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黒髪ユウシャと青目の少女  作者: 姫崎しう
東、そして壁の向こう側
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対面

 次の日朝起きたルーリーノは頭を悩ませていた。ルーリーノが目を覚まして隣に置かれていたのは恐らく今日一日着るようにスティノが持ってきた服。しかし、それは動きやすいようにはなっているが黒を基調としたドレス。


 他に着るものもないし、寝る時にきていたものに比べれば幾分マシであったので仕方なくそれを着てはいるがどうにも落ち着かない。


 ルーリーノがクルクルと自分の姿がおかしくないか首を精一杯回して確認しているとノックの音、次いでスティノが「朝食をお持ちしました」という声が聞こえた。


「朝食は嬉しいのですが……」


 「この服は何なんですか?」とルーリーノが言い終わる前にスティノは「失礼します」と部屋の中に入ってくる。隣には昨日の夕食のように今度は朝食が用意されていて、スティノはそれをルーリーノの隣まで持っていく。


「やはり、お似合いです」


「私としてはいつもの格好の方が落ち着くのですが……」


 初めは笑顔で話していたスティノが、ルーリーノが流暢に東の言葉を話すのを聞いて少し残念そうな顔をする。とはいえ、ここでルーリーノを納得させなくてはせっかく用意したドレスを着替えられてしまうので、あらかじめ考えていた言葉を言う。


「ルーリーノさんのお召し物は今洗濯中で、それしか無かったのです。すいません」


 スティノがそう言って申し訳なさそうに頭を下げるのでルーリーノも納得せざるを得ず溜息をついて「わかりました」と返す。


 スティノが内心自分の行動をほめながら頭をあげると、ルーリーノがスティノに声をかける。


「そう言えば、私の言葉は可笑しくないでしょうか? 自然には出ているのですが、どうにも自信がないんですよね」


「とてもお上手ですよ」


 スティノがそれが本当に残念ですと言う本心を隠しつつ笑顔で返すのを見てルーリーノは不思議な感覚に襲われる。


 昨日までは聞き取るだけでも精一杯だったのに、今ではそれこそ西側の言葉と同じように使える。むしろ同じくらい使えてしまうのでちゃんと意識しないとどちらで話しているのかわからなくなりそうなほどに。


「そう言えばニルはどうしているんですか?」


 自分の所にスティノがこうやって朝食を持ってきたと言う事はニルはまだ朝食を食べていなのではないのかと思いルーリーノが尋ねる。


 ルーリーノの話を聞いてスティノは一瞬ポカンとして、何かを思い出したように扉の方へと小走りで向かった。ルーリーノがその様子を首をかしげて見ていると、扉の向こうからニルが姿を現す。


 その格好は詳しくはわからないが、いつもきているようなマントを羽織っている。


「ニル、おはようございます」


 とりあえず服の事は置いておいてルーリーノはニルに挨拶をする。「ああ、おはよ」とニルがいつものように短く返す。


「今日も目立つ服着てるんだな」


「これは、私が用意したのではなく」


 ニルの言葉にルーリーノが抗議の声を上げ始めたところでニルが「いいだろ、今までそういう服着ることなんてなかっただろうしな。似合ってないならまだしも」と何気なく言うのでルーリーノは思わず黙ってしまう。


 それからルーリーノは自分が動揺している事を隠すかのように慌てた声を出す。


「どうして、ニルはいつもの格好なんですか?」


「それはですね、ユメ様が街に行くのならできるだけニルさんには顔を隠してもらえと仰っていたからです」


 ニルの代わりにスティノがそう言うと、ニルが「と、言うことらしい」とそれに乗っかる。それを聞いてルーリーノは納得する。ユメの意図は正確には測りかねるがルーリーノと違いニルはここ東側であっても目立つ。


 東側にユウシャの話がどの程度残っているかはわからないが、下手すると目立つどころか敵視される可能性もある。ルーリーノはそこで東の住人である所のスティノの存在を思い出す。


