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黒髪ユウシャと青目の少女  作者: 姫崎しう
東、そして壁の向こう側
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大陸の東

 ルーリーノはユメの言葉を聞いて、その人物が何者であるのかと考えはじめた。亜人に敬われ、西側から来たルーリーノ達が殺しに来るような人物。ルーリーノはそのような存在を一人しか知らない。


 マオウ。そうであるなら、亜人たちは彼女に敬意を払い、ルーリーノ達――この場合だとニルなのだろうが――が彼女を討伐しにきたと彼女が考えていても何ら不思議はない。


 しかし、とルーリーノはユメを見る。亜人をまとめるマオウにしては隙が多すぎる。亜人の王と言っても、亜人の上に君臨するのにもう力は必要ないのだろうか? そんな風にルーリーノが考えていると、ユメがいつの間にかルーリーノの隣にまでやってきていた。


「そうそう、貴女の思っている通り私が亜人の王よ」


 そう言ったユメの声で、ルーリーノが驚き身構える。


「大丈夫、危害を加える気はないから。それに、その子もう少しまともな所で休ませたいでしょ?」


 ユメはそんなルーリーノの様子を見て、身ぶり手ぶりを交えながら自分が敵でないことをアピールする。しかし、ルーリーノからするとそれがまた信じられなくて、疑いの目を向けるのを止めない。


「亜人の王である貴女が、どうして西側の言葉を話せるんですか?」


 ルーリーノがそう言うと、ユメは腕を組んで考えはじめ、何かいい案を思いついたとばかりにパンッと体の前で両手を合わせた。


「無断で東側へと立ち入る不審な輩め、大人しくしていれば危害は加えないから黙って城まで来てもらおうか」


 演技などするつもりもないほどの棒読みでユメはそう言うと、「ってことでどう?」と楽しげに言う。その全くと言っていいほど存在しない緊張感にルーリーノも飲まれそうになってしまうが、ちらりとニルを見る事で何とか飲まれずに済んだ。


「これでも駄目か」


 ユメは殆ど変わらないルーリーノの態度にそう言うと「じゃあ、実力行使かな」と言ってニルの方へと歩きだした。


 ユメは歩いていたが、ルーリーノにはそれが消えたように見え、ルーリーノがユメを見つけることが出来たのはユメが寝ているニルを無理やり立たせている状態で「この子に危害を加えられたくなかったら着いてきてくれない?」と言ったあと。


 ルーリーノは今の一瞬全く動けなかった自分と、一瞬にしてニルを人質にとったユメの実力の差を思い知らされ黙って頷いた。




 それからユメは獣人たちに東側の言葉で何かを言うと――なんとかルーリーノには二人を何処かへと連れて行くという内容は聞き取れた――未だ意識の戻らないニルと、ルーリーノの手を持ち、今度は西側の言葉で「じゃ、目を瞑っててね」という。


 変に逆らってニルを傷つけられても困るのでルーリーノが素直に目を瞑ると、数秒と経たずにユメに目を開けるように促された。


 ルーリーノが目を開けて真っ先に目に入ったのは青い色を基調とした高そうな絨毯。あたりを見渡せば、掃除の行き届いた広い部屋の中にぽつりと調度品が置かれ、しかしその調度品もとても高級そうに見える。


 肘掛はないがルーリーノが座るには少し大きくとてもふかふかとした椅子の近くには、ベッドが置いてあり真っ白なシーツに覆われたそれは三人で寝てもまだスペースが余りそうなほどに大きい。


 ユメはフードを被ったまま器用にニルをベッドに寝かせるとルーリーノに声をかけた。


「暴れたりしなかったら、城の中を自由に歩いたり、好きに町に行ったりしてもいいけど……」


「ニルが起きるまではここにいます」


 ユメの言葉を遮るようにルーリーノが言うと、ユメは当然だろうと言う表情を見せる。


「たぶん訊きたい事が沢山あるだろうし、その子が起きて準備ができたら来なさい。後からここに一人付けるから、その子にでも聞いてね」


 そう言ったあと部屋から出ようとユメは扉の方へと歩きだしたが、何かを思い出したようにルーリーノの方を見ると「いじめないであげてね」と言ってから部屋の外に出て行った。


