新しい連れ
「ねえねえ、どうしてそんなに距離を取るの」
「とってないわ」
「嘘。僕のこと、警戒しているでしょう」
少年は長いまつげに縁取られた大きな瞳をくるくると動かす。
敬子を覗き込むその動作の一つ一つが洗練されていて、とても妖艶に魅力的に映る。
だが、その可愛らしい動作に騙されてはいけない。
敬子は今朝、この少年の正体を知った。
昨日豪也が倒したはずの蛇が、今朝になると、すっかり奇麗に片付いており、蛇の代わりにその場所には腹一杯だと満足気に座り込んでいる香葉がいた。
これだけで 敬子には十分だった。昨日感じた違和感は当たっていたらしい。
空と海には、倒した蛇は夜のうちに他の妖に食われてしまったようだと嘘だか本当だかよく分からない説明をし、怖がらせるといけないので香葉の正体については伏せておいた。
豪也が一緒に居る限りは大丈夫と判断したから、それ以上は言わなかった。
しかし、彼の正体を知ってしまった以上、怖いものは怖い。
豪也に聞いたところ、香葉は妖花という人食い花の妖らしい。
危険極まりない。
「警戒しているに決まっているでしょう」
「おかしいな、大抵の人間は僕のことを好いてくれるのに」
彼の言う通り、香葉の美しさは多くの人間を虜にする。
人間は無条件に香葉の魅力に惹きつけられるのだ。妖花とはそういう性を持つ妖だった。
「あんたが、そういう種類だからでしょ。人を惑わして食べる妖なんだから」
危険だと分かっていても、こうして会話していると、香葉に惑わされそうになる。
「分かっていて、一緒にいてくれるんだ」
「……豪也さんがいるからね」
香葉は妖花でも、豪也はまともな人間で退治屋だ。
だから、三人で敬子の大叔母の家へ向かうことにした。
慣れない人間と関わるのがあまり好きではない敬子だが、豪也と香葉といるのは不思議と苦にはならなかった。二人が建前や下心とは無縁な我が道を行く性格だったので、必要以上に気を使わずに済んだというのが理由かもしれない。
朝から敬子達は歩き続けている。
本来が花である香葉は長い移動が嫌いらしく、しょっちゅうごねては豪也に休憩を取らせていた。おかげで敬子も疲れない。
「当初、僕は巫女の一行についていこうって提案したんだ。でも豪也が反対した。僕はあの巫女を苗床にしたかったのに!」
丁度、麗華が逃げ込んだ村での出来事が話題になっていた。
「俺の横で殺人はさせない。それに、あの場所じゃ無理だ。やるなら証拠は残すな」
「えー。難しいなあ、あんなに大勢に人間に囲まれてたらやりにくいよ」
その世間ずれした会話内容に脱力する。
香葉だけだと思っていたが、豪也も普通の人間とは何だか感覚が違うようだ。
「……巫女を食べることには反対しないのね」
「妖が巫女を食いたいと思うのは、本能だから仕方が無い」
「仕方ないんだ……」
豪也は重々しく頷いた。彼は巫女を不要だと思っている節がある。
昨日の会話からもそれが感じられた。
「結界が無くても妖を避ける方法はあるし、結界を張っていても既に妖が中に侵入している事もある。巫女がやっているのは気休めだ」
敬子は子供の頃から巫女はこの世に絶対必要な存在だと思って生きてきたが、こういう考え方もあるのかと、新しい価値観を知った。