「スティノはニルがどう言った人物かってことは知ってるんですか?」


「西から来られた方としか。髪や瞳がとても珍しい色をしていらっしゃいますので普通の方ではないのかも知れませんが、すみませんが私は存じ上げておりません」


 スティノが恭しく頭を下げるのでルーリーノは首を振ってから「ありがとうございます」と安心した顔で礼を言う。それを聞いてスティノもホッと一息ついてから頭をあげた。


「とりあえず、朝食を食べながらにしないか?」


 話が一区切りしたと思ったニルがそう言うと、ルーリーノが少し驚いた顔をする。


「ニルもまだ朝食を終えてなかったんですか?」


「ああ。最初スティノが俺のところに来たんだが」


「私がその後でルーリーノさんの所に行くと言うと、それなら一緒に食べた方が私も楽だろうと一緒にこちらに窺ったのです」


 ニルの言葉を受け継ぐようにスティノが言う。


 ニルがスティノと一緒に入ってこなかったのはニルなりに気を使ったと言うところかと、ルーリーノは現状を把握する。


「それなら、いただきましょうか」


 と言うルーリーノの声を合図にどちらともなく手を出し始める。


 朝食として出されていたのは上に蜂蜜のかかったパンケーキ。香りが強いわけではないが、口に含めばバターの香りが広がる。上に蜂蜜がかかっているためかパンケーキ自体は甘さ控えめで、むしろ塩味の方が僅かに強いようにも感じる。


「今日のご予定は、お食事の後に街に行かれると言う事でよろしかったでしょうか?」


 ニルとルーリーノが食べている横でそれを見守るように立っていたスティノが二人に尋ねる。今日の予定自体ニルの言葉によるものでルーリーノはよく分かっていないのでニルを見ると、ニルが「そうだな」と口にした。


「その後に王に会いたいってところだな」


「それに関しましてはすでにユメ様には言っていますので滞りなくお会いできると思いますよ」


 すらすらと答えるスティノにニルが「そうか」と返した。



 朝食を終えスティノに率いられて城の外に出る。城の周りには特に城壁のような強固な壁はなく、敷地を示す程度の柵が歪な円状にたてられていた。


 ニルとルーリーノにしてみればそれだけでも驚きなのだが、一歩敷地の外に出てまた驚く。


 町へと続く道はしっかりと舗装、整備されていて何故か三つに区切られている。三本に分けられた道の外側の二つは似ていて、人が四、五人程度並んで歩くことのできる広さがある。中央はさらに広く、さらにその中央には線が一本走っていた。


 ルーリーノ達はその右側の道を歩く。


「どうして、この道は三つに分けられているんですか?」


「正確には四つですね。外側の二本が人の歩く道で、中央の二本が車が通る道です」


 車と聞いてルーリーノは馬車を想像する。確かに馬車がすれ違うのであればこれくらいの幅は必要かもしれないし、何かを運ぶ上で馬車が通る道を確保しておくと言うのは実に効率的な気がルーリーノにはしていた。


 そんなルーリーノの横を馬車とは思えない速度の何かが通り過ぎて行く。ルーリーノは慌てて振り返り通り過ぎていったものを確認した。


 何か箱のようなものがタイヤの上に乗っていると言う見た目で、何かに引かせているわけでもないのに走っている。


「あれが車なんだな」


 ニルが特に驚いた様子もなく言うと、スティノが「そうです」と答える。


「正確には魔動車と言います。魔力をエネルギーとして、中の動力を動かして走っています。とは言いましても今の段階だと一部の魔力の扱いに長けその量の多い人にしか動かすことはできませんが」


 ルーリーノはスティノの説明が信じられないと言うような表情をしていたが、実際に現物を見た後言うこともあって何とか納得は出来た。


 そんなルーリーノを見ながらスティノが心の中で微笑んでいると、ニルが道に一定の間隔で立っている細い棒状のものに手を触れスティノに尋ねる。


「さしずめこれは魔灯ってところか?」


「よくお判りになりましたね」


 とスティノは驚いた表情を見せたがすぐに説明を始めた。


「これは先ほどの車などを使った時に出る魔力の残滓を集めて夜になると光ると言うものです。魔灯や魔動車と言うのは封印される前のユメ様がつけた名前らしいですね」


 その説明の中ルーリーノが首を上にあげて棒の先を見ると、先の曲がった棒にランプのようなものがぶら下がっていた。



 街につくと、意外と建物は西側のそれと大して変ってはいなかった。しかし、先ほどの道に加え今度は時間によって青と赤に光る魔灯のようなものがあったのでルーリーノがスティノにそれは何かと尋ねる。