「訊きたいことしかないですよ……」


 ユメを見送ったルーリーノはそう呟いてニルの顔をじっと見つめた。



 気がつくとルーリーノは椅子に座った状態で眠っていて、目を覚ますと肩にカーディガンのようなものが掛けられていた。こんなところで眠ってしまった自分を恥じ、ニルの姿を見て安心した所で「起きられたのですね」と声をかけられた。


 その言葉はもちろん東側のものであったが、何とかルーリーノにも聞き取ることができる。ルーリーノが声がした方を向くと白い髪に青い目、それから長く尖った耳を持ったルーリーノと同じ年頃のエルフの少女が白と黒のエプロンドレスのようなものを着て立っていた。


「これ、は、貴女が?」


 ルーリーノが慣れない言葉でカーディガンを指しながら尋ねるとエルフの少女は、少し焦った様子で口を開く。


「すいません。お食事をお持ちしたのですが、起こすのも躊躇われてしまいまして……つい差し出がましいことを……」


 少し早口になった少女の言葉をルーリーノは初めの方しか聞き取ることができず返答に困る。


「えっと、できれば、もっとゆっくり、話してもらえ、ない?」


 ルーリーノが言うと少女は何かを思い出した表情を見せ、頭を下げる。


「すいません。東側から来られたんですよね」


 そこで頭をあげてさらに続ける。


「申し遅れました。ユメ様より貴女方のお世話を仰せつかったスティノと申します。何かありましたらお気軽にお申し付けください」


 言いながらスティノはスカートの裾をちょこんと持って、片足を後ろに下げるようにしてお辞儀をする。


 この子がユメが言っていた子かと、ルーリーノが観察するようにスティノを見る。それからお食事という言葉を思い出しふと窓の外を見るとすでに日は暮れていて、しかし、街があると思われるところはとても明るい。


「食事が、あると言いましたね? いただいても、いいです、か?」


「あの……お持ちしたのが、少し前でしたので……」


 そう言ってスティノが困ったように視線を下げる。ルーリーノはそうだろうなとスティノを見ながら言葉を選ぶ。


「それでも、大丈夫、だから。でも、一つだけ、頼んでもいい?」


 ルーリーノの言葉にスティノは首をかしげながらも「わかりました」と答える。それから「頼みとはなんでしょうか?」とも。


「その食事、一緒に食べて、くれない?」


 それを聞いたスティノが「よろしいのですか?」というので、ルーリーノは「ええ」と返す。それから「失礼します」と頭をさげ足取り軽くスティノが部屋の外に向かった。


 すぐに戻ってきたスティノは車輪のついた棚のようなものを押しながら入ってきて、その上にはパンやシチューと言ったものが乗せられている。スティノはそれをルーリーノの隣にとめた。


 部屋の中に椅子はルーリーノが座っている以外にもいくつかあるので、スティノはそのうちの一つを持って来るとルーリーノと向かい合うように座る。それから、話し難そうに口を開いた。


「あの、そのフードはお取りにならないのですか?」


 そう言われてルーリーノは未だに自分がフードをかぶっていた事に気がついた。それから、目の前の少女の容姿をじっと見てからフードを取る。その瞳は今はもう青ではなく元の赤へと変わっていた。


 スティノはフードを取ったルーリーノの顔に見とれてしまう。それから、無意識に手を伸ばすとルーリーノの頬に触れた。


「燃えるように綺麗な赤い目……」


「あの……」


 何かに取りつかれたように呟くスティノにルーリーノが若干の恐怖心を抱きながら声をかけると、スティノは自分がしていることに気がつき慌てたように手をバタバタさせ、最後にはとても恐縮そうに椅子の上で小さくなった。


 その時に何かを言っていたようだが、ルーリーノにはそれを聞き取ることができなかった。


「すいません……綺麗な目をなさっていたのでつい……」


 全く覇気のない声でスティノは謝ったが、ルーリーノとしてはどう返していいのかわからず無言になってしまう。


 ひとまず話を変えなければならないと思って、ルーリーノは「よかったら、食べませんか?」と自分が用意したわけではないのに、そうスティノに勧めた。


「あの、ルーリーノさんは食べないのですか?」


 勧められ食事に手をつけそうになったスティノが不思議そうな顔で尋ねる。そこで、ハッと何かに気がついたような顔をして、スティノはルーリーノが答える前に口を開いた。


「なるほど、毒か何か入っていないか確かめるために私から食べさせようと言うわけなのですね」


 自分で口に出して納得したのか、スティノが謎が解けたと言うように晴れ晴れした顔をする。考えが読まれたルーリーノとしては苦虫を噛み潰すしかないわけだが、謝ろうにも言い訳をしようにもすぐには言葉が出てこない。


