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唾棄すべき偏愛  作者: 平遥


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15/19

聖夜の策

さて、12月24日である。

世間は所謂クリスマス前日であり大変な賑わいを見せている。

昨年までの私ならば街中を腕を組みつつ歩いている万年青い春な男女に向かって、わざとぶつかるという嫌がらせをするべく街に繰り出していたのだが今年は違う。私の家に足立さんが来るのである。

なんという聖夜(前日)。今だけは首からロザリオを下げキリスト氏の生誕を祝おうではないか!

主に感謝する。


「さて、と……。足立さんが来る前に準備でもしておくとしようか。」


と考え立ち上がったその瞬間である。

私の部屋に呼び鈴が鳴り響いた。


「まさか足立さんか!?」


意気揚々と扉を開けたところには……


「よっす!」


バタンッ!


「おい!閉めるな!」

「五月蝿い!何故ここにいる!空想彼女はどうした!」

「空想じゃねぇ!優菜はバイトだ!だから明日会うことにしたんだよ!」

「優菜という名なのか。名字は?」

「川上だよ。ってか教えてどーする!」

「『川上優菜』の検索結果は……ほう、971件か。」

「いや、調べるなよ!ってかいい加減開けろよ!」


そう、我々は未だに扉一枚挟んで会話をしているのだ。あまりに五月蝿いから渋々あけてやった。


「全く、玄関先で騒いだら近所に迷惑だろうが。」

「いや、お前の所為だろ!」

「8:2で貴様の所為だ。」

「2割は認めるのかよ。」

「私からのクリスマスプレゼントだ。」

「あー、ハイハイ。ありがとさん。」

「適当な返事をしおって。まぁ良い。今、準備をしてるから手伝え。」

「……なぁ、これなんだ?」

「は?サンタの絵以外何に見える?」

「昨日家の弟の友達が描いてた絵の方がそっくりだぞ。なんだこの泥棒は?」

「サンタクロース氏だ!」

「いやーないわー。精々が寝起きのアメリカ人のゴミ出しだわー。」

「寝起きのアメリカ人のゴミ出し!!つまりサンタクロースの被るナイトキャップは認められているのだな」

「いや、その理屈はおかしい。だって俺こいつがいたら通報するからな。」

「ふん、貴様のような奴のところにサンタ氏は来ないだろう。さっさと準備をするぞ。」

「あいつもしかしてサンタを信じて……。いや、まさか、流石に。……まぁいいや。んで俺は何をすればいい?」

「そうだな……。じゃあ、そこにある材料でチキンライスを作っておいてくれないか。私はパスタの材料を切っているから。」

「へいへい。さて、やるか。」

・・・・・・

読者諸賢におかれては私は大変な落ち着きを持つ者であることはとうにお見通しであろう。しかし、そんな私であってもこればかりは驚いた。というか理解ができなかった。


「岩田、これは一体何だろうか?私はチキンライスを頼んだ覚えがあるのだが記憶違いだろうか?」

「だから……チキンライスだろ?」

「何故チキンライスが黒いのだ!チキンライスとは赤くあるべきだろう!」

「いや……まぁちょっと焦がしちまって。」

「どこがちょっとなのだ!墨汁も真っ青の黒さではないか!」

「黒なのに青とはこれ如何に?」

「そういう話ではない!」

「まぁまぁ、悪かったって。ちゃんとどうにかするから、な?」

「当たり前だ。責任を持ってかっ喰らえ。」

「勿論。で他にやることは?」

「ならばそうだな……。あー、ならばもう成型はしてあるからシュウマイの方を頼む。」

「はいよ。今度こそ任せろ。」

「本当に頼んだぞ。」

・・・・・・

何故、私は1日に2度も驚愕せねばならぬのか。

というかシュウマイに一体何が起きた?

「岩田?一体シュウマイに何をした?」

「……焼きすぎた?」

「聞くなよ!っというか何故貴様はシュウマイを焼いた?」

「焼かねえの!?」

「確かに『焼売しゅうまい』と書くけども!」


どうやら岩田は料理が酷く駄目らしい。


「そうだとしても焦がすか!?」

「いやーつい……。」

「もう良い、飾り付けの方を頼む……。」

「……はいよ。」

・・・・・・

さて、準備も半ばである。

料理は岩田が離れてからびっくりするほどスムーズになった。そうこうしていると再び呼び鈴が鳴った

ので開けると。


「やぁ、メリークリスマス。」


今度こそ足立さんである。しかし、横に居るのほ何者か?


