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神楽の巫女

 巫女の輿が目の前を通り過ぎる。これから都の向かうのだ。

 敬子は、やりきれない気持ちになった。今まで、これほど自分を惨めに思ったことはない。


「私は今まで何の為に……」


 悲しみよりも、憤りと悔しさが勝った。

 自分を不甲斐無いと思う一方で、その娘をねたむ気持ちを抑えられない。

 なぜ、私ではなく彼女なのだ。

 どうして、私が選ばれなかったのか——



 ここは、大安という小さな島国だ。

 この国では古くから多くの妖が跋扈しており、人々は妖を恐れて暮らしていた。

 妖は人を襲って食らい、害をなす。


 性質の悪いものならば、人型を取って人間の暮らしに紛れ込んで悪さをすることもある。

 特に、権力者や役人になど化けられるとどうしようもない。

 悲しいことに、多くの人間は総じて権威に弱い。人間社会で生きていくには、お役人や権力者に従わざるを得ないのだ。


 だが、人間側も大人しくそれに甘んじている訳ではない。

 大安では、政治の中枢に妖を入り込ませないように、万全の策をとっている。妖に国の実権を握られでもしたら、一大事だからだ。


 この国の政治の中枢である都には、常に妖を退ける強力な結界が張られており、妖は決して入り込むことができない。

 結界を張るのは、代々不思議な術を操る巫女の一族の仕事だ。彼らは、都から少し離れた神楽の里という山奥に、ひっそりと隠れ住んでいた。


 その一族が、なぜこのような不思議な術を扱えるのかは分からない。

 一説には、彼らの先祖に妖の血が混じっているとも言われている。

 だが、巫女の力は、人間の側にとってなくてはならないものだった。


 代々、巫女の一族の中から一番力の強い者が都の巫女に選ばれて、都の中心であれる紅尋の街に迎えられる。

 前の巫女の力が弱まれば、同じ里から次の巫女を迎えることになっているが、前巫女の血族である里長一族の娘が巫女を引き継ぐことが多かった。


 巫女は都の中心、紅尋という街の宮殿に入り、結界を張って都を守る。

 国全体の要を守ることが巫女の大事な仕事なのだ。

 それは、巫女の一族にとっても大変名誉のある役割だった。

 このようにして、神楽の巫女は代々都を守り国を支えて来たのだ。


 しかし、最近ではそうした都を守る力が弱まり、本来なら安全な場所である都も徐々に妖に荒らされてきているという。

 妖の力が増していることと、巫女の力が弱まっているのが原因と見られていた。

 殊に最近は急激に妖の数が増え、巫女の世代交代が近いのだと都では噂になっている。





 敬子は里長の家の長女として生まれた。今年で十二歳になる。

 平凡に毛が生えた程度の容姿と平凡な能力しかもたない、どこにでもいそうな目立たない娘である。性格も飛び抜けて良いとは言えない。

 本当に、どこにでもいるただの平凡な里娘だ。

 祖母である都の巫女の血と力を引き継いだ娘で、次期巫女として育てられたということを除けば。


 都から、次期巫女を迎えに来たという使者が訪れたのは、二日前のことであった。

 そろそろ現巫女が引退したいと申し出ているらしく、敬子もその話は事前に父から聞いていた。


 里を訪れた使者は、いずれも華やかで美しい青年達であり、里の娘達の注目の的となるのに時間はかからなかった。

 屋敷の前で佇む彼らに、田舎に住む若い娘達は競って話しかけ、気を引こうとした。


 敬子は客間で、長の娘として彼らに対面した。

 彼女は一族の代表、今回巫女として都に行くことが決まっており、使者は彼女を迎えに来たのだ。敬子の胸は、期待に高鳴っていた。


 里長の屋敷には、敬子の家族のほかに、彼女の親戚達や里の野次馬達も集まった。

 何枚もの畳が敷かれている大きな座敷には、人々が犇めき合っている。皆、巫女の旅立ちを祝ってくれるのだ。

 敬子は唯々嬉しく、誇らしく、集まってくれた皆に感謝した。


 これから何が起こるのか、知りもせずに——

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