「それは信号ですね。どうしても人が車が通る道を渡らなければならない際、青く光っている間なら渡っても良いと言うものですね」


 なるほど事故を防ぐためかとルーリーノは納得して改めて信号を見上げた。魔灯に似てはいるが、二つのランプが並んでぶら下がっている。


 試しにと言う事で丁度青信号になっている所で渡り少し歩いたところで、スティノが二人にどこか行きたいところがあるのか訊こうと立ち止まったとき「あら、スティノじゃない」と声をかけられた。


 スティノが驚いて声のした方を向くと馴染みの顔が手を振っていた。


「エストさんこんにちは」


 スティノがそう挨拶をしている間に、ニルとルーリーノもそちらを向くと、三十歳ほどの男女がニコニコと笑っている。二人とも目の色は黄色く、耳が尖っていることも尻尾や羽が生えていることもない。


「なんだスティノ今日は可愛い子連れてるじゃないか」


 男の人が女の人の冷たい視線にも気付かずに、ルーリーノをマジマジト見ながら言う。スティノはそれを聞いてくすりと笑うと声を出した。


「この方々はユメ様のお客様ですから変な事をすると奥さんとの離婚だけじゃ済まなくなりますよ? 旦那さん」


 それを聞いた男の人から一気に血の気が引いて行くのと対照的に、女の人が興味ありげに二人を見た。


「噂には聞いてたけど……と、言うことはスティノもしかして仕事中だった?」


 女の人の言葉にスティノが頷くと、女の人が少し申し訳なさそうな顔をして「引き留めてごめんね」と言う。


 スティノは一度ニルとルーリーノの方を向き、二人が首を振るのを確認してから「大丈夫ですよ」と笑顔で答える。


「お詫びと言っては何だけど、これ持って行って」


 女の人はスティノに何かを手渡すと、ニル達に頭をさげスティノに手を振り、それから男の人を引きずるようにして何処かに行ってしまった。


「今の人、西の人だよな?」


 男女の姿が見えなくなったころニルがスティノにそう尋ねる。


「はい。エスト夫婦と言って、この街一のパン職人です。城で出しているパンもあの方たちのお店から取り寄せてるんですよ」


「それでパンを持ってるんだな」


 そう言ってニルはスティノの手元に視線を移す。その視線に合わせてスティノも視線を移して自分がパンを持っていることを思い出す。


「是非お二人で分けてください」


 スティノは躊躇うことなくそれをニルに渡そうとする。しかし、ニルはそれを受け取ることはしない。どうしたのだろうとスティノが思っているとルーリーノが代わりに答える。


「それはスティノが貰ったものですから、私たちが貰うわけにはいきません」


 ルーリーノの言葉の後にニルが「ま、そう言うわけだ」と言うので、スティノは少し困った顔をしてそれから手に持っていたパンを可能な限り三等分に分ける。それから三つになったパンを一個ずつニルとルーリーノに手渡す。


「これならいいですよね?」


 半ば押し付けられるように渡された二人は少し呆れたように頷いて手に持っているそれを食べ始めた。


「お城で食べた時もそうでしたが、本当に美味しいですよね」


 ルーリーノがそう言うと、スティノが本当にうれしそうに「そうなんです」と返した。




「お二人はどこか行きたい所はあるのですか?」


 二人がパンを食べ終わるのを待ってスティノがそう尋ねると、二人とも考えるそぶりを見せる。


「そう言えばスティノは街にはよく来るのか?」


 突然のニルからの質問に少し戸惑ってしまったスティノであるが、すぐに答える。


「はい、私の仕事は基本的に街への買い出しと言ったものなので」


「そしたら、スティノがよく行く場所に連れて行ってくれないか?」


 スティノはそれを聞いて、キョトンとした顔で首をかしげる。それから「それでよろしいのですか?」と声を出した。


「ああ」


 とニルがスティノに返すのをルーリーノはどこか仕方ないという表情で見ていた。



 スティノの「街にはよく来る」という発言を証明するかのように、スティノは行く場所行く場所誰かしらに声をかけられた。種族もバラバラで妖精の子供から獣人の老人まで幅広くその事はニル達を驚かせるには十分であった。


