食べれば良いじゃないか。何故、麗華なんだ」


 菫子が問うと、黒鵜が興味なさそうに肩を竦めた。


「知りませんよ。彼ら妖の考えていることは、私のような人間風情には計り知れない内容ですので」


 あの妖は菫子を軟禁すると、すぐに里へ新しい巫女を迎えに使いを出したのだ。

 菫子の力はまだ衰えてはいなかったので、新しい巫女を用意する必要も無かったというのに。

 今は軟禁状態が続き、体が弱ってきているため、思うように結界を張ることが出来ない……


 全ては、菫子があの妖に気を許してしまった所為である。

 菫子は軽率だった過去の自分の行動を悔いた。

次から敬子視点になります。たぶん。

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