劇的な策(第1部)
件のヴァレンタインデイより時が2週間遡る事をご承知頂きたい。
と言うわけで回想である。
勿論、私のような腐れ高校生が回想したところで急展開があるわけではないことを此処に記しておく。
・・・・・・
その日、我々は部室にいた。飯岡先輩が既に推薦で大学に合格したという話を岩田から聞き、「あのような性格クズに推薦入試の権利を与えた我が校の進路部とそれを受け入れた進学先の入試担当は即刻人を見る力を育てる研修に10年間行くが良い!」と考えていた時である。
岩田がホワイトボードに何らか書き出した。
「おい、岩田。一体何を書いている?」
「んー?まぁ、見とけって。」
ホワイトボードに書ききると岩田は、こう告げた。
「あー、ちょっといいか?」
「ん?岩田君どうしたの?」
「足立さん、そんな興味を出すことはありません。どうせ、ろくでもない事に決まっている。」
「おーい、いつもの事ながら失礼だな。」
「思い付きがろくでもないことなのもいつも通りではないか。」
「だから……ま、いいわ。足立っちゃん、今月末何があるか知ってるか?」
「ん?今月末?2月28日だから……ビスケットの日とか?」
「いや、違う。と言うかそんなの今始めて知ったわ。」
「足立さん、こいつがどういう奴かを考えればすぐ分かるではないか。」
「あー、お前には聞いてねーんだけど。ま、いいや。言ってみろ。」
「2月28日はバカヤローの日なのだ。因みにこれは、1953年に当時の首相である吉田茂氏が衆議院予算会議で」
「はい、他にあるか?足立っちゃん。」
「ん~……?さぁ?分からないね。」
「おい、岩田。聞いてたか?」
「いや、全然。全く。これっぽっちも聞いてねーけど?“バ”から先は聞いてなかった。」
「本当に全く聞いてないではないか!」
私の折角の知識披露を無視するとは。岩田め、何かこう、思いもよらぬ事故にて地味な苦痛を味わうがいい。
「あたしは聞いてたよ?」
「流石は、足立さん!素晴らしい!岩田、貴様も彼女を見習うが良い!」
「……なんか腹立つな。」
「で?結局今月末何があると言うのか?」
「あ?あぁ、そういやそう言う話だったな。」
「貴様が振った話であろうに何ゆえ忘れているのか!?」
「まぁまぁ、そう言う事もあるっしょ。」
「いいからさっさと言え!いつまで引っ張る!」
「今月末、ウチの高校は……」
「あ、予餞会か。」
「予餞会があるんだ!……って足立っちゃん!おい!」
「あ、ごめん。」
「良くやってくれた、足立さん。こいつの無駄な引っ張りを潰す見事なボケだ。」
「うん、多分それを褒められたって取れる人居ないと思うよ。」
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一応説明を入れておこう。
予餞会とは、所謂「3年生を追い出す会」である。
学校によっては、「送る会」などと呼ばれていたりするかもしれぬ。
「それで、その3年生を追い出す会がどうした?」
「せめて、送る会って言えよ。いや、文芸部で出ようかと思って。」
「却下だ。」
「またはえーな、おい。」
「何ゆえそんなことをする必要があるのか?面倒くさい上に理由がない。」
「一応この部活にも先輩がいただろ。」
「あの男のために何かをするかスーパーで買ったパセリ一袋まるまる食べるか選べと言われたら私は迷わずパセリを食そう。」
「随分ビミョーな嫌いっぷりだな、おい。」
「兎に角、私は断固として参加に反対する。」
「あたしは、飯岡先輩にお世話になったし参加した方がいいと思うけど……。」
「岩田、何をしている。さっさと何をするか言え。」
「相変わらず手のひら返しが早ぇーなー。」
「足立さんが賛成するならば反対する理由もあるまい。」
「……まぁ、何でもいいわ。取り敢えず内容だけ言っとこうか。我らが文芸部は……。」
「無駄に間をとるなと何度言えばわかる、貴様は。」
「演劇部全面協力のもと演劇をやりたいと思う!」
「…………。」
「…………。」
「岩田、今後のために教えておこう。寝言を言うには寝ていなければならないのだ。」
「いや、そうだろうよ。」
「ならば先程の発言は聞き間違いか?それとも新手のボケか?」
「これでも真面目に言ったんだぜ?」
「真面目の意味を間違えてる可能性がある。真面目という単語を辞書で引いてみるがよかろう。」
「合ってんよ!」
「なら聞こう。一体それの何処が文学的なのか?」
「台本を俺が書く。」
「成る程。そういう参加の仕方なら最初からそう言えば……。」
「あっ、主役お前らな。」
「何っ!?」
「えっ!?」
これには足立さんもビックリである。
「因みに内容は……恋愛物な♪」
一体、岩田氏は何を考えているというのか?足立さんと共に嫌な予感としかし足立さんを相手にした恋愛物ができるという喜びを感じつつ回想終了。




