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大叔母との対面

「助けて、助けて」

 海は必死で逃げた。空の手を引いて。姉の腹からは血が止めどなく流れている。

「誰か、助けて」


 しかし、街道に人気はない。どの門も固く閉ざされ、門の外にいる者は既に皆死体と化している。けれど以前のように立ち止まって泣いている暇はない。結界を張ってくれる敬子はいない、逃げなければ殺される。


 海の右手には、もう感覚が無かった。

 それでも、姉の手を引いて、海は血溜まりの中を必死に走った。



※ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー※



 敬子は豪也と香葉と他愛ない話をしながら道を進み、翌朝に大叔母の家に着いた。

 敬子の大叔母は都の西、彩夏という町の外れに住んでいる。

 すぐ隣は、雪峰山という標高の高い山だ。山には薬の材料が沢山生えているらしく、その麓で大叔母は一人で小ぢんまりと薬師をしていた。


 驚いたことに、大叔母は豪也達の知り合いであった。

 薬師をしていると言うと、香葉が大叔母の名を出したのだ。

 豪也と香葉は雪峰山に住んでおり、敬子の大叔母とはご近所さんの間柄だと言う。退治屋という職業柄、よく世話になるとか。

 敬子は大叔母に会ったことが無い、祖母にも会ったことは無いのだ。いつになく緊張した。


「で、あんたが敬子を連れてきたのかい」

 玄関で敬子を出迎えた大叔母の加世が豪也に言った。

 作業着を着て黒い髪を引っ詰めにしている大叔母は、敬子が思っていたより若く、豪快な女性であった。薬師としての腕も良いらしい。

 敬子は父から預かった手紙を渡す。追い返されないか心配だ、ここを追い出されたら村に帰るしかない。



「あんたの両親からの手紙は読んだよ、薬師にしてやってくれって書いてある。でもねえ、あんたに出来るのかい? 薬師は繊細な仕事だよ」

 加世は心配そうに敬子を見た。

 敬子は根っからのお嬢様だ。加世もそれを知っている。敬子の両親からの手紙にも、娘の不器用は折り紙つきだと書いてある。そんな折り紙はいらないし、どう考えても敬子は薬師に向かない気がする。

 薬師には器用さと繊細さ、高度な医学知識が必須だ。


「あんたは術も多少は使えるようだし、いっそ、退治屋の方が向いているのじゃないかい?」

 加世はめちゃくちゃな事を言い出した。退治屋も、お嬢様のする仕事ではない。

「それ、いいね。敬子、豪也の弟子になれば?うちの家に来ればいいよ」

 香葉が適当な事を言う。彼は敬子を気に入ったようだ。


「馬鹿な事を言うな加世。大事な親族を退治屋にしようだなんて……あんたも知っての通り、危険で忌まれる職種だ。なりたくてなる奴よりも、ならざるを得なくてなる奴の方が圧倒的に多い」


 豪也は加世を見た。

 加世は方眉を上げると、バシーンと豪也の背を豪快に叩いた。

「アンタがなんと言おうと、私はいい仕事だと思ってるよ! だから敬子にも勧めてるんだ……なのに、アンタがそんなんでどうする!」

 驚いて見開かれた豪也の目が和らいだ。

「……わかった…………どうしても薬師がだめなら、俺が引き取ってやるよ。敬子は筋がいい……退治屋になりたければの話だがな」


 豪也が香葉に同意した。

 言い出しっぺの筈の加世が意外そうに眼を見開く。

「おや、珍しい。そりゃあ言い出したのは私だけど、そんなにアッサリ通るとは思わなかったよ。弟子は取らないんじゃなかったのかい?」


 退治屋になりたくてなる豪也のような人間は稀だ。常に命の危険が付きまとうし、色々と差別されることの多い職業だからだ。

 大抵は、身寄りのない子供などが退治屋の親方の元に売られて、そこで退治屋として鍛えられる。

 退治屋は敬子が思う以上に、世間から忌み嫌われた職業なのだ。


「普通の人間では、折角弟子に取っても香葉に食われて終わる。だから取らなかった……敬子にはその心配がなさそうだからな」

 何だか今、とても恐ろしいことを豪也がさらりと言った気がする。

「敬子は惑わされてくれないんだよね。豪也や加世ちゃんと一緒だ」


 こんな怖い奴に惑わされるはずがないのに。

 香葉は見かけ倒しの人食い花なのだ。


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