紅尋<※麗華視点>
都には暗雲が立ち込めていた。事件が起こってから、紅尋には人の気配はない。
時折建物の蔭から不気味な鳴き声が聞こえた。
麗華は宮殿の中庭に沿った窓辺からで陰鬱な空を見上げていた。
彼女は見てしまったのだ、大きな猫のような妖が現れ、慌てた門番が外に人を残したまま扉を閉める瞬間を。その時門の外にいた二人の姉妹の顔を、麗華は知っていた。
山道で置き去りにした下働きの娘達、その中に彼女達はいた。二人は生きていたのだ。
麗華は安堵した。全員死んでしまったものと思っていたから、彼女達を見殺しにして逃げた罪悪感が少し軽減された気がした。
しかし、門番が門を閉じたことで、宮殿の門前は大混乱に陥った。
二人の少女は悲鳴を上げてその場を逃げ出したが、彼女達がどうなったのかは分からない。
怖くなった麗華は、慌てて部屋に戻ったのだ。今思い返してみても、背筋に震えが走った。
「紅尋の中に、妖は入れないはずなのに……お祖母様の力不足なの?」
まだ、祖母には会わせてもらえない。一刻も早く結界を強化しなければならないいのに。
せめて、敬子が生きていてくれたら、何とかなったかしら。少しなら、結界っぽいことが出来たみたいだし。
あまり好きではない従妹だったが、決して人に弱さを見せない彼女が、こういう時にいてくれれば心強かっただろうに。
麗華の頬を熱いものが伝った。
「私が、自分で何とかしなきゃ」
麗華は自分に言い聞かせた。
「私は、この国の巫女なのだもの」
麗華は現状を打開すべく、黒鵜の元へと向かった。
「麗華様がお気になさることではありませんよ、宮殿内外での些末なことは私どもにお任せいただければ良いのです」
「でも……っ、私、何もしていないわ。早くお仕事をさせて下さい」
麗華は食い下がった。
「あなたは高貴な巫女なのですから、下々のことを気にかける必要はありません。仕事については時期がくれば頼みますよ」
そう言うと、黒鵜はいつもの様に麗華を宥めに掛かった。
黒鵜ではダメだ、埒が明かない。
彼は麗華の意見に耳を傾ける気などないのだ。
世間知らずの小娘が騒いでいるくらいにしか聞こえないのだろう。麗華が何を言っても動いてくれる気配はなかった。
麗華は自分で祖母を捜し出すことに決めた。