「失礼だが横に居るのは誰か?」

「あぁ!私の友達でね、川上優菜っていうの。バイトが終わって暇らしいから誘ったんだけど。というか友達を一人誘うことメールしたよ?」

「あぁ、そう言えば携帯を見ていなかったな。」


しかし、どこかで聞いたような名だな。……どこだったか。


「ども、川上優菜です。予想以上にバイトが早く終わったから来ちゃいましたけど……やっぱり迷惑でした?」

「いや、問題ない。足立さんの友人なら歓迎しよう。」

「ありがとうございます。」

「そう言えば優菜、彼氏の方は?」

「んー……。まだ返信来てないね。」

「失礼。川上さんには彼氏が居るのか?」

「えぇ、居ますよ。今日は彼、友達とクリスマスパーティーしてますけど。」

「そして先程までバイトをしていたのだったな?」

「はい……。」


なんと言うことだろうか……。状況証拠だけなら完璧ではないか。どこで聞いたのか思い出した。


「失礼だがその彼氏の名前は?」

「岩田……「え!?優菜!」」


川上さんが口を開いた瞬間岩田が玄関を覗いた。

・・・・・・

「で?岩田、事情を説明しろ、30字で。」

「本当に知らない。本当に偶然、足立っちゃんが連れてきただけだ。」

「わざわざ30字ぴったりで答えなくても……。でも何で優菜からのメールに返信しなかったの?」

「ん?あぁ携帯忘れてきた。」

「なるほど。」

「んで?何で優菜はここに来たんだ?」

「玲衣ちゃんに誘われたの。友達とクリスマスパーティーするからって。」

「足立っちゃんは俺と優菜が付き合ってんの知ってたのか?」

「全然。優菜に彼氏が居るのは聞いてたけど名前は知らなかったから。」

「んじゃ、本当に偶々誘っただけなのか。」

「そうなるね。」


なんと言う偶然か。というか私だけこの出来事において蚊帳の外ではないか!


「で?岩田よ、どうするのだ?」

「どうするって?」

「せっかく、彼女が来たのだ。二人でどこかに行くのか?」

「んー……?まぁ、それは明日でいいか。」

「そうだね。岩田くん。」


足立さんと二人にはなれなかった。

・・・・・・

私は今、ショッピングモールにいる。何故このようなことになったのか。その答えは追々分かるであろう。


「いやー楽しかったね。優菜。」

「うん。そだね玲衣ちゃん。にしても岩田くん。どうやったらシュウマイを焦がせるの?」

「いや、あれは本当に悪かったって。でも飾り付けは良かったっしょ。」

「うーん、まぁ55点かな。」

「いや、川上さん採点が甘いですぞ。45点で十分です。」

「いや、君の絵は25点でも多いからね。」

「お!足立っちゃんよく言った!」

「岩田、貴様の料理は腹を空かせた犬でも食べるまい。ところで本当に泊まっていくつもりか?」

「その為に色々買いに来たんだろうが。」


つまりはこういうことである。


「ねぇ、玲衣ちゃん。この服はどう?」

「あー、良いね。優菜はこっちにしなよ!」


「……なぁ、岩田よ。」

「どうした?」

「私は今、猛烈にここに来たことを後悔している。」

「何でだよ。」

「女子2人の買い物が長い。」

「あー……確かにな。」

「何にこんなにも時間が掛かるのだ。」

「さぁ?俺はもう優菜で馴れた。」

「足立さんも買い物に時間を掛けるのだろうか?」

「まぁ、この状況を見る限りそうなんじゃねーの?」

「……男女付き合いとは面倒なのだな。」

「おうよ。そんなもんだ。」


その後買い物を終えるのに1時間掛かった。

・・・・・・

「いやー、良く部屋が空いてたね。」

「まぁ、家族がクリスマス旅行とやらで出掛けているからな。」

「お前、そっちに行かなくて良かったのか?」

「岩田、良く考えろ?家族旅行はいつでも行けるが足立さんとは今しか会えないのだぞ。」

「そ、そうか。」

「では、足立さんと川上さんはこちらの部屋で寝てくれ。」

「うん、分かった。」

「はい。分かりました。」

「私はすぐとなりの部屋で寝る。岩田はベランダか床下どっちがいい?」

「どっちもやだよ!お前の部屋に入れろよ!」

「流石に冗談だ。では、女性諸君。また明日。」

「うん、じゃあね。お休み。」

「岩田くん、お休みなさい。」

「うーい、お休み、優菜。」

・・・・・・

その後我々は何事もなく床に着いた。男女が一つ屋根の下だからといって何かなければならぬとは決まっていまい。勿論、隣に足立さんがいるという状況は酷く私の感情を昂らせ眠りに着いたのは2時頃であったが。

それと蛇足的な余談だが、次の日、起きると枕元にクリスマスプレゼントと思しき本があり何故か6時頃に岩田が外から帰ってきた上何やらペンダントをしていたがそれこそ語る必要のない別の話である。

岩田が外から帰ってきた理由とペンダントにつきましては『サンタクロースのクリスマス』という短編をお読みください。(勿論、読まなくても今後の話に関わってくるほど重要な事は一切ございません。)

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