「あの、ごめんなさい」


 結局そう言うことしかできなかったが、スティノはまるで気にしていないと言う風に、むしろ楽しそうに首を振った。


「いえ、ルーリーノさんがいつも危険が伴うような生活を送っていたのは聞いていましたから。それよりも、そう言った物語のような生活を送っている方が目の前にいると思うと何と言いますか、ふわふわした気分になります」


 そう言ってスティノは安全だと示すようにパンを半分に千切って食べルーリーノに手渡す。それから少しの間はスティノが食べたものしか口にしなかったルーリーノであるが、徐々に自分が食べたいものを食べ始めた。


 先ほどのスティノの言葉を聞いてルーリーノは妙な気分に取りつかれていた。西側において自分のような生活を送っている人というのはそれなりの数がいるはずで、そのような人物にあったとしても特に感動することなどない。人によっては毛嫌いする人もいる。


 ルーリーノは「東側には冒険者はいないんですか?」と尋ねようと思ったが「冒険者」に当たる単語が分からなかったため、少し考えてから口を開く。


「私の、ような人は、こちらにはいないの?」


「昔はいたようですが、今はいないですね。亜獣を倒すのは兵士の役目ですし、町と町を繋ぐ道は整備されていて安全です」


「町を繋ぐ道、で、襲われることは、ないの?」


 ルーリーノが西側の常識で尋ねると、スティノが目をぱちくりとさせ首をひねった。


「えっと、人が人をと言うことですか?」


 はじめルーリーノは「人」という言葉を亜人に使ったことに違和感を覚えたが、東側では亜人の方が主なのであるからそれで正しいのかと妙な感動を覚えた後で、スティノの問に答えるように頷いた。


「全く無いとは言いませんが、そう言う意味では町中でも起こるときは起こりますし、それも滅多にはありません」


 話を聞いていてルーリーノは自分の中の何かが崩れて行くようなイメージを受けた。西側と根本的に何かが違う。


 これ以上話されると本格的に混乱してしまいそうだったので、ルーリーノは話を変えようと別の質問を投げかける。


「スティノ、さんは、魔法を使えるの?」


 スティノは「私に『さん』は必要ないですよ」と言ってから答える。


「使えます。ここで働くための最低条件ですから。むしろ、使えない人の方が少ないんじゃないでしょうか?」


 やはりそうかとルーリーノが思っているとスティノはまだ続ける。


「でも、魔法が使えないからと言って不利になることはないですね。例えば」


 そう言ってスティノはポケットから丸い何かを取り出した。それはスティノの手に収まるくらいの大きさで、三本ある針の内の一つがカチカチと音を立てて動いている。


「こう言った魔力を介さない時計なんかはそう言った人たちが作ったものですし、魔法具の多くもそう言った人たちが関わっているのだそうです」


 今スティノが手に持っている物が時計? と思わずルーリーノは首をかしげそれを凝視する。ルーリーノはひとしきりスティノの華奢な手の上にあるもので驚くと、ある意味最も気になっていたことを尋ねることにした。


「東側には、西側の人、は、いるの?」


「いますよ。先ほど言った魔法が使えない人のほとんどがその人達ですから」


 スティノはどうしてそのような事を聞くのだろうと不思議に思いながら答えたが、ルーリーノは東側で所謂「人」が普通に暮らしていることに驚いた。そして、それならばと質問を重ねる。


「じゃあ、西の人と、東の人が、子供を作ったり、とかは?」


 スティノはルーリーノの言葉を聞いて何故か頬を赤らめてしまったが「えっと、あの」と話し始める。


「珍しくはありますがそれなりにいると思います。だって私も」


 「その一人ですから」とスティノが言い終わったときルーリーノは驚きのあまり何も言うことができなかった。

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