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友情

 一夜明けて、たくさんいた妖達もねぐらへ帰って行った。

 あの後は豪也が外を見張っていたが、もはや眠る事は不可能だ。一晩中、空や海と一緒に宿の片隅で縮こまっていた。


「ねえ、これからどうするの。紅尋まで行って巫女に仕えるの?」


 宿を出たところで少年が尋ねた。空が答える。


「私達はね。けれど、敬子様は親戚の家へ向かわれます」


 彼女達は敬子の里での事情を知っている。敬子自身が話したからだ。


 旅を共にしてきた今、彼女達は敬子の頼もしい味方だ。

 姉妹は敬子の話を聞き、親戚の元へ行くのが良いと判断した。

 麗華に仕えるよりも、親戚の薬師の元で修行する方が敬子の為になると。

 だから、寂しいけれど、もうすぐ二人とは別れなければならない。



 空と海は静かに敬子を見つめる。姉妹には考えがあった。

 何がなんでも、敬子を一緒に連れて行くわけにはいかない。


 敬子は気付いていないが、黒鵜は敬子をおそらく麗華の身代わり、「影武者」あるいは「巫女の予備」として用意したのではないだろうか。

 だてに宮仕えしている訳ではない。上の人間の考えそうなことも、少しなら予想がつく。


 敬子も侍女であるとはいえ由緒正しい巫女一族のお嬢様だ、疎かにしていい人物ではない。

 にもかかわらず、黒鵜は麗華しか助けなかった、敬子を助ける様指示も出さなかった。

 危険な目に遭った時には、敬子を囮として麗華を逃がし守ることを黒鵜は計算していたのではないだろうか。


 疑えば疑うほど、予想が真実味を帯びてしまう。

 だから、ここで敬子を解放するのが正解なのだ。彼女が巫女の犠牲になっていい理由などない。



「敬子は都内に住むの?」


 馴れ馴れしく敬子を呼び捨てにする少年に距離を取りながら、敬子は彼に「大叔母の住む都の西側の町へ行く」と答えた。


「じゃあ、僕達の家の近くかもね。僕達は大安国中を回っているけれど、ちゃんと家があるんだよ、今から家へ帰るところなんだ」

「香葉。お前の家じゃない、俺の家だ」


 豪也が嗜めた。少年は香葉という名前らしい。


「ねぇ、一緒に行こうよ。退治屋と一緒の方が心強いでしょう?」

「それはいいですね。敬子様をよろしくお願いします」


 空が香葉に同意し、海も同調した。

 海は空の言うことなら何でも賛成する節がある。


「敬子様がお一人になってしまうことは心配だったのです。私達はこのまままっすぐ進めば夕方には紅尋ですが、紅尋以外の場所はこんなにも恐ろしいところですもの、このまま西へ移動されるなら尚更です」

「豪也、いいでしょう?」


 少年の声に豪也は片眉をあげた。胡散臭そうに少年を見る。


「お前、何か企んでいるんじゃないだろうな」

「まさか。豪也がいるのに悪さはしないよ」

「なら、勝手にしろ」


 あっさり承諾が下りた。

 空と海は、まるで敬子の保護者の様に、豪也に礼を言っている。

 少し恥ずかしいが、自分のために空と海がそこまでしてくれることが嬉しかった。

 もうすぐ離れてしまうのが寂しい、人前だというのに自然と涙が出てくる。

 道中を一緒にしただけなのに、二人とは里にいた頃の誰よりも親しくなった。


「空、海、大叔母様の家へ着いたら手紙を書くわ」

「ええ、私達も。敬子様、ここまで本当にありがとうございました」


 笑顔で手を振る彼女達を見て、敬子は思った。

 あの時、空と海を助けて良かった。逃げなくて良かった。

 こんなにも今、空と海が大切だ。

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