花の都<※麗華視点>
麗華は黒鵜に抱えられてただ震えていた。脳裏に置き去りにした者達の断末魔が蘇る。
怖い、怖い。それしか考えられなかった。
「大丈夫です。麗華様、私がお守りします」
必死で馬を走らせながら黒鵜が答える。麗華は黙って頷いた。
昨夜は全く眠ることが出来なかった。
恐ろしい蜥蜴の化け物に追い回されて、気が休まる暇もなかった。神楽の里にいたときから妖は何度か見た。恐ろしいものだということも知っていた。
里が妖の被害に遭うことは多くはないが、近くの山の中で妖の被害に遭う者はいる。
だが、実際に自分が被害に遭うことは初めてだった。これほど怖い思いをしたことも。護衛の兵士達が、身近な人間が次々に目の前で殺されたことも。
避難した先の村で襲われた時、あの黒い大きな蜥蜴は言った。「お前を食らいにきた」と。巫女を食らえば強力な力を得られると言い、麗華達に襲いかかってきた。
間一髪で黒鵜が刀で薙ぎ払い、後は退治屋と呼ばれる流れ者の男が全て止めを刺した。
怖くて仕方がなかった。もしかすると、あの妖達は初めから麗華達を、いや、麗華を狙って隊列に襲い掛って来たのかもしれない。
背筋がゾッとした。
巫女の座がこんなにも恐ろしいものであるならば、敬子にくれてやれば良かった。
その敬子ももういない。あの様子では無事ではないはずだ。
麗華が頭を抱えていると、輿が止まった。
「都に着きましたよ。麗華様」
黒鵜の声が掛った。輿から降りる。
「……っ」
麗華は声を飲み込んだ。
そこには麗華の見たことのない世界が広がっていた。
「綺麗な建物だわ……」
赤や白の混じった大きな建物がたくさん並んでいる。
屋根や柱にはとても細かい美しい細工が施されてあった。
「ここが大安国の都です。楽都」
「綺麗な都だわ」
「私達は今楽都の中心、紅尋におります。あなたが住まわれる宮殿もここにあるのです」
麗華は初めて見る都の景色に見入っていた。
紅尋しか見ていないけれど、他の町も美しいに違いないわ。
大勢の人々が麗華を取り囲んでいる。
皆、巫女がやってきたことを喜んでいるのだ。子供が花束を持ってきた。
「巫女様だ。新しい巫女様が来たぞ!」
「まあ、美しい方だこと」
口々に麗華のことを話している。昨日の恐怖心薄らいできた。怖いこともあったけれど、都の人々が、こんなにも自分を歓迎してくれている。
わたし、やっぱりここへ来て良かったのかもしれない。
「麗華様、宮殿へ向かいますよ」
黒鵜が麗華を促した。
麗華は黒鵜に従い、巫女の住まいである宮殿へと続く門を潜った。




