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こんにちは、僕たち私たちの王

ジリリリリ

昨日と同じ目覚まし音で起きた僕は、二度寝をしたい衝動を抑えながら布団から出た。

パジャマを布団の上に脱ぎ捨て、運動をしやすい服に着替えてからお茶を一杯だけ飲んだ。

相変わらず、家族はみんな寝ている。

昨日と同じように「おはよう」と家族を起こさないように言いながら、靴ひもを結んだ。

そして昨日の田口の顔を思い出すと、恐怖が理由なのか靴ひもは強く結んでいた。

「よし、行くとするか」つぶやくように言い、外に出た。

昨日と違い、外は少し曇っていて空気はどんよりとしていて深呼吸をしても爽やかな気分にはなれない。

しかし、一度決めたことは最後までやることにした。


 今日は、広い公園で散歩をすることにした。

草むらで遊んでいる子供や、犬を見ると少しだけ心が休まった。

しかし、田口のあの顔を忘れることができないでいる。

ベンチで一休みしていると、隣に人が現れた。

「おい、小僧。また会ったな、深刻そうな顔をしているぞ。どうかしたのか?」

「あー、おはようございます。いえ、大した事ではないので大丈夫ですよ」

決して、大丈夫ではないが他人に言える話ではなかった。クラスメートが刃物を物色していたなんて。

「ふむ、そうか。ならいいが、若いのだから気楽に生きた方が良いぞ」

里中さんも、同じ事を言っていたな。そんなに、思いつめて生きているように見えるのだろうか。

「ありがとうございます。頑張ってみますね」

結局、あの時のメールと同じ返答をした。

「小僧、また会ったら話そう。あと、次に時間があったら飲み物でも一緒に飲むとしよう」

「わかりました。それではまた」

おじさんと、背を向い合せるように歩き始めた僕は家に戻ることにした。


 家に戻ると、珍しく家族の全員が起きていた。

「おはよう、お兄ちゃん」

最初に、有紀が挨拶をした。

「おはよう、彰」

「おはよう、みんな」

そう言いながら、テーブルに用意されていた朝ご飯を食べ始めた。

そして、朝のニュースを見ながら、パンをかじった。

物騒なニュースは無かったが、なぜか物足りなさを感じていた。

心のどこかでは、何かが起こってほしいと思っているのかもしれない。

しかし、自分の身の回り以外という条件で。

「そろそろ、学校に行くね。母さん」

「もう行くの?今日は早いわね」

「今日は、日直なんだ」

今日は日直では無いが気になることがあったので早く行く事にした。

「そうなのね、いってらっしゃい」

嘘を言ったことに、多少の良心を痛めながら制服に着替えた。

気になる事というのは、田口の様子だ。

田口も不幸にもマスコットになってしまった人間だ。

元マスコットとして、相談ぐらいは乗るよ。と言いたいと思っている。

マスコット時代に付いた制服の汚れを見ながら、今日のクラスの状況を想像する。

たぶん、田口は僕と同じ扱いを受けるのだろうと思う。

良心が少し傷つくが、田口には感謝を言いたくなった。

「言ってくるね、母さん」

家から出ると、雨が少しだけ降っていた。


 学校に着くと、真っ先に目に付いたのは血で真っ赤に体を染めた田口の姿だった。

こんなになるまで、クラスの奴らは田口を暴行したのか…

俺が、マスコットだった時はこんなに酷くなかった。

田口の姿は、八つ当たりするためのマスコットという言葉が似合う姿に変貌していた。

暴行を受けた体は内出血を起こし流血していて、顔は変形しているように見えた。

そんな田口の姿に驚いたその時、田口から信じられない言葉を聞かされる事となった。

「おはようございます。黒鳥様」

「え?」

その言葉を言うのが精一杯だった。

あの田口が、僕に様付けで呼ぶ日が来るとは思いもしなかったのだ。

それについて、喜びを感じなかった。

だが、クラスの奴らがどのようにして田口をここまでさせているのかを聞きたくなった。

「田口、なんで僕に様付けしてるんだ?」

「それについては、俺たちから説明させてくれ」

割り込むように、元田口グループの柏崎かしわざきは話してくる。

「昨日の昼の時に、次にリーダーが誰がいいか聞いたのは憶えてるよな?」

「憶えてるけど、それがどうしたんだ?」

「あの後、放課後にクラス全体での投票が行われ、そして俺と圧倒的票差で黒鳥がキングになったわけだ」

「黒鳥、これからはお前がこのクラスを自由に使える。クラスの人間は皆、お前の“物”だ」

「そういうのは、僕は好きじゃないんだが」

「好きじゃなくて構わない。ただ、黒鳥は王になったんだ。おめでとう」

クラス中から、拍手が沸き起こった。

世界が一変したように感じ、夢かと思い頬を引っ張っても痛いだけだった。

「黒鳥、王になった記念に田口をこれで殴れよ」

手渡されたのは、金属バットだった。バットは、血でベットリとしていた。

「先生にばれたら、俺たち進学できないぞ。そうなったらどうするんだよ!!お前ら!!」

僕は、柄でもない大声でクラス中に問いかけた。

一人の女子が大丈夫。と言い始めるとクラス中が大丈夫だと僕に声を揃えて言ってきた。

気持ち悪さを感じながら、バットを握っていた。

すると、教室のドアが開けながら先生が入ってくると同時に朝のホームルームのチャイムが鳴った。

「先生に、ちょっと言ってくる」

そう言った俺に、クラスメートは「言っても意味ないよ」と言う。

その言葉を無視して、先生に詰め寄る。

「先生、この状況はどうすればいいんですか?王になった僕が止めればいいんですか?」

聞くことしかできなかった。

すると先生は「王に相応しい行動をして、クラスを導け」

「マスコットがその犠牲なのは、お前がよく知っているだろう」

「学級委員にでもなったと思えばいいだろう。王になったんだな。おめでとう」

先生にはこのクラスの状況を否定してもらえると思っていた。

この狂ったクラスの異常さに。





間違い(誤字脱字)があったら、連絡お待ちしてます。

意見も、お待ちしてます。

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