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マスコットの真相と悲しみ

お待たせしました。

「さぁ、ホームルーム始めるぞ」

「ちょっと待ってください。話は終わって無いんですって」

「黒鳥、王として少し(たるんでるんじゃないか?もっとやる気を出せ」

「やる気って…」

「ホームルーム始めるぞ」

今まで見たことないような威圧感のある笑顔で僕を見てきた。

田口は毎日、マスコットを苛めることだけを考えながら生きてきたのだろうか。

僕には、理解できない生活になるのだろう。

田口に心境が聞きたくなった。

「さて、来週の土曜日は社会科見学がある。持ち物など、忘れ物が無いようにするように」

「じゃあ、今日も一日頑張って行こう」

「一時間目は、体育だな。頑張れよ、皆。以上だ。」

「起立!!礼!!」

荒川さんの声が聞こえた後、みんなは体操着に着替え始めた。

「お前の返り血で制服がベタベタだから、洗っといてね」

クラスの一人が、当然のように田口に制服を渡した。

「了解しました」

まるでロボットのように、生気がない声で返事をしてクラス中の制服を集め始めた。

「変な気を起こすんじゃないぞ。制服に何かあったら殺すからな」

「大丈夫です。ちゃんと洗って参ります」

たった一時間で、クラスの人たちの制服が乾くわけがない。

どうするつもりなのだろうか。

気になった僕は、一時間目をサボり田口を観察することにした。


 校舎裏の蛇口に行くと。

田口は、制服の返り血の部分だけを綺麗に手洗いしていた。

いろいろ聞きたいことがあった僕は、田口に後ろから話しかけた。

「田口、話があるんだけどいいか?」

「王になったお前が俺に何の話があるっていうんだ?」

「王になった理由と、お前の王から外された理由とか色々と聞きたいことがあるんだ」

「何か勘違いしているようだから、言わせてもらうが俺は王になったことはない」

「前の王はお前だろうが」

「“リーダー”は確かに、俺だった。しかし、俺は“王”ではなかった」

制服を洗い終えた田口は「場所を変えよう」と言った。

「さっきの続きだが、王では無かったとはどういう事なんだ?」

「柏崎はお前に前のリーダーは俺なのは聞いたよな」

「聞いたよ。でも、リーダーが王って意味じゃないのか?」

「それが勘違いだと言いたいんだ。王なんてものは俺の時にはなかった」

「じゃあ、なんで王なんて物に俺がなってるんだ?」

「それは、わからない」

「そうか。あと、マスコットっていう名前の由来はなんだ?」

「元々マスコットという名前は、俺が内気な子とも仲良くするために付けた名前だ」

「それが、苛められっ子の隠語になってしまった」

「周りに流されて、黒鳥に暴力を振ってしまった事に本当に申し訳なく思っている」

「謝っても気が済まない事は分かっているが、謝らせてくれ」

「ごめん」

多分、田口はこの言葉をずっと言いたかったんだろう。

田口は、元々悪い奴ではなかったし嫌いではない。

クラスに振り回された田口も、被害者なのだ。

「謝らなくていい。王として田口に良い学校生活ができるように頑張ってみるよ」

「ありがとう、黒鳥」


 一時間目が終わり。

教室に戻ってきた柏崎が「大丈夫ですか、黒鳥様。ご気分でも悪いのでしょうか」

などと、執事かのように聞いてきた。

「大丈夫だ。制服はまだ乾かないと思うから、体操着でいたら?」

と、優しさ溢れたような事を言った。

本音を言うならば、体操着のままでいて風邪でも引いて学校を休んでほしいと思っている。

「お気遣い、ありがとうございます。黒鳥様。でも大丈夫ですので」

などと言いながら、生乾きの制服をクラス中が着始めた。

このままでも、風邪をひくかもな。

などと考えながら、生乾きの制服を着終えて教室に戻ってきた女子を見た。

里中さんなど、女子たちが体に服を密着させたのを見て少しだけ興奮したのは人には言えない。


 六時間目が終わり。

授業をすべて終え、暇を持て余したようで。

体温で制服を乾かした柏崎たちが田口を睨んで、苛めようとしていた。

「今日は、人を苛める気分じゃないから落ち着けお前ら」

思いついた言葉をそのまま発すると、よく躾けられた犬のように言う事を聞いた。

すると、担任が教室に入ってきた。

「さぁ、帰りのホームルーム始めるぞ。席に着け」

クラスメートが席に着き、静かになるとホームルームを始めた。

「朝も言ったが、土曜日に社会科見学があるから忘れないように」

「あと、現地集合で現地解散だ。時間厳守で来るように」

「以上だ。おつかれさま」

そして、その日の学校が終わった。


 帰り道。

僕は、遠回りをして帰るため電車を使う事にした。

ちょうどよく、快速電車が来て気分良く電車の中で音楽を聴いていた。

電車内から、間もなく最寄もよりの駅に着く事が知らされた。

イヤホンを外し、ドアが開くのを待った。

そして、快速から降りた時だった。

反対のホームから敬礼と聞こえた僕は快速に乗り直し電車の窓から反対のホームを見る。

反対の線路に眼鏡をかけていて三つ編みの、小学生低学年であろう身長が120cmにも満たない女の子が立っていた。

女の子は何が起こったかわからないようで、キョロキョロと辺りを見渡している。

『間もなく、快速電車が到着いたします』

助けようとする人はいないのか。ホームに目を移した僕は驚愕した。

線路に降り、助けようとする大人は誰もいなかったのだ。

敬礼をしている大人もいれば、目を伏せて怯えている人もいた。

大人たちは自分の命が大事だと考えているのだろう。

なら、今からでも僕が助けに行かなくては。

そんな事を考えていた時だった。

未だかつて聞いたことがないような。

轟音を鳴らしながらホームに到着した電車は。

女の子をシュレッターが紙を砕くように女の子を飲み込んだ。

血が駅を赤く染め上げ、人は嘔吐した。

快速から降りた僕は、緊急ボタンなるものを見た。

緊急で設置しているはずのボタンは怪奇な音を鳴らすだけで意味をなさなかったのだ。

人の命を助けるために設置しているものが、人を救えないのだから。

ボタンに、右手で力を籠め殴った。

ジンジンと痛んだが、女の子に対する悲しみに比べると大したものではなかった。

血の匂いが鼻につき吐き気を催した僕はトイレに行った。

洋式の便所が空いていて、そこで汚物を処理しようと思う。

しかし僕は吐くことができなかった。

僕は、女の子のあの姿を見て吐くことができなかったのだ。

人間としてどうなのだろうかと考えながら、トイレを出た。

女の子に両手を合わせ冥福を祈ろうと思い、女の子の所に行った。

女の子の遺体は駅員がブルーシートで隠していて一般人は見ることができなかった。

女の子が轢かれてしまった場所で、僕は両手を合わせ黙祷した。

その後、周りを見渡すと誰も何事もなかったように振舞っていた。

一人の女の子の人生を見殺しにして、何が敬礼だ。

敬礼なんかする暇があったら、助けられただろう。

女の子の遺族と思われる人がブルーシートに泣きついている。

それを見て、何も出来なかった自分に悔しさを感じた。

それ同時に、見殺しにした人々に憎悪と殺意が湧いた。

しかし、こんなにも人は、自分に関係がなければ何も感じない生き物なのだろうか。

人の悲しみや痛みが。

人を見殺しにし、そのあとは知らない振りをしてその場を立ち去る。

そんな人を、僕は人と言えるのかと疑問に思う。


 






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