「やっぱり東側にはいろんな種族の人が住んでるんだな」


 一通り街を見て回って、丁度いい時間になったので度々スティノが訪れるというお店で昼食を取りながら、ニルそう感想を述べた。


「ここまで多くの種族が一緒に住んでいるのはここくらいなのですよ」


「そうなのか?」


 スティノの返答にニルが少し驚いた声を出す。スティノはそんなニルの反応を見て説明を加え始める。


「知っての通り東側には多くの種族の人がいます。そしてその数だけ習慣や伝統なども違うのです。ですから、基本的にそれぞれの種族は別れて暮らしています。例えば妖精やエルフは伝統的に森の中、特に静かな森で暮らしていますし、そもそも水の中でしか暮らせないような種族もいます」


 聞きながらニルは周りを見渡す。西のギルドなどに比べれば全くと言っていいほど粗野な感じはしないが、どこかそれに近いような賑わいを見せる店内はいくつも分けられたテーブルの一つ一つに異なった種族の人が座っている。


 それを見ているとスティノの言葉が少し信じがたい気もするが、むしろ今こうやって色々な種族が同じ席に着いているという光景の方が異質だという気がニルにはしてくる。


 それから一つ疑問が浮かんだのでニルは口を開いた。


「どうして、ここはこんなに多くの種族が一緒に住んでいるんだ?」


「王がいる街だから……ですね」


 ニルの疑問にルーリーノが間をほとんど置かずに答える。その速さにスティノは唖然としてしまったが、ルーリーノの答えに付け加える。


「ユメ様の方針ですね。各種族の伝統・習慣は極力残しつつ東側を発展させていく、そのためにはどうしても各種族が交わる地が必要だったためユメ様がいるここをその場所にしたのです」


 「なるほどな」とニルが納得した頃には全員昼食を終えていたので、スティノが三人分のお代を払って店の外に出る。


「すいません。私達こちらのお金は持っていませんでしたね」


 ルーリーノが少し申し訳なさそうに言うので、スティノは笑顔で首を振る。


「いいのですよ。貴女方はユメ様のお客様なのですから」


 そこまでスティノは言ってあることを思いつきそのまま続ける。


「ただ、どうしてもと言うのであれば、今度はもっと露出度の高いお召し物を着ていただけますか?」


 スティノの言葉にルーリーノは困ったような表情で「それは……」と断る。そんなルーリーノの様子を見てスティノは満足したような表情をつくると「それでは行きましょう。ユメ様がお待ちかねです」と城への道を歩きはじめた。




 城に着くと休む間もなく「では、ユメ様の所へお連れしますね」と言ったスティノに率いられ一段と大きな扉の前にやってきた。それをスティノが押すと思いのほかに簡単に開きスティノは恭しく頭をさげ「どうぞ、お入りください」中にはいるように促す。


「スティノは来ないのか?」


 ニルが尋ねてみると、スティノは頭をあげてから口を開く。


「ユメ様が三人だけで話したいとのことでしたので私は入ることはできません」


 そう言って改めて頭を下げる。それにニルは「そうか」とだけ返して中に入った。


 二人が中に入ったところで扉が閉められ、二人の眼前には如何にも王座と言った光景が現れる。二人の位置から王座まではそれまでに距離があり、王座には一人の女性が座っている。


 それを見た瞬間ルーリーノの中に違和感が生まれた。その違和感は王座に近づくに連れて驚きへと変わっていき、王座の目の前女性がニルと同じ黒の髪と黒の瞳を持っているのだと確信できたときルーリーノは言葉を失った。

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