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唾棄すべき偏愛  作者: 平遥


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12/19

無思慮な策

さて、唐突で突然でなんの脈絡もないのだが皆さん自身の事を考えてもらいたい。皆さんは『辛み』は得意だろうか?何を隠そう私は県内屈指の辛党を自称するほどの辛党である。何故私がこの様な知った所で底に穴のあいた薬缶よりも役に立たない自慢をしたのか、それはこの話を読む上で知っていた方がよいと考えたからである。それではご覧頂こう。私が辛党を名乗ることを控える様になった出来事……もとい私と足立さんの物語を。

・・・・・・

「じゃあ、そこで座ってて。」

「ん、いやあまり長居する気はないのだが……。」

「じゃあ、長居する気になって。」

「いや、その理屈はおかしい。」

「そう?まぁ、いいからいいから。そこで待ってて。……15分くらい。」

「人の家でたった1人で15分くらい過ごす苦痛をご存知か?」

「知らない、ご存知ない、知りたくもない。」


そう言い残し去ってしまわれた。

この様な場に私1人を取り残し、いったいどうしろと言うのだ。此処が岩田氏の家であればイタズラとして本棚にある本の帯を全て入れ替えてやったり、彼の携帯電話のアラームを15分後に鳴るように設定してやるというのに。残念ながら女性の家での過ごし方なぞ解らぬ。それに、このような展開は全く考えて居なかった。本を買いに行ったら足立さんの家で手持ちぶさたになるなど誰が予想出来ようか。そのくらいするべきだと言う方は是非ご一報を。徹底的に議論してしんぜよう。

と、私が手持ちぶさたにしていたときであった。


「お待たせ。」

「おや、随分早いお戻りで。」

「まぁ、正直15分っていうのは、盛って言ったからね。短く言って嘘になったら悪いから。」

「いや、15分掛かるという嘘をついたとは考えないのかね。」

「うん、そこはそれ。嘘じゃなくて保険だから。」


全く意味がわからない。


「ところで足立さんよ。私はここへ来て何をすればよいのか?」

「う~ん……一発ギャグとか、面白トークとか?」

「いや、なんなのだ、その凱旋門の如き高さのハードルは。」

「では、一人漫才を!」

「いや、その理屈はおかしい!!」

「とにかく何でも良いから面白いことをして。」

「どこの『徹〇の部屋』か!」

「いや、『徹〇の部屋』は1つしかないでしょ。それに私は玲衣だよ。」

「そんな話はしていないしその話題を広げるつもりもない。重要なのは無茶振りが過ぎるという一点のみだ。」

「ノリが悪いなぁ。」


何故ここまで言われねばならぬのか。

・・・・・・

この様なテンポのまま1時間ほど経った頃突然足立さんが「お辛いのがお好き?」とまるでどこぞの洋画のタイトルのような発言をされた。

これは、辛いのは得意だと言って男らしさをアピールするチャンスなのではなかろうか。


「お辛いの?舐めないでくれたまえ。私ほどの辛党は、愛知県広しと言えどもそうそう居ないであろう。」

「お~、頼もしくて男らしいね~♪」


よし、計画通りに事が運んだ。ならば次は……


「どの様な物でも持ってくるが良い、例えそれが地獄の業火の如く熱く、閻魔大王を悶絶させる辛さであろうとも我が胃に落としてみせてしんぜよう。」

「いや、そんな恐ろしい物じゃないんだけどさ。」


そう言い足立さんはビンを取り出した。ラベルには『HELL』という英単語とどくろの絵が描かれている。


「この間とある雑貨屋に行ったら売っててね、面白そうだから買ってきちゃった。」

「ほう、それはそれは。実に興味深い。」

「でしょ。じゃあ、はい。これに着けて食べてみて。」

「うむ。頂こう。」


正直に告白しよう。舐めていた。ヘルソースを完全に舐めてかかっていた。どうせ、所詮は雑貨店で売っていたもの。大したことはないだろうと。HELLなどと大袈裟、嘯くのも大概にしろと。つまり私は足立さんから受け取ったクラッカーにヘルソースをドボッとかけたのである。そしてそれを完全に油断しきっている口内へと運んだのである。その結果……


「ぬぐふぉッ!げふぉッ!ぐへッ!」


まるで口から脳まで導火線を引いた爆弾が爆発したような感覚が私を襲った。何なのだこの例えようもない辛さは!いや、痛みを弱めて口の中で起きたものが辛さなら、これはもはや痛み。クラッカーの甘さなぞ、どこへやら。今後一生私は辛い以外の味の感想を言えないのではないか。嗚呼、いつになればこの辛さ、もとい痛みは消えるのか?それとも二度と消えないのでは?いや、そんなことはどうでもいい。水だ!水を所望したい。


「あ゛、足立ざん゛……水を頂けな゛いだろうが。」


まともに発音すら出来ないようだ。


「み、水ね!ちょっと待ってて!」

「有難い゛。」


後に足立さんが言うことには、この時私は足立さんの家にあった2Lペットボトルを丸々開けたらしい。

・・・・・・

その後小1時間ほどして私は帰宅するため玄関にいた。


「あ゛ー大分楽になってきた。」

「大丈夫?かなり悶絶してたけど。」

「うむ、少々舌が痺れている程度だ。問題ない。」

「中々大丈夫じゃないと思うけど。まぁ、いいか。」

「うむ、良く考えずドバドバあのソースをかけたのは私だ。気に病む必要はない。」

「一周回って気に病めって聞こえるよ……。」

「いや!決してそのようなつもりは!」

「フフっ、冗談だよ。また明日ね。」

「うむ、また明日。」


さて、この様な素敵で無駄がなく素晴らしい別れ方をして家に帰った後に気がついた。本を借りていなかったが……まぁ、良いか。

そんなことよりもこの『無思慮な策』の副産物たるこの舌の痺れはいつ治るのだろうか。


およそ3週間ぶりの投稿となってしまいました。

次こそは……次こそは……